トップが語る、「いま、伝えたいこと」
Kan.さんの語る世界観には、一貫して「宇宙のリズムに人間を戻す」意志があります。安定を目的化せず、崩れと回復を往還する生命のダイナミクスに身を置くこと。自分自身に起こることを、すべて、準備・実行・後始末という循環で捉え、敬意を払い、物語(脚本)を生きながらも、その背後で脈打つ“無言の力”を聴きとること。
この世界観こそが、道(タオ)。タオの思想と響き合うということです。タオは形のない秩序であって、作為ではなく無為自然を尊びます。抽象的になりますが、タオは直線ではなく往復運動を好み、行き過ぎれば戻るという復元の法則で動いています。Kan.さんのいう「戻る力」は、まさにこの復元の知恵の、現代的な言い換えだと言えます。
ぼくたちの呼吸は、吸う・吐くの二拍でできていると思いがちですが、実際にはそこに微かな第三の拍があります。吸い切っても吐かず、吐き切っても吸わない、刹那の空白……。Kan.さんは、その「何も起こらない」場面を、ぼくたちが地球にやって来た意味の中核に据えて捉えています。
タオの語彙でいえば、この空白は虚(うつろ)であり、玄(つきつめれば更に奥の玄)であると学びました。かたちを持たないけれど、すべてのかたちを生み出す母胎。老子はこれを谷神(こくしん)とも呼び、玄牝の門とたとえました。谷は空(から)であるがゆえに水を招き入れ、門は空いているがゆえに出入りが叶う……のです。
呼吸の「間」も同じです。そこは空(から)だからこそ、次の生起を招きます。吸い出す前の沈黙が、吸気の可能性を満たし、吐き出す前の静止が、排出の方向を決める……。動きを支えるのは、動きそのものではなく、動きが生まれる前の余白……。きっとこんな感じだと思います。
Kan.さんによれば、地球は揺らぐ星だと…。気候は振れ、身体は恒常性で戻り、関係は近づき離れ、心は明滅する……。「安定し続けること」を生の基準に置くと、現実はまるで“裏切り”の連続のように映ります。しかしタオの見方では、揺らぎと復帰こそが“正常”であり、揺らぎがあるから戻る力が鍛えられるというのです。
「吸う」と「吐く」は陰陽です。陰から陽へ、陽から陰へ移るとき、世界は一瞬「極まって空(むな)しく」なる。ここには、評価もえり好みも、自己主張も介在しません。「私」が存在しないのです。「私」が自己決定できない領域です。これがタオの世界。
地球に生まれる意味の一つは、この無に何度も触れ直し、その無から再び生まれることを身に覚えさせることにあるとおっしゃいます。無の感覚は、観念ではなく体験でしか学べないということです。
そのことをKan.さんらしい表現でお伝えになられています。『待合室で雑誌に没頭しているときにも、呼吸の「間」は確実に訪れている。ただ気づかないだけだ。気づく訓練こそが“地球の授業”である。』Kan.さんが繰り返す「出かけて自然に触れる」「地道に続ける」という実践の意味もそこにあります。
ぼくたちはつい、呼吸を“うまくやろう”とする……。これを聴いて、ハッとしました。その通り……だ。もっと深く、もっと長く、もっと整って、と……。しかしタオは伝えます。水は低きに就くが、万物を潤す……。それは意図では決してなく、性(さが)に従う働きだということです。
Kan.さんの言葉に沿えば、人生は「準備・実行・後始末」の循環でできています。ここに無為自然を重ねると、準備は場を空けることであり、実行はタオが働ける余地を残すこと、後始末は流れを澱ませないことになります。
呼吸の「間」に入るとは、コントロールをいったん保留し、戻る力が自ずと作動するのを待つ姿勢のことです。ここで大切なのは、無抵抗ではなく無過剰であることと教えていただきました。やるべき最小限はするが、結果をこじ開けないこと。すると、身体は勝手に均衡点へ寄っていくのです。体の反応でいうと、首がゆるみ、足首が地と通じ、思考と感情の配線が再接続される……。“私の力”より先に、“通る力”が働くからだということです。呼吸の「間」に触れたとき、ぼくたちは微細な「解放」を体感するといいます。首の奥にある喉の門が静かに開き、足裏に重さがゆだねられる……。頭は軽く、胸は柔らかく、腹は温かい……。「吸うでも吐くでもない」無音の瞬間が、身体全体に訪れます。
