トップが語る、「いま、伝えたいこと」
日本は「豊かな国」だと言われます。
表面的には、コンビニには24時間食べ物が並び、街にはモノがあふれています。けれども、その一方で、「今日、食べるものがない」「頼れる大人がいない」「家に帰りたくない」と感じながら生きている若者たちが、確かに存在しているのです。
実際、近年、東京・歌舞伎町の「トー横」、大阪・道頓堀の「グリ下」と呼ばれる場所などには、多くの若者が集まるようになっています。ニュースでは、非行、オーバードーズ、犯罪、家出などの文脈で語られることが多く、「危険な場所」というイメージが先行します。しかし、その奥には、もっともっと深い問題があることを、私は今井紀明さんから教えていただきました。
それは、「孤立」と「若者の貧困」です。
日本では、若者の貧困はあまり可視化されません。
子どもの貧困は語られても、「18歳を超えた若者」が抱える貧困や孤独は、急に“自己責任”として扱われやすくなるからです。
けれども現実には、家に居場所がない若者、虐待やネグレクトを経験した若者、親との関係が壊れている若者、発達特性や精神的不調を抱えながら支援につながれない若者たちが数多くいます。そして彼らの中には、本当に食べるものに困っている人たちがいます。
数百円がない。
相談する相手がいない。
行政に行く勇気もない。
学校とも社会とも切れている。
そうして、誰にも見つけてもらえないまま、夜の街へ流れ着いていく若者がいるのです。そんな若者たちに寄り添い続けている団体の一つが、「D×P」です。
「D×P」は、「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」を目指して活動している認定NPO法人です。LINE相談を通じて若者たちとつながり、必要に応じて食糧支援や現金給付、居場所支援、進路相談、就労支援などを行っています。
とくにコロナ禍以降、「家に食べ物がない」「親に頼れない」「バイトがなくなった」というSOSが急増しているそうです。
D×Pには、深夜にもLINEで相談が届きます。
「今日、何も食べていません」
「家に帰りたくありません」
「死にたいです」
そうした声に対して、D×Pのスタッフたちは、まず否定せずに話を聞きます。
「頑張れ」と説教する前に、「つながる」ことを大切にしているのです。
この活動を率いているのが、先ほどご紹介した代表の 今井紀明さんです。
今井さんとはもう10年来の知り合いですが、彼の人柄を一言で表すなら、「傷ついた人の痛みを、自分ごとのように感じる人……」でしょうか。
穏やかな語り口。
相手を急いで変えようとしない姿勢。
“正しさ”よりも、“関係性”を大切にする感覚。
それは、おそらく彼自身が深く、深く傷つき、孤独を経験してきたからでしょう。
今井さんは18歳のとき、イラクの子どもたちを支援したいという思いから現地へ向かい、武装勢力による人質事件に巻き込まれました。無事解放され帰国しましたが、日本社会には激しい自己責任論が吹き荒れました。
「勝手に行ったのだから当然だ」
「迷惑をかけた」
「税金を使うな」
連日のように批判が続き、強いバッシングにさらされました。
もちろん、さまざまな意見はあったでしょう。
しかし、その経験は、当時まだ10代だった今井さんに深い傷を残しました。
社会から拒絶される感覚……。
居場所を失う感覚……。
人を信じられなくなる感覚……。
その後、今井さんは長く引きこもり状態にもなったといいます。
けれども、その苦しみの中で、彼は考え続けました。
「人はなぜ孤立するのか」
「なぜ助けを求められなくなるのか」
「社会からこぼれ落ちた人は、どこへ行けばいいのか」
その問いが、現在の活動の原点になっています。
D×Pの活動には、「上から助ける」という空気があまりないように思います。むしろ、「同じ社会を生きる仲間としてつながる」という感覚といった方がよいでしょうか。
たとえば、D×Pでは、食糧支援を単なる“配布”で終わらせません。食品を送るだけでなく、「最近どう?」「困っていることない?」と継続的につながろうとします。
また、若者が自分のペースで相談できるよう、LINEを重視しているのも特徴です。電話が苦手な若者は多く、「相談窓口に電話してください」では、そこにたどり着けない人もいるからです。
さらに、学校への出張授業、キャリア支援、居場所づくり、行政との連携など、その活動は多岐にわたります。そして、クラウドファンディングにも何度も挑戦しています。若者の食糧支援や相談活動を継続するためです。
しかし、そのたびに批判も起きます。
「甘やかしではないか」
「努力不足ではないか」
「自己責任だろう」
けれども今井さんは、そうした声に感情的に対抗するのではなく、「なぜ若者がそこまで追い込まれているのかを知ってほしい」と静かに語ります。
ここに、今井さんらしさがあります。
彼は、社会を単純な「善悪」で切り分けようとしません。批判する人にも、それぞれの事情や不安があることを理解しようとしています。
だからこそ、多くの若者が彼に心を開くのでしょう。
いま、トー横やグリ下の若者たちを見て、「最近の若者は」と語るのは簡単です。けれども、本当に問われているのは、大人や社会の側なのかもしれません。
失敗した人を徹底的に叩く社会。
弱音を吐きづらい空気。
「助けて」が言えない時代。
SNSでは、誰かが炎上すれば一斉に攻撃が始まります。ほんの少しの失敗で、「終わった人」のように扱われる……。そんな空気の中で、孤立感を深める若者が増えているのは、ある意味当然なのかもしれません。
トー横やグリ下は、単なる若者文化ではありません。
「ここしか居場所がなかった」という若者たちの叫びでもあります。
そして今井さんの歩みは、「傷ついた経験は、人を支える力にも変えられる」ということを教えてくれます。一度、社会から激しく拒絶された人が、今度は「孤立する若者を一人でも減らしたい」と動いている……。
そこには、簡単な理想論ではない、重みがあります。
日本には、見えにくい若者の貧困があります。
そして、見えにくい孤独があります。
だからこそ、今必要なのは、「自己責任」という言葉だけではなく、「どうすれば人が孤立しない社会をつくれるのか」という視点なのではないでしょうか。
もちろん、支援には限界もあります。
善意だけでは解決できない問題も多い。
制度改革も必要でしょう。
家庭の問題、教育の問題、雇用の問題、メンタルケアの問題…。
本来は社会全体で向き合うべき課題です。
それでも、誰かが「あなたは一人じゃない」と言い続けることには、大きな意味があります。若者たちは、好きでトー横やグリ下にいるわけではありません。
「そこにしか居場所がなかった」という現実がある。
その現実を、ただ批判するだけで終わるのか……。
それとも、「自分たちの社会の問題」として受け止めるのか……。
いま、私たち大人の側も問われているのだと思います。
今井さんやD×Pの活動は、その問いを、私たち一人ひとりに投げかけているように思います。
最後になりますが、現在進行中のクラウドファンディングの締め切りが迫っています。もし、ピンとこられたらご支援を!(https://readyfor.jp/projects/dxp-youthcenter-2026spring)
感謝
2026.05.18:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】乱世 (※舩井勝仁執筆)
2026.05.11:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】「祝福の水路」として生きる ―人は何のために生き、なぜ与えるのか― (※佐野浩一執筆)
2026.05.04:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】我欲の克服 (※舩井勝仁執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役会長公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』 |











株式会社船井本社 代表取締役社長



















