中村陽子の都会にいても自給自足生活

このページは、認定NPO法人「メダカのがっこう」 理事長の中村陽子さんによるコラムページです。
舩井幸雄は生前、中村陽子さんの活動を大変応援していました。

2017.02.20(第29回)
自家採種を守っている農家たち

 現代は、自家採種を守ることが容易ではない時代です。その中で、メダカのがっこうの農家の米作りは、毎年、次の年に蒔く種籾を確保しておく自家採種を守っています。

 これに対し、一般のほとんどの農家は、毎年種を買っています。これを種の更新と言い、農協が推し進めています。それどころか、兼業農家のほとんどは、種から苗さえ育てず、農協から苗を買っています。
 稲作りの作業と言えば、トラクターで田んぼの代かきをし、畦塗り機で水漏れしないように畔を作り直し、田植機で苗を植え、除草剤を撒いたら、あとは水管理をし、稲刈りまで田んぼに入りません。穂が出たらカメムシ防除と言って殺虫剤を撒き、成熟したらコンバインで稲刈りをします。1年間に数日間の労働でお米がつくれます。
 農協から買う苗は、種のうちから農薬で消毒され、高い温度で発芽させ短い期間で育てた苗なので、病気や虫に弱く、農薬や化学肥料が必要になります。こうして一般農家は、種、苗、農業機械、農薬、化学肥料は全て農協から買います。その代わり農協は、収穫したお米はまとめて買いあげてくれて売ってくれます。

 しかし、その買い上げ価格は1俵(60kg)あたり一万円前後という低価格なので、米作りをする農家に後継者などでてくるはずはありません。創業当時、農家の味方であったはずの農協は、今や管理者側に徹してしまっていて、日本の農業を守ってくれていません。
 これに対し、自家採種をし、農薬や化学肥料を使わずに稲作りをする私たちの農家たちは、農協を通してお米を売ることは出来ないので、自分でその価値を分かってくれる消費者を探すことになります。メダカのがっこうはこの素晴らしい農家たちを守るための消費者のサイドから作ったNPO法人です。買い上げ価格も1俵当たり、48,000円〜30,000円を下限にしています。農薬化学肥料を使わずに日本の田んぼ環境や種を守ってくれている仕事内容や仕事量からいって、これでも安すぎるくらいです。

●種を更新させるための仕組みに乗らない苦労
 数年前、新潟県では、BLコシヒカリという種以外で作ったお米を、新潟産コシヒカリと認めないという方針を出しました。私たちが応援している佐渡トキの田んぼを守る会の農家たちも、JA佐渡からその方針が出され、かなりの農家が従っています。BLコシヒカリを使わせる理由の一つに、イモチ病に強く、農薬が減らせるというものがあります。しかし私たちの稲作り方法、成苗疎植だと風通しも良く、丈夫な苗なので病気にももともと罹りません。
 種には農薬や化学肥料が必要なように設計された種と、そうでない種があります。私たちは農薬や化学肥料を必要としない種を長年守り続け、また丈夫な苗創りなどの技術があるので、全くBLコシヒカリにする必要がないと判断し、今までのコシヒカリを作り続けてくれるよう、農家にお願いしました。もちろんそのお米は全量メダカのがっこうの会員で買い取ることになります。私たちの趣旨に賛成の数件の農家がこの申し出を受けてくれ、今でも従来のコシヒカリで作り続けてくれています。そしてその種を自家採種してくれています。

 しかし、買い手がついていないお米に関しては、JAに従わざるを得ません。というのは、このBLコシヒカリを使わない限り、新潟産コシヒカリと認めてくれないだけでなく、1俵あたりの買取価格が違うからです。そして当然種は毎年買わなければいけません。毎年更新することが、条件だからです。

●自家採種を守ることはどうして大切か
 自家採種を守るためには、毎年、栽培しなければなりません。前述したように、化学肥料や農薬が必要となるように設計された種がどんどん開発されています。農家が種籾用の種をとっておかずに、こちらの種に変えて栽培してしまうと、1年で従来の種がなくなってしまいます。
 この危機が佐渡では1度ありました。ある年、メダカのがっこうがお願いした従来のコシヒカリの種での栽培をしてくれた2軒の農家を残して、ほか全員が新潟県とJA佐渡の方針であるBLコシヒカリに変えてしまいました。ところが収穫後、米屋や数軒の大口消費者から、炊き上がってから時間が経つと味が落ちるということで、従来のコシヒカリに変えて欲しいという依頼がありましたが、種が足りなくなってしまい県外から調達しました。

 自家採種という植物にとって当たり前のことは、今や農業から姿を消しています。99%が毎年種を買って農業をしています。種はF1種と言って、1代限りの交配種になり、種ができても同じ形の作物はできないように操作されています。遺伝子組み換えも、除草剤や農薬とセットで設計されています。今では禁止されていますが、自殺種と言って、種ができないように操作する技術もあります。全ては種を農薬とセットで毎年更新、購入させるための戦略です。

 自家採種は、国家安全保障上の最重要課題です。メダカのがっこうの農家たちがやっていることは、本当に大切な仕事なのです。味や生命力の問題だけではありません。日本の大手の種苗会社がほとんど外資の経営下にあり、種の倉庫は外国にあるのです。米はまだ遺伝子組み換えはされておらず、自家採種をやろうと思えば出来る状況です。国の防衛は食にあり。読者の皆様、どうぞメダカのがっこうの農家のお米を食べて応援してください。

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Profile:中村 陽子(なかむら ようこ)
中村 陽子(なかむら ようこ)
首のタオルにシュレーゲル青ガエルが
いるので、とてもうれしそうな顔を
してい ます。

1953年東京生まれ。武蔵野市在住。母、夫の3人家族。3人の子どもはすべて独立、孫は3人。 長男の不登校を機に1994年「登校拒否の子供たちの進路を考える研究会」の事務局長。母の病気を機に1996年から海のミネラル研究会主宰、随時、講演会主催。2001年、瑞穂(みずほ)の国の自然再生を可能にする、“薬を使わず生きものに配慮した田んぼ=草も虫も人もみんなが元氣に生きられる田んぼ”に魅せられて「NPO法人 メダカのがっこう」設立。理事長に就任。2007年神田神保町に、食から日本人の心身を立て直すため、原料から無農薬・無添加で、肉、卵、乳製品、砂糖を使わないお米中心のお食事が食べられる「お米ダイニング」というメダカのがっこうのショールームを開く。自給自足くらぶ実践編で、米、味噌、醤油、梅干し、たくあん、オイル」を手造りし、「都会に居ても自給自足生活」の二重生活を提案。神田神保町のお米ダイニングでは毎週水曜と土曜に自給自足くらぶの教室を開催。生きる力アップを提供。2014年、NPO法人メダカのがっこうが東京都の認定NPO法人に承認される。「いのちを大切にする農家と手を結んで、生きる環境と食糧に困らない日本を子や孫に残せるような先祖になる」というのが目標である。尊敬する人は、風の谷のナウシカ。怒りで真っ赤になったオームの目が、一つの命を群れに返すことで怒りが消え、大地との絆を取り戻すシーンを胸に秘め、焦らず迷わずに1つ1つの命が生きていける環境を取り戻していく覚悟である。
★認定NPO法人メダカのがっこうHP: http://npomedaka.net/

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