トップが語る、「いま、伝えたいこと」
誰かの笑顔の奥に、静かな悲鳴が隠れていることがあります。
「高機能うつ」「微笑みうつ」という言葉をご存じでしょうか?
最近、じわじわとこうした症状を持つ人たちが増えているといいます。どちらも周囲から見れば元気そうで、責任を果たし、社交的で、笑顔を絶やさない……。けれど、内面では深い疲労や虚無感を抱え、夜になると涙がこぼれる……。朝は体が鉛のように重く、けれど仕事があるから起き上がる……。そんな「見えない不調」を抱えたまま日々をこなしている人がいます。
高機能うつは、微笑みうつとよく似ています。違いを挙げるとすれば、高機能うつの人は、知的能力や社会的スキルが高く、周囲からの期待を一身に背負っていることが多い……。リーダータイプ、完璧主義者、責任感が強い人ほど、自分の不調を認めることに罪悪感を持っているようです。「自分が倒れたら周りに迷惑をかける」「まだできるはずだ」と自らを鼓舞しながら限界を超えていきます。その頑張りが、いつしか自分を蝕むのです。脳の中ではストレスホルモンが高止まりし、感情の調整を担う前頭前野が疲弊していきます。そして、感情を抑え込み、笑顔を作ることが「生きるための習慣」になってしまうのです。
これまでの社会は「頑張ること」を当然のように求めてきました。SNSでは常に誰かが成功し、誰かが幸せそうに笑っています。その光景を見ながら、人は知らぬ間に「自分もそうでなければ……」と自分を追い込んでいきます。疲れたと言えない……。助けてと声を上げられない……。結果、「笑顔でいること」そのものが、ストレスの仮面となってしまいます。笑顔は、本来、優しさや社交性の象徴であるはずなのに、それが自分を縛る鎖になってしまっているのです。
微笑みうつや高機能うつの人たちは、他人の期待に応えようとするあまり、自分の限界を見失いやすくなっています。自分の中で小さなSOSが出ても、「こんなことで弱音を吐いてはいけない」と押し込めてしまいます。けれど、そうして心の声を無視し続けると、やがて何も感じなくなる……。「楽しみ」が「義務」に変わり、「やりたいこと」が「やらなければならないこと」にどんどん変わっていくのです。そして、気づいたときには、心のエネルギーがもうほとんど残っていない状態になります。
気づきのきっかけは、案外ささやかなものです。つぎのようなことがあったら、気づいてほしいのです。
好きだった音楽を聴いても心が動かない……。
休みの日に外へ出る気がしない……。
眠っても疲れが抜けない……。
こうした小さな変化を、「大したことない」と流さないでほしいのです。それは心が「そろそろ立ち止まって」と伝えているサインかもしれません。こうした心のサインに気づくために、日記やメモに、気分や体調、睡眠の質を記すだけでもいいと思います。感情を客観的に見つめる助けになるからです。書く行為そのものが、脳の整理を促し、冷静さを取り戻すと言われています。ですから、予防につながる可能性も大きいです。
そして何より大切なのは、「休むことに許可を出す」ことです。頑張ることは美徳と考えられてきましたが、頑張りすぎは毒にもなります。脳には回復の時間が必要であり、それを怠ると、報酬系がうまく働かなくなり、達成感や喜びを感じにくくなるからです。
深呼吸をする……。
数分だけ目を閉じる……。
少し散歩をする…。
ぼくたちは、頑張ることに価値を置きすぎています。けれど、本当に自分を大切にするとは、「頑張らない時間を許すこと」でもあります。
こうした小さな休息の積み重ねが、脳のメンテナンス、リセットになります。休むことは怠けではなく、生きる力を取り戻すための行為なのです。再生のための準備とも言えます。
こうした新しい「うつ」の対処法として、周囲の人ができることもあります。いつも元気そうに見える人ほど、少しの変化に注意してほしいと思います。
笑顔が固くなっていないか?
口数が減っていないか?
予定を断るようになっていないか?
見た目の明るさに惑わされず、そっと声をかけることです。
「最近どう?」
「疲れてない?」
それだけでも、心の扉が少し開くことがあります。人は、自分を気にかけてくれる存在がいるだけで、孤独の闇から一歩抜け出せるものです。
ただ、注意したいのは「頑張れ」「大丈夫だよ」という言葉。これらは励ましのつもりでも、微笑みうつや高機能うつの人には、むしろ自分を追い詰める刃になることがあるからです。代わりに「休んでもいい」「無理しないで」「一緒に行こうか」といった言葉を選んでほしいと思うのです。それだけで、肩の力が少し抜けます。自分の苦しみを受け入れてもらえると、人はようやく本来の呼吸を取り戻すことができます。
誰かを支えることは、何も特別なことではありません。側にいて、話を聞き、存在を認めること。それだけで人は救われる……。職場や家庭でも、「休んでいい文化」「話してもいい空気」を少しずつ作っていくことが、見えない不調の防波堤になると学びました。
ぼく自身、体育系出身であり、「頑張らなければダメだ」「休んではいけない」という環境に身を置いてきたので、とてつもなく違和感があります。でも、心理を学んでいると、ダイナミックに世の中が変わっていて、人の心の持ち方も変わっていることに気づかずにはいられないのです。そう……、時代は、「強さ」から「やさしさ」へと大きくシフトしているようです。だから、社会全体が「強さ」より「やさしさ」を評価できるようになれば、微笑みうつや高機能うつに苦しむ人は減っていくだろうと思われます。
ぼくたちは皆、社会の中で何かを演じながら生きているのだと思います。明るい人、頼れる人、前向きな人。その仮面の裏で、静かに涙を流しているかもしれない誰かがいる……。あるいは、それが自分自身かもしれません。だからこそ、笑顔を信じすぎず、笑顔の奥を見つめることが大切なのです。人は誰でも、心が揺れる存在です。強く見える人ほど、実は脆い……。
笑顔は、人の心をつなぐ美しいものです。しかし、その「笑顔の裏にある痛み」を見逃してはいけません。自分も、誰かも、無理をして笑わなくていい……。悲しみも、疲れも、弱さも、生きている証として受け入れられる社会であってほしい……と願います。心の声を押し殺してまで笑う必要はないのです。
笑顔は誰かを癒す薬です。でも、だからこそ、誰かの「笑顔の奥にある沈黙」を見逃さないでもらいたいのです。自分自身の沈黙にも耳を傾けてほしいと思います。頑張りすぎる前に立ち止まり、呼吸を整え、「いまの自分」を受け入れること。それが、心を守るいちばん確かな方法です。
笑顔とは、本来、安心と安らぎの中から自然にこぼれるものであってほしい……と願います。
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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役会長公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』 |











株式会社船井本社 代表取締役社長



















