“超プロ”K氏の金融講座
このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。
「ユーロ圏の危機は欧州連合(EU)を破壊し、根底から覆す可能性がある。この点で欧州とソ連は似ている。」
投資家ジョージ・ソロスは現在の欧州と崩壊していった旧ソ連とを重ね合わせました。ソロスは続けて、「欧州はソ連と似たような崩壊の過程が待ち受けている可能性がある」と警告したのです。
再び世界の焦点となってきた欧州危機ですが、これは昨年の危機をスケールアップした状態で爆発を待っているかの様相です。表面的には収まっていた欧州問題ですが、根本的な問題がどうしても解決できません。一時的な備忘策を講じれば講じるほど域内の矛盾は拡大し、もうどうにもならないところまで行き着くだけです。まさに1989年、ソ連が劇的な崩壊をしたように事態は差し迫ってきています。再び欧州情勢を追ってみましょう。
格差のありすぎるユーロ圏の国々
全ては経済力の違った寄せ集め国家がユーロという共通通貨を使うということにあるのです。
例えば東南アジアと日本が同じ通貨を使えば、仮に今のように東南アジアがどんどん発展してくれればこの共通通貨は機能するかもしれません。ところが逆に一緒の通貨を使った東南アジアの経済が落ちていく一方では、この共通通貨は機能しなくなってしまいます。格差がつきすぎるからです。国力が違う国が同じ通貨を使うのだから弱い国が強い国に経済発展で追いついていく状態ならともかく、その逆では調整が難しくなります。
通常はこの国際間の経済格差というものは為替で調整されるわけですが、その為替相場がないわけですから言わば調整弁がないわけで、この共通通貨を用いている各々の国が何とか政策をとらなければならないのです。
一つは財政支援です。具体的には日本の中で過疎地に財政支援をするように、強い国が弱い国を財政的にバックアップしなければならないのですが、これが国が違うということで難しいのです。同じ日本人であれば都会の住民が過疎地の住民を結果として支援する形になっていてもなっていても、一応、いやいやながらも都会の住民は納得することでしょう。ないしは、この都会の住民が過疎地の住民を結果的に財政支援している形は、実質的には税金という形に隠れていますので一般的にはわかりづらいものです。
ところが国が違うとそうはいきません。はっきりと支援をしたということは見えてしまいます。今回のギリシアに対する数回の支援でははっきりとユーロ圏内の資金がギリシア救済に投入されているのは誰にでもわかります。さらにはギリシアには国債の償還を減額され、借金が実質的には7割以上踏み倒されました。元々ドイツ国民としては働かないギリシア国民を救済するのは嫌なことだし、拒否したいのです。しかしユーロを存続するという大義名分の下にこのギリシア支援を受け入れてきました。
ところがこのように域内の矛盾が大きくなっていくと、このような債務帳消しの問題がギリシア一国ですむわけがないのです。またそればかりかギリシアにしても今回救済資金をもらったばかりなのに再びどころか、3度目の破綻に向かっていくのは必至なのです。借金というものはなかなか返せないものです。ましてやギリシアのように観光以外に何の主要な産業もない国家では尚更です。これが世界に冠たる製造業を有しているドイツと同じ土俵で勝負しろというのですから所詮無理なことなのです。
こう考えていくとこの共通通貨というものは域内の格差が拡大すればするほど、この強い国家が弱い国家を救済し続けなければならず、これが救済資金として見えているものとまだ見えていないもの(船井メディア発行『朝倉慶のKレポート』(2012.5.1発信)の「TARGET2」という話で紹介)とあるのですが、実質目に見えようが見えまいが、この救済資金は天文学的に拡大する一方なのです。それにもかかわらず、域内の経済格差は縮まることがなく広がっていくばかりで、これはもう民主主義国家としては許容限度を超えつつあるのです。
ギリシアにしてもスペインにしても25歳以下の若者の失業者は5割以上です。若者の半分が職がないという社会を考えればわかりますが、これは悲惨です。それでもこのユーロという共通通貨圏にいたければ、ユーロという通貨の健全性を維持するために財政再建をさらに行えと強制されるのです。そしてギリシアもスペインもその他の諸国もこの財政再建という緊縮経済を行っています。実はユーロ圏の各国の国民もこの財政再建という緊縮経済にはほとほと疲れ切っているのです。スペインの若者などは職を求めて旧植民地であったアフリカ諸国に移民する有様です。この辺がユーロ圏とひとくくりにしても難しい問題があるということが如実に現れています。
