トップが語る、「いま、伝えたいこと」

　昭和４８年ごろのことです。ダイエーのコンサルタントをしていた頃、松下電器がダイエーに対して電気製品を卸してくれないので、売ってもらえるようにとたのみに行ったことがあります。当時、アメリカはとても進んでおり、日本は普通、中国は遅れている国といっていい状況でした。その際、松下幸之助さんにこう言われました。「船井さん、いまは資本主義の時代です。日本人が１時間働いて１００円稼げるとしたら、アメリカ人は１０００円稼げる。中国人では、１０円しか稼げない。同じブラウスでも、日本で１０００円で売れるのであれば、アメリカでは、５０００円で売れる、中国だと１００円でしか売れない。同じ時間働いて高い給料をもらい、同じものを高く売れるのが資本主義の目標じゃないですか。だから、同じものを安く売ろうとするダイエーは、資本主義の敵なので、松下はダイエーには売りたくないのです」と。そのときは確かに、その通りだなと思いました。
　しかし、資本主義というのは、それ自体にとても矛盾があります。同じものなら高く売るより、できたら安く売ってあげるほうがいいと、私は思うのです。去年まで、東京の高輪に住んでいましたが、何もかも物価が高かったです。それが、熱海に転居してから買い物に行くと、おどろくほど安値なのです。もっと、田舎の方に行くともっと安いでしょうし、中国に行くとさらに安くなります。
　最近、熱海のあるホテルで食事をしたのですが、そこは場所も一等地で、料理も東京で食べるとしたらおそらく３万円はくらだないだろうという内容でした。しかし、ホテルの人に値段を聞いてみたところ８千円という安さで大変驚きました。地域差というのはありますが、東京と熱海というだけでこんなにも値段が変わってくるものなのかと改めて思いました。
　また、熱海のすぐ傍の函直所に、シルバーセンターがあり、そこに登録をした地元の農家の人たちが自家製の野菜や乾物、お餅などを持ち寄り販売しています。シルバー熱函直売所というところですが、ここは、すべての商品が東京の３分の１くらいの値段で入手できます。しかも固定客が多いので身体に悪いものも置いていません。
　私は、そのシルバー熱函直売所のお餅が好きで、ときどき買いに行きます。こういう良心的なお店が、商売人ではなく、ほとんどボランティアで老人たちによって運営されているのです。シルバー熱函直売所は、農家の人たちがお互いのつくったものを持ち寄って安値で、互いに助け合って生きていくという、人間の本来あるべき生活に戻れるのではないかという気持ちにさせてくれます。
　そこに、都会の徹底した個別対応をうまく組み合わせていけば、新しい形の素晴らしい仕組みができあがると思います。
　良心的な人たちが助け合い、まともな仕組みをつくって本物の商品を安く提供していく。それがこれからの商売の理想的な姿ではないかと思います。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＝以上＝