トップが語る、「いま、伝えたいこと」
ここのところ急激に上がってきた株式市場ですが、そろそろピークを打ったか、少なくとも踊り場に突入したように感じています。株価の水準が合理的に説明できる範囲では上限に達しているということが大きな背景にあると思いますが、相場をけん引していたAI、半導体セクターの買いが止まったのが短期的には大きな原因だと思います。その背景にあるのは、いわゆる「kimiショック」です。7月16日に月之暗面(ムーンショットAI)という新興中国企業が「Kimi K3」を発表しました。一部のベンチマークではアンソロピックのクロード・ファブル5を凌駕しているのにも関わらず低価格を設定していることで翌日の世界の株式相場は半導体・AI関連株が暴落し、指数全体も連れ安しました。
一番大きな影響を受けた象徴的な銘柄がキオクシアです。一時的にトヨタを超えて国内で時価総額が1位になるまで株が買われたのですが、買われ過ぎ懸念からすでにピークをつけて急落していた株価がこのショックで高値から比べると半値以下になりました。煽りに乗って買い進めていくと高値掴みをさせられるという素人がはまる典型的なパターンが起こったわけですが、アメリカのAI半導体企業も含めて、さらにアメリカのビッグテック大手はこの分野にとんでもない巨額の先行投資をしていることなども連想され、調整局面に入ったのは間違いないように感じます。国内でも、時系列的には「kimiショック」の前ですが、代わりに時価総額1位になったのは典型的なインフレ銘柄である三菱UFJ銀行というのが、市場全体のテーマが変わった象徴的なできごとだと思います。
ちなみにアンソロピックのファブルはトランプ政権が安全保障上の懸念で日本を含む海外企業に使用させることを一時的に禁止したというぐらい画期的なものだと呼ばれていたものですが、すぐに中国企業にキャッチアップされてしまったのかもしれないという、恐れていた通りのことが現実化したと見ることもできます。官民が一体となって過当競争を続けている中国の技術力の進化には目を見張るものがありますが、視点を変えると中国がデフレを輸出しているという風に見ることも可能だと思います。
絶対に脱却は不可能と思われていた日本を含めて世界はインフレ経済に突入しています。唯一の例外が中国で構造的な不動産不況や終わる気配のない過当競争がデフレを生み、生活防衛のためにマス層である庶民は節約に励むようになりました。かつての日本がやっていたように、そのデフレを海外にも輸出して貿易黒字を増やしているのがマクロに見る中国経済の実態なのかもしれません。
それが、最先端の生成AI分野にも及んで来て、アメリカのビッグテックの戦略さえひっくり返そうとしているのです。EV(電気自動車)で考えるとわかりやすいのですが、世界のEV市場全体でテスラのシェアをBYDが価格破壊で奪っているというのが世界の市場で起こっていることなのです。AI相場の主役交代は、日本株だけでなく世界の産業地図そのものが転換点に差し掛かっていることを示しているのかもしれません。
今週紹介する本は村尾信一著『鈴木敏文の遺言』(ビジネス社)です。鈴木敏文会長はセブイレブンだけにとどまらずコンビニエンス・ストアという業態を作り上げた偉人です。残念ながら今年の5月18日にご逝去されました。著者の村尾氏は同社の元ゾーンマネージャーの要職を務めた幹部です。本書の中では、支社長にあたる役職だと書かれていますが、世界の人々に大きな影響を与えたコンビニという業態を作り上げた敏文(びんぶん)さん(お名前は「としふみ」さんですが、業界ではみんな「びんぶん」さんと呼んでいました)の下で仕えた幹部としての緊張感が伝わってくる名著だと思います。
本書はセブンイレブンの歴史を辿っていきながら、村尾氏から見た敏文さんの思想、根源的な思考のあり方について解説していくというのが大まかな内容となっています。あくまでも経営手法について解説してくというスタンスではなく(その側面も少なからず感じられはしますが)、経営以外にも適用できる思考法に重きを置いているようです。留意しなければならないのは、鋭い分析と思慮の深さから敏文さんについて伝える興味深い一冊となっているのですが、敏文さんご本人の著書ではなく、あくまでも村尾氏が書かれたものであり、独自の視点や思想、推察も見え隠れした内容ではあるので、同社の歴史や敏文さんについてより詳しく知りたい方は、また別の文献を合わせて読めば、より理解が深まるでしょう。