というのも仮にユーロ圏が一つの国家だったらどうか、と考えてみると、自分の住んでいるところに職がなければ当然、職のあるところに移住を考えるわけです。例えばユーロ圏が日本のような一つの国家と考えますと北海道の過疎地に住んで職がないという人は、東京に上京して職探しを始めることでしょう。こういうことは自然です。中国だって農民工と言って地方から都会に人が移動してきました。これはどんな国家でもその発展過程に当然起こることです。ところが不幸なことに、ユーロ圏という経済圏ではこのような当然の住民の移動すら起こりえないのです。
ユーロがひとつの国になれない理由
どうして? と思うかもしれませんが、ユーロ圏をよく考えればわかりますが、ユーロ圏は元々ひとつの国家ではありませんから、言葉も違うのです。スペインはスペイン語、イタリアはイタリア語、ドイツはドイツ語で、フランスはフランス語です。これではスペインの若者は職がないからといってドイツに行って職を探すというわけにもいきません。
言葉が話せなければ、まともな職などあるはずもありません。ですからスペインの若者はやむなく、言葉の通じる旧植民地のアフリカに移住するという選択をするわけです。このように、ユーロ圏というのは、一つと言っても国家が寄せ合っていますので、様々な不便があるわけなのです。
先に書いたように、ユーロ圏各国が発展しているうちは問題が生じませんでした。ところが今の状態はまさに悲惨の一言なのです。
一方で好調なドイツ、オランダ、デンマークなどと、PIIGS諸国であるギリシア、イタリア、アイルランド、ポルトガル、スペインとは格差は広がることはあっても、これが縮まることはありません。
例えば、ユーロ圏の鉱工業生産指数は今年2月には全体として1.8%低下したのですが、一方で個別でみるとドイツは横ばい、オランダ、とデンマークはそれぞれプラス6.7%、3.1%と上昇しています。ドイツの自動車産業などは史上最高益を叩きだしています。
これとは対照的にPIIGS諸国の鉱工業生産指数をみますと、同じく2月はスペインはマイナス5.1%、ポルトガルはマイナス6.8%です。スペインとギリシアの失業問題が深刻になっている話は指摘してきましたが、これに対してドイツの失業率は20年ぶりの低水準になっているのです。ドイツの労働者は賃上げ交渉です。これほど格差が大きいのです。
国が違うということは政策も違ってどうにもならない部分があります。
このように、「失業者が減らない状況はなぜか?」と顧みてみますと、もちろん各国の経済状況も大きいのですが、それとは別に、各国の雇用政策に一つの問題があることもわかってきています。例えばイタリアでは、原則として労働者を解雇することができません。勤務態度に問題があったり会社の業績が極端に悪化しても、雇用主は雇用者を解雇できないのです。そうなれば企業は余剰人員を抱えたくないですから、当然新規の雇用、若者の雇用は控えます。現在のモンティー政権はこのイタリアの硬直的な雇用制度を変えようと試みましたが、国内の反対が強く立ち往生しています。スペインにしても1970年代半ばまで続いたフランコ政権の独裁時代に、労働者の解雇や地域内移動を厳しく制限した慣行があるのです。それが今でも続いている形で、このような数十年続いてきた各国の仕組みはもう一つの伝統といいてもいいようなもので、これを変えていくのは実際問題としては至難の業なのです。こうみるとやはり国家が違う、言葉も違うという地域が同じ通貨を持つという問題点にどうしても突き当たってしまいます。
欧州では第一次世界大戦、第二次世界大戦、それだけでなく、戦争と争いを繰り返してきた歴史があります。これに終止符を打とうという大きな金字塔の下にユーロという通貨の統合を計り、いずれは国家統合を目指すという壮大な理想はあるのでしょうが、この大いなる矛盾を解決することは難しいというしかありません。
これだけではありません。そもそも、このユーロ圏を維持しようと無理に無理を重ねてきているので、もうその矛盾は爆発寸前というのが実態なのです。昨年秋からユーロ危機が叫ばれ、イタリア、スペインの国債の暴落が懸念され、もしそのような事が起きればユーロが崩壊すると懸念されたわけですが、これは昨年暮れにECB(欧州中央銀行)が日本円にして107兆円という膨大な資金を域内の銀行に担保など吟味もせずに、1%という低利で貸し付けたことで息をつきました。
