トップが語る、「いま、伝えたいこと」
好んでピンチに陥りたい人は、おそらくいないでしょう。できることなら穏やかに、順調に、何事もなく生きていきたい……。誰もがきっとそう願っています。しかし現実には、どれほど慎重に生きていても、人生の中で人は必ず何度か「思い通りにならない局面」と出会うものです。仕事がうまくいかない、人間関係がこじれる、健康を損なう、信じていたものが崩れる……。大小の差はあっても、それらはすべて、私たちにとってのピンチだと言えます。
ところで、あらためて、「ピンチ」とは一体何なのでしょうか?
簡潔に言えば、「自分の思い通りにならない状況」です。予定していた未来が崩れ、自分の力ではどうにもならない現実を突きつけられるとき、人は不安になり、怒り、落ち込みます。しかし、古来より多くの賢人や宗教者は、そのピンチの中にこそ、人が本当に成長する入口があると説いてきました。なぜなら、順風満帆のときには見えなかったものが、逆風の中でこそ見えてくるからです。もちろん、その解釈には、そう思ったり、考えたりしないことには、未来が見いだせないから……という根本的な理由が“確実”にあるからかもしれません。
物事が自分の思い通りに進んでいるとき、人はなかなか立ち止まりません。「このままでよいのか」「自分のあり方は正しいのか」と深く問い直すことも少ないでしょう。ところが、ピンチに直面すると、これまでのやり方や価値観を見つめ直さざるを得なくなります。つまり、ピンチとは、外側の問題であると同時に、自分自身を映し出す鏡でもあるのです。
私たちが苦しむ理由の多くは、「現実そのもの」よりも、きっと「現実はこうあるべきだ」という思い込みとのズレにあります。自分は評価されるべきだ、努力すれば報われるべきだ、大切な人はずっとそばにいるべきだ――そうした“べき”や“はず”が崩れたとき、私たちは強い“痛み”を感じてしまうのです。けれども、その痛みの奥には、「自分は何に執着していたのか」という大切な問いが隠れていると思います。
親鸞聖人は、そのような心の状態を「邪見驕慢(じゃけんきょうまん)」と表現しました。物事を自分中心にしか見られず、知らぬ間に慢心してしまう心です。人は成功したり、慣れた環境に安住したりすると、感謝を忘れ、自分の力だけで生きているかのような錯覚に陥ります。その心の偏りが、やがて人間関係の破綻や判断ミスを生み、ピンチという形で表面化することも少なくありません。だからこそ、順調なときほど自らを省みる姿勢が大切なのです。
一方、禅の教えには、「放てば手に満てり」という言葉があります。道元禅師の『正法眼蔵』に見られるこの言葉は、単純に「古いものを捨てれば新しいものが入る」という意味ではありません。欲望や執着を手放したとき、すでに与えられていた恵みに気づき、心が満たされるという深い意味があります。
たとえば、肩書きに執着していた人が、それを失ったとき初めて、家族の支えや友人のありがたさに気づくことがあります。財産や数字ばかりを追いかけていた人が、病気をきっかけに、健康に朝を迎えられること自体の尊さを知ることがあります。失うことは痛みですが、その痛みを通してしか見えない真実もあるのです。
さらに禅には、「柳は緑、花は紅(やなぎはみどり、はなはくれない)」という言葉があります。柳は柳のまま緑に揺れ、花は花のまま紅に咲く。それぞれがそれぞれのままでよい、という意味です。人はピンチに陥ると、他人と比べてしまいます。あの人は順調なのに、自分だけがなぜ苦しいのか……と。しかし、他人の人生と自分の人生は別のものです。柳が花になろうとしなくてよいように、自分は自分の課題を生きればよいのです。比較から自由になったとき、苦しみは少し和らぎます。
また、「行雲流水(こううんりゅうすい)」という禅語もあります。行く雲はとどまらず、流れる水はよどまない。状況に応じて自在に形を変えながら進んでいく姿です。ピンチのとき、人は現状にしがみつき、「以前のままに戻したい」と願います。しかし、人生は常に変化しています。過去に執着するほど苦しみは増します。雲のように、水のように、変化を受け入れながら進むとき、新しい道が開けてきます。
何度か書いているように、私は特定の信仰を持ちません。しかし、仏教の教え、とりわけ禅の教えには学ぶべきところが極めて多いので、折りに触れて学んでいます。すると、ふーーっと肩の力が抜けたり、気持ちが楽になったりします。ありがたいことです。
思えば、私たちの人生における大きな転機の多くは、歓迎していなかった出来事から始まっています。失敗したから学べたこと、別れたから出会えた人、失ったから見つけられた価値。あのときは不幸だと思った出来事が、後になって振り返れば必要な通過点だったと気づくことがあります。ピンチがその瞬間にチャンスに見えなくても、誠実に向き合い続けた人にとって、それはやがて人生の土台になります。
もちろん、苦しい最中に「これはチャンスだ」と無理に思い込む必要はありませんし、なかなか難しいですよね……。つらいときはつらい、悲しいときは悲しい。それでよいのだと思います。ただ、その中で一つだけ問いを持ってみることが大切だと思うのです。
「いま、自分は何に執着しているのだろう」
「この出来事は、自分に何を教えようとしているのだろう」と。
いろんな苦難を経て、その苦難のなかに“問い”を持てた人が、きっと苦しみの中でも成長の種を見つけることができるのではないかと考えます。
ピンチとは、人生からの罰ではないですよね……。
むしろ、よりよく生きるための軌道修正であり、心の大掃除であり、新しい自分へ向かう入口なのかもしれません。思い通りにならない出来事に出会ったときこそ、自分の心を見つめ、執着を手放し、本当に大切なものを知る機会です。そこに気づけたとき、ピンチは静かにチャンスへと姿を変えていくのでしょうね。
感謝
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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役会長公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』 |










株式会社船井本社 代表取締役社長



