敏文さんは何らかの好ましくない状況に陥った際に、発想の転換やその状況に合わせた対処が非常に優れていました。コンビニという業界を作りあげた執念がありました。有名なのは単品管理です。POS(販売時点情報管理)を日本で最初に使ったのが同社で、いまでは当たり前になっているバーコードも同社が最初に普及を推進していきました。それは、徹底した単品管理を行うためのもので、敏文さんに対する数字だけをみて判断しているという批判もよく聞きましたが、本書を読むとその数字にこそ心が通っていることがよくわかります。
例えば序盤に出てくる予定外の流れからイトーヨーカ堂に長期間勤めるようになった時や、米国のセブンイレブンの実態を知った結果、それがほとんど日本では活用できないと気づいた際、鈴木氏はその状況を上手く凌ぎ、適切な選択肢を選ぶことで後の成功に繋がったようなすごみのある問題解決能力が存分に感じられます。そして常識を疑う、仮説を上手く活用することにより他人より一歩先を行くことができる手法によって、日本にコンビニという新しいビジネスを定着させ、その中の業界一位という地位を築いてこられたのが読み取れます。
敏文さんの全盛期には、他の大手コンビニチェーンに比べて同社の1店舗当たりの売上は2〜3割増しになりました。いまでは、同社のシステムや戦略の一部は、定期的に世間から大きな批判に晒されることもありますが、そのような状況でもブレない姿勢を保ち、今の地位を維持し続けているのは、鈴木氏のDNAが深く根付いているからだと感じられます。本書には敏文さんの常識外れのエピソードも数多く見られ、カリスマ経営者の存在を強く感じられますが、物理的にその存在がいなくなった同社がどう試練を乗り越えていくのかは日本経済の発展にとっても大きな要因になると感じます。
後継者問題や創業者一族との葛藤によって退任された際の描写から見るに、経営という視点では、最後には時代の流れに飲み込まれてしまったようですが、それでも敏文さんが持っていた根本的な部分はいまの時代、またその先の未来でも通用する。著者はそう感じたからこそ、単品管理のような根源的な部分に重きを置いたのかもしれません。
=以上=
2026.07.20:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】「環境問題の現在地」〜「守る」から「再生する」時代へ〜 (※佐野浩一執筆)
2026.07.13:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】レゾナンス (※舩井勝仁執筆)
2026.07.06:【いま 一番知らせたいこと 、言いたいこと】「変化こそ不変の原理」〜今だからこそ、未来を明るくする仕事を〜 (※佐野浩一執筆)
舩井 勝仁 (ふない かつひと)
株式会社船井本社 代表取締役社長1964年大阪府生まれ。1988年(株)船井総合研究所入社。1998年同社常務取締役 同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。 2008年「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築く」という父・舩井幸雄の思いに共鳴し、(株)船井本社の社長に就任。「有意の人」の集合意識で「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続けた。(※「にんげんクラブ」の活動は2024年3月末に終了) 著書に『生き方の原理を変えよう』 |
佐野 浩一(さの こういち) 株式会社本物研究所 代表取締役会長公益財団法人舩井幸雄記念館 代表理事 ライフカラーカウンセラー認定協会 代表 1964年大阪府生まれ。関西学院大学法学部政治学科卒業後、英語教師として13年間、兵庫県の私立中高一貫校に奉職。2001年、(株)船井本社の前身である(株)船井事務所に入社し、(株)船井総合研究所に出向。舩井幸雄の直轄プロジェクトチームである会長特命室に配属。舩井幸雄がルール化した「人づくり法」の直伝を受け、人づくり研修「人財塾」として体系化し、その主幹を務め、各業界で活躍する人財を輩出した。 2003年4月、(株)本物研究所を設立、代表取締役社長に就任。商品、技術、生き方、人財育成における「本物」を研究開発し、広く啓蒙・普及活動を行う。また、2008年にはライフカラーカウンセラー認定協会を立ち上げ、2012年、(株)51 Dreams' Companyを設立し、学生向けに「人財塾」を再構成し、「幸学館カレッジ」を開校。館長をつとめる。2013年9月に(株)船井メディアの取締役社長CEOに就任した。 講演者としては、経営、人材育成、マーケティング、幸せ論、子育て、メンタルなど、多岐にわたる分野をカバーする。 著書に、『あなたにとって一番の幸せに気づく幸感力』 |











株式会社船井本社 代表取締役社長



