いわば、これは緊急で大盤振る舞いの貸出をしたようなものです。どんな倒産寸前の企業でも当座、銀行が資金を融通してくれれば、倒産は免れることはできます。しかし本業が不振では再び危機が訪れます。今回のユーロ圏の場合は、一応このイタリア、スペインの危機に対して、ECBが膨大な資金を実質供与して当座を凌いだのです。
これはどうやったかというと、ECBから受け取った資金を使って、イタリアはイタリアの銀行に自国の国債、スペインはスペインの銀行に自国の国債を買わせることで、国債の暴落を止め、危機を先送りしました。ところが今やその玉も尽きて、再び国債の下落が始まってきたのです。
こうなると今度は前よりも問題はスケールアップしてしまいます。というのも、イタリア、スペインの銀行は自国の国債の持ち高が爆発的に増えたからです。今後、暴落必至のイタリア、スペインの国債を以前より大量に保有して身動きがとれません。こうなったらやぶれかぶれでさらにECBから資金を供給してもらって、買い続けるしかないのです。
結局、ECBは資金を貸し付けたものの、その資金で、紙になっていく運命の国債を購入しているのですからどうのもなりません。何度も指摘してきましたが、問題が起きるたびに紙幣を印刷してその場を凌ぎ、しばらく経つと問題がさらに大きくなって再び現れ、そうすると、さらなる紙幣を刷る羽目に追い込まれていく、という繰り返しをしているに過ぎません。これは日本も同じで、事あるごとに日銀に円を印刷させるということで、その額がどんどん増えていくわけです。
こうしてユーロ危機は再び燃え盛ろうとしてきました。政治的な問題もあります。この5月6日には、ギリシアとフランスの選挙が行なわれます。ギリシアは今までの連立与党ではなくて極右や極左の政党が著しく支持を伸ばしてきています。
もう改革はたくさん、デフォルトしろという主張です。フランスの選挙でも優勢とされるオランド候補は「もし自分が当選すれば、ユーロの財政協定を破棄する」という主張を述べています。要するに、どこの国民ももう緊縮財政はまっぴらだという気持ちなのです。これが世論の怖さです。一度このような流れが始まると、政治の世界ではこの勢いを止めることができません。こうしていよいよ財政再建の流れもとん挫していくことでしょう。
その行先を予想している投資家ソロスはもうわかっているのです。「ソ連と同じようになっていく」、ユーロ圏の崩壊は必至、ソロスの予言は現実となってユーロ圏を襲い、そして世界に伝播していくことでしょう。
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★『大恐慌入門』
(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』
(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』
(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』
(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』
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経済アナリスト。
船井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を船井幸雄にレポートで送り続けてきた。
実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。
著書『大恐慌入門』
(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』
(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』
(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に船井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』
(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』
(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』
(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』
(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』
(徳間書店)を発売。