Kan.さんは人生には「脚本がある」と言います。与えられた役を、準備して、演じて、後始末をする……。ここにタオを重ねると、演者(私)と観照する道の二重構造が見えてくるとも表現されます。
呼吸の「間」は、舞台照明が落ちて暗転する刹那に似ています。役はまだ終わりませんが、役は一度降ろされます……。その暗転の最中、観客席の深い暗がりがふっとこちらへ忍び寄る……。演者はそこで、物語の重力から少しだけ自由になる……。次の場面では再び台詞を発しますが、暗闇を経由した声は、以前より澄む……。こういうイメージだととらえました。
ここに、Kan.さんのいう「魂が必要」という主張の意味が宿ります。脚本だけでは、物語は閉じてしまいます。魂は、暗転の静寂で観照の光を受け取り、再び舞台に戻って役を息吹かせる……。呼吸の「間」を生きるとは、この暗転を一日に幾度も通過することを言います。
たとえば、ぼくたちは日々、ニュースやSNSや予定表という“雑誌”をめくり続けます。それ自体が悪いわけではありません。しかし、めくる手を一拍とめることを忘れると、呼吸の「間」を見失なってしまいます。朝一番の呼気を吐き切ったら、二拍だけ間を置くとよいそうです。判断しない。何者にもならない……。歩き出す前に、足首へ体重が落ちていく瞬間を待つ……。地の力に、こちらから“合わせにいかない”。合うまで待つ……。会議の発言前に、喉の奥の静けさを確かめる……。言葉は、そこから生まれさせるのです。こうした日常のごくあたりまえのことは、まさに無為自然の小さな「お稽古」であるともいえそうですね。
タオはもともと“どこにも属さず、どこにでも通う”原理ですが、地球に生まれたぼくたちは、重力・時間・死という3つの縫い留めを受け取ることになります。だからこそ、呼吸の「間」は尊いのです。
時間が流れる世界で、時間の外を示す瞬間。重力の下で、重さをゆだね切る中性点。死が避けられない物語で、今生まれ直す微小な転生。
Kan.さんによれば、地球に来た意味とは、タオの無限をただ観念で知るのではなく、有限の条件下で“無の営み”を会得することを指します。「吸う」「吐く」の切り替えで、ぼくたちはその都度、道に触れ、道から再び人間へと戻ってきます。これを一日に数千回も反復する生。その反復の質こそが、人生の質になるとおっしゃいます。難しいですが、ほんの少しだけわかった気がします。
Kan.さんは、「宇宙に参加することが大事」と表現されます。参加とは、宇宙を支配することではありません。宇宙がこちらを「通り抜けられる“私”になること」。
これは、どういうことでしょうか!
呼吸の「間」にふれるたび、“私”は少しずつ“通りのよい器”になるということでしょうか……。思考は澄み、感情は居場所を得て、身体は地とつながる……。バランスは固定されず、「崩れ」「戻り」のリズムとして生きられる……。そしてあるときに気づくのです。“私”が息をしているというより、息が“私”をしているのだということに……。「吸う」「と吐く」の合間の、あの静かな場所から、物語は何度でも始まり直します。そこにこそ、ぼくたちが地球に来た意味がある……。
吐き切ったあと、間に立ち止まり、世界がこちらを通るのを許してみる……。
道は言葉を必要としません。
ただ、通る……。
そこから、生がまた深く始まる……。
ほんのわずかだけ、大切なことに気づけた気がします。
感謝

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舩井 勝仁 (ふない かつひと)
![]() 1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』 |
佐野 浩一(さの こういち)![]() 公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』 |
