トップが語る、「いま、伝えたいこと」
株式市場は相変わらず不安定な様相です。根本の要因はアメリカの中間選挙の行方が不明確で、与党共和党が勝っても野党民主党が勝ってもどちらにしても先行きが不透明で見通せないことでしょう。投票日が11月3日なので時差の関係はありますが、もうすぐ結果も出てくると思いますので、2週間後に書かせてもらう時には、ある程度の方向性は見えていたらいいなあと思っています。もうひとつの不確定要因はAI半導体セクターの巨額投資が合理的なのかどうか。これは、アンソロピックがIPO(株式公開)の目論見書を出したことで前向きになってきたように感じます。
日本で見ると、質への逃避として長期国債が買われるようになってきて金利が多少下がり気味なのはいい傾向です。5年ぐらい前までは、有事の円買いと言われて紛争等が話題になると円高になる傾向があったのですが、それが原点に戻ってドル買いに変わってしまいました。いまはアメリカの先行きがまったくわからないし、ヨーロッパも混乱していて中国もなんかおかしいので、対外資産を多く持つ日本の国債が消去法で買われる動きが、一時的だとは思いますが復活してきました。この流れが続くように、日本全体で信認を保つ努力をしたいものです。
私がニューヨークにいた1990年代初頭の日本は、何か困ったことがあれば輸出ドライブを加速してしのぐというのが一般的でした。それが貿易摩擦の原因になって失われた30年を作ってしまったのですが、いまの基調は貿易赤字なので輸出を増やしていこうと考えていけたらいいですね。大企業は、ますます人手不足が深刻になっていく国内にサプライチェーンを築き直すことは現実的ではないのであまり期待できません。ここは、中小企業の出番のような気がします。輸出と言われても困るという会社も多いと思いますが、より大きな海外マーケットに目を向ける機会にしていただけたらと期待しています。
不安定要素が強いので、総論から言えば、まだ株価は下がる可能性があります。日経平均で6万円割れぐらいの水準はあり得ますが、基本的には気をつけながらも投資継続でいいのかなと思います。特に、長期投資を志向する多くの初心者の方にとっては、下がった時こそ買っていくべき時だと思いますので、ぜひトライしてみてください。アメリカは日本よりも混乱する可能性が高いので、私なら国内株を中心に考えたいのですが、リスクが大きいとリターンも大きくなるのも真実です。自己責任でいろいろ考えて、決断してもらえればと思います。
今週紹介するのはAI関連というぐらいしか前半と脈絡はないのですが、新井紀子著『夏蜜柑とソクラテス』(草思社)です。この本のことは楠木建、山口周共著『知的生産のセンス』(日本経済新聞出版)を読んで知りましたが、新井先生は楠木先生と同じ一橋大学のご出身です。算数・数学が嫌いで一橋に入ったのに、大学の授業でいつまでも練習問題を解かない数学に出会ってアメリカに留学して数学者になったという変わり種です。新井先生は「ロボットは東大に入れるか」(東ロボくん)プロジェクトの総責任者を務められたことで有名になりました。このプロジェクトは東大には合格できないが有名私大なら合格できるレベルになり得るというのが結論でした。
当時はまだ生成AIが世の中に出る前夜で、いまの生成AIなら簡単に東大合格レベルまでいける学習能力があります。そして、このプロジェクトをまとめた『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)が大ブレークして同書は「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞されました。新井先生はエッセイを書いたつもりはなかったのですが、かねてから林真理子さんのエッセイにあこがれていたこともあり、編集者にエッセイを書きたいと言ったことから本書が誕生したそうです。ちなみに、教科書の文章の意味が理解できていない子どもたちが大勢いて、それを何とかするための活動で日々ご活躍されています。
数学者と言うと、一般人からすると縁遠い存在に感じられます。文系と理系の違いもありますが、違う世界を生きている、価値観や感性が違う、そんな印象を受けます。たまたま学生時代に一緒に麻雀をした友人の友人だった理系の学生と話がまったくかみ合わなかったことをいまでも思い出します。そんな超一流の数学者の、言い方は悪いですが、平凡で合理性を重視しているとは言い難い日常と、時おりみせる鋭い世界観に引き込まれてしまいました。著者の理論と感性が合わさった独特ながらどこか共感できる不思議な世界観です。
