トップが語る、「いま、伝えたいこと」
舩井幸雄は、生前、講演会でのお話や書籍の中の記述に、「志」という言葉をほとんど使ってきませんでした。一般的には、経営者はそれなりの「志」を持つべし……とよく言われるのですが、そうではなかったのです。舩井幸雄独特のこだわりだったのかもしれません。ちなみに、「成功」という言葉も、書籍にはタイトルも含めて使われているものの、「あまり好きでない」と聞いたことがあります。
話をもとに戻すと……、しかしながら、すべての講演会や書籍において、必ずと言ってよいくらいに使われた言葉(テーマ)があります。それこそが、「世のため、人のため」。
ストレートに「志」とは呼ばなかったものの、まさにこの言葉が「志」にほかならなかったのではないかと想像します。具体的には、人々が幸せに生きるための「よりよい世の中づくり」や「豊かさの実現」を追求し、そのために経営コンサルタントとして、また「にんげんクラブ」などの活動を通じて、人々の意識改革や社会変革を目指してこられたのではないかと……。
そういう意味で、舩井幸雄の「志」を4つの軸に因数分解して、私なりに感じたところをまとめますと次のようになります。
1)よりよい世の中づくり
社会の様々な問題(経済、環境、教育など)を解決し、よりよい社会を築くことを目指しました。そのために、経営コンサルタントとして企業を指導するだけでなく、世の中全体をよりよくするための活動を幅広く展開したように思います。
2)豊かさの実現
単なる経済的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさや、自然との調和、持続可能な社会の実現など、真に豊かな世の中を築くことを目指しました。そのために、企業の経営だけでなく、個人の生き方や価値観にも焦点を当て、精神世界の探求も行なわれました。
3)利他の心
「世のため、人のため」という利他精神を常に重視しました。自分の利益だけでなく、他者の幸福を考え、行動することが、真の成功や繁栄につながると信じていたように思います。
4)意識改革
世の中を変えるためには、まず人々の意識が変わる必要があると考えていました。そのために舩井幸雄オープンワールドなど、セミナーや講演会を多く開催し、人々の意識改革を促す活動も行っていました。
舩井幸雄の「志」は今となっては、言葉そのものでキャッチすることはできません。しかし、その「志」の軸は、最終的には私が経営する株式会社本物研究所に集約される形になったのではないかと考えてきました。その点を決して忘れることなく、今後も未来に向けて経営していかねばならないと考えています。つまり、私たちの実践がそのまま社会貢献につながっていくものとするべく努力を続けていきたいと思うのです。
「企業としての存在そのものが社会貢献につながる……。」
創業期から描いてきたビジョンであり、私の「企業観」です。
23年前、経営のド素人であった私は、舩井幸雄から教わることすべてが新鮮で価値に溢れ、まさに「教科書」そのものでした。舩井幸雄が講演で話す言葉の断片、もしくはそれらの塊から想起される世界観が、私の経営の教科書でした。いつしか、一企業として、「世のため、人のため」の存在を目指すことが「夢」となりました。
一企業として、単純に売上げを上げて、利益を出す……。もちろん、企業として存続していくためには、必然、必須の条件です。
22年間、株式会社本物研究所の経営を続ける中で、ある意味、散々「思い知らされた」ことでもありました。お取引先であるメーカーさま、販売店さまの利益を守り、その一方で弊社のさらなる価値を創造し、なおかつキャストたちの生活を守り、生きがいを創造する……。社会貢献のための具体的活動は、それらが十分に満たされてはじめて可能となります。
ただし、そうなってくると、利益が出ないと社会貢献できないのか……という議論になります。そこで、舩井幸雄が、企業には3つの使命、存在意義があると説いたことを思い起こします。
@教育性の追求
A社会性の追求
B収益性の追求
この3つが大事だと言っています。
追求ということは、これを実現しなければいけないということです。
企業経営の第一目的は、教育性(人間性を引き出し高めること)の追求です。それが社会性の追及につながり、ひいては収益性追求につながってくるというのが、舩井幸雄の考え方でした。
少々偉そうな書き方になりますが、経営者は、企業経営を通じて、その経営に携わり、あるいはその経営体から影響を受ける人々をよい方向に導いていかねばなりません。それこそが、なかなか難しいわけですが、すなわち「世のため、人のため」ということになります。ここに、「社会性」のテーマがあらわれます。そして、仕事を通じて、そこで働く人たちの人間性を引き出し、高めるために企業経営を行うのが王道ということになります。
では、人間性を引き出すとはどういうことか?
舩井幸雄によれば、良心に従った生き方をする人間を育てることであり、良心的発想と行為を引き出すことです。人間は人間性を高めるために生まれてきたといいます。現実社会でもっとも多くの人が関わる企業経営の場が、もっとも人間性を高めやすい……。それは、企業経営の世界ほど、日々が不安定で変化に富んでいる世界、そして努力の結果がすぐに出てくる世界は他にはないからだ……と、舩井は続けます。
そうしていくうちに、会社の方向が間違っていなければ、「収益性」につながっていくということになります。つまり、企業は、存在して、企業活動を行っていることで、3つの存在意義があるというふうに理解できます。
なにはともあれ、経営者として費やしてきた22年という時間は、本当に一言では言えない、言葉にはできない貴重なものでした。この役割を与えてくださった舩井幸雄会長(当時はこうお呼びしていました)には、ただただ感謝しかありません。
さて、23期目。
経営者として描き続けてきた「企業としての存在そのものが社会貢献につながる……」姿をまだまだ追及していきたいと思います。
今回の株主総会にて、「社長」という役割は譲りましたが、新たに生まれた「代表取締役会長」という役割をまた果たしていきたいと思います。
感謝

舩井 勝仁 (ふない かつひと)
![]() 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』 |
佐野 浩一(さの こういち)![]() 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』 |