少しだけ中身を見ていくと、最初の「人工知能が情緒を感じるようになる日」というエッセイの電子レンジの話は象徴的です。AIの国家的なプロジェクトを率いたのに機械が嫌いでレンジすら使わないのだという機械への抵抗を綴っています。電子レンジの一定の合理性は認めつつも、アナログ的な調理方法の方が優位であるのに選ばないのは何故かを考え、説明を試みる。感情的な部分と論理的な部分が合わさり、本の内容を読者に簡潔に伝える素晴らしい構成です。
本の題名にもなっている「夏蜜柑とソクラテス」というエッセイもそうです。実りと自然、自宅における日常と、そこから感じる情緒。AIなどの最先端技術を積極的に利用する数学者としての要素を持ちながら、ワープロにさえ抵抗を見せる姿勢。ダブルスタンダードではない、異なる二つの要素を取り入れ、自己として形成していく。どちらかが正しいのではなく、どちらも正しい要素がある、大切に扱えば意味を持つ、そんなメッセージ性を感じます。このエッセイの落ちというか結論にはソクラテスの戒めも出てきます。
全編を通じて、美味しそうな食べ物の話題、自らの思い出、時々混ざる数学者としての顔。まるでサウナ、交互浴のように心が温まり、心が穏やかに癒されていきます。感性を重視する年配の世代と、合理性を重視する若い世代。その両方の面を併せ持っているといえる著者の生き方やスタンスは両世代間の価値観の隔たりを埋めるヒントになるかもしれないと、私には思えました。極端であることも時には重要ですが、違う価値観や思想由来のものだとしても、良いものは受け入れていく柔軟性を持つ。これは年齢や人種など、多種多様な方との共生という昨今の課題を解決する意味でも、大切な部分なのかもしれません。
数学者のエッセイというと岡潔先生の『春宵十話』(角川ソフィア文庫等)が有名で、父も大好きで影響を受けていました。岡先生のエッセイは情緒が主要テーマだったように記憶していますので、新井先生も意識されたのかもしれないという想像を膨らませながら読むと、とても楽しくなりました。
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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役会長ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 あたみ・パンダの森ほいくえん 学園長 株式会社ヴォイス 代表取締役会長 他 1964年8月5日、大阪生まれ。大阪府立北野高等学校、関西学院大学法学部政治学科卒業。 大学卒業後13年間、私立中高一貫教育校の英語科教員として従事。2001年4月、株式会社船井総合研究所に入社。舩井幸雄より「人づくり法」の直伝を受け、企業幹部向け研修「人財塾」として体系化、その主幹を務め、経営者向け、社内研修向けに150回以上の講演、研修を実施した。2003年4月、株式会社本物研究所を創設し、代表取締役社長(現在会長)に就任。商品の「本物」、技術の「本物」、生き方、人づくりの「本物」を研究、開発し、広く啓もう、普及活動を行う。また、2008年にライフカラーカウンセラー認定協会を、2012 年5月には株式会社51 Dreams’Companyを、2015年9月に株式会社51コラボレーションズを設立。(2023年本物研究所と合併)さらに、2015年1月、舩井幸雄の思想、哲学を世に広めるために、公益財団法人舩井幸雄記念館を設立し、代表理事となる。2021年2月には、株式会社51メディカルを創業。そして、2022年11月、小規模保育事業B型として、「あたみ・パンダの森ほいくえん」を設立。学園長に就任。 2026年6月にヴォイスグループ5社を経営統合し、代表取締役会長に就任。現在に至る。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく 幸感力』(ごま書房新社)、『ズバリ船井流 人を育てる自分を育てる』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)、『私だけに教えてくれた 船井幸雄のすべて』(成甲書房)、『本物の法則』(ビジネス社)※船井幸雄との共著、『あなたの悩みを解決する魔法の杖』(総合法令出版)、『幸感力で「スイッチオン!」』(新日本文芸協会)、『SAKIGAKE 新時代の扉を開く』(きれい・ねっと)※舩井勝仁との共著、『幸せになる働き方の法則』(創藝社)、『舩井幸雄の魂が今語りかけてきたこと』(ヒカルランド)※矢山利彦氏、舩井勝仁氏との共著がある。 講演は、年間講演、研修多数。会社経営、学校経営、幹部育成、健康、食育、カウンセリング、話し方など、幅広いテーマで多数の講演を行っている。 |










株式会社船井本社 代表取締役社長



















