“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2015.10
郵政上場

●郵政3社上場後、市場はどうなる?
 今年の株式市場の一番の注目の的であった郵政グループ3社、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命が11月4日に株式を東京証券取引所に上場させます。1987年に上場したNTTの上場以来の国民的なイベントとなる超大型上場となるわけですが、人気は極めて上々、郵政3社の公募株は欲しくても手に入らない状態で、投資家の間では激しい争奪戦となっています。
 マスコミ誌上では需要は旺盛で、ゆうちょ銀行や日本郵政で約5倍、かんぽ生命は約10倍以上の申し込みがあったということですが、現場にいるとそれどころではない膨大な申し込みの勢いを感じます。やはり改めて、日本人はお上が絡むこのようなお堅い投資が好きだなと感じます。夏場から世界的に波乱含みとなって急落していた世界の株式市場もここにきて落ち着いてきました。
 このタイミングで11月4日に郵政3社が上場となるわけですが、どのような展開になっていくのでしょうか?
 また郵政3社の上場は、日本の株式市場にどのようなインパクトを与えるでしょうか。そして今後の株式市場は、この郵政3社の上場を経て変化していくのでしょうか?

 一般的に考えれば、郵政3社の上場は一つの大きなイベントにしか過ぎませんし、3社の上場が巨大な日本の株式市場に劇的な影響を与えることになるとも思えません。郵政グループは国民の大事な財産ですし、その株を公開したことによる収益の一部は、東日本大震災の復興費用に充てられるわけですから、多くの国民も今回の上場が無事に終わって国の一大行事がうまく通過するのを注目しているところでしょう。また株式など興味のない方にとっては郵政3社の上場自体がそれほどの関心事でないかもしれません。
 しかしながら、今後の日本の株式市場の展開や日本政府が目指す<貯蓄から投資へ>という国策遂行という観点で考えると、今回の郵政3社の上場は、国にとっては失敗を許されない極めて重要なイベントと言えるのです。
 今回、郵政3社は、1兆円にのぼる株式を国民に売り出します。また海外投資家に対しても3,000億円近い株式を売り出します。そしてこれはまだ始まりであって、今後もタイミングをみて国が保有している株式を市場に放出し続けます。郵政3社の株式の時価総額は約14兆円を超えますので、これの大部分を一回の売り出しで売り切るというような暴挙はできません。これだけ大きな会社の上場となりますと、売り出す額も甚大なので市場に与える影響も大きく、一度に売り出したのでは、市場がその株を吸収しきれず、市場が混乱状態に陥ってしまう可能性があるからです。ですから今回は、今後何度か続く第1回目の売り出しであって、今後も郵政3社の売り出しは時間をおいて続けられるわけです。
 1987年に開始されたNTTの株放出時も、初回から数回行われて、その都度国民的な買い付けの募集を行ってきたわけです。それを考えると最初の大規模な売り出しである初回の今回の売り出しでつまずくわけにはいきません。
 郵政3社の株を大々的に売り出す側の政府も、その売り出しの実務を実行する証券会社をはじめとする金融機関も、万全の体制で臨んで、この一大イベントを確実に成功させるように万端の準備を重ねてきたわけです。
 その最大の留意点は、いかにこの郵政3社の株式を国民の求めやすい価格で売り出すことができるか、簡単に言えば多くの国民の買いやすい適正価格に価格を設定できるか、ということでした。
 高すぎては売れませんし、安すぎては大事な国民財産の安売りになってしまいます。株価の高い、安いを決める尺度はいろいろありますが、今回は特に多くの国民が買いやすいように、尚かつ政府の思惑通り1兆円を超える郵政3社の株式が滞りなく売れるように熟慮して売り出しに臨んできたのです。

●<貯蓄から投資へ>という政府の目論見
 政府は<デフレからインフレへ>と日本の経済の構造転換を目指しています。安倍内閣は<デフレ脱却>をスローガンに経済政策を行ってきましたし、日銀は思い切った金融緩和で政府の方針を後押ししてきました。
 郵政3社の株式の上場、国民への政府の持ち株放出は、政府が目論む<デフレからインフレへ>そして<貯蓄から投資へ>の波を確実に浸透させるものでなくてはならないのです。単に郵政3社を民営化してその結果、株を売りだすということ以上に、国民に投資の利便性並びに優位性を知らせて、確実に国民の資産を<貯蓄から投資へ>と誘導させる<大きなきっかけ>とさせなくてはならないのです
 日本の個人金融資産は、6月末で1,717兆円と過去最高水準にあります。日本の個人は、先進国の中でも突出した多くの金融資産を有しています。
 ところが1990年のバブル崩壊を契機として、日本人は株式投資で大きな損失を被ることによって、多くの国民が株式投資から離れていったのです。また日本人は、特に資産運用などの投資においては保守的な傾向があります。
 長いバブル崩壊によって、概ね株式投資では損失を被る時代が長く続きました。このため個人の金融資産の内訳をみると、日本人の金融資産のわずか11%しか<株や出資金>となっていないのです。諸外国ではこの数字は日本と違って大きく、米国では50%台、欧州でも30%台となっています。いかに日本人が株式投資などの投資を忌み嫌っているかがわかります。
 しかし政府は<デフレからインフレ>の時代の変化を前にして、どうしても国民に株式投資などの積極的な投資姿勢を奨励したいわけです。
 そのため税制を優遇して<貯蓄から投資へ>の流れを作ろうとしてきました。NISAという無税で投資できる優遇税制を作り、年100万円までの投資は無税としたのも政府のインフレ誘導への強い覚悟を示しています。日本をインフレに持っていくのだから、国民には資産形成においてインフレに対応できる株式投資を奨励しようというわけです。

 ところが日本国民の保守的な投資姿勢と株式投資に対してのアレルギーは簡単に払拭できるものではありませんでした。政府がいくら笛を吹いて<貯蓄から投資へ>と掛け声をかけて大々的にNISAをはじめとした投資を奨励しても、国民は一向に踊ってこないわけです。業を煮やした政府は、今度は子供NISAまで設定して、子供名義でも投資を行うようにと奨励してきました。
 また、実際にデフレからインフレへの波を乗り切るために、そのインフレ到来を見越して国民の大事な財産である年金基金においても、国内外で積極的に株式投資を行うように方針転換してきたのです。多くの人はまだはっきりと意識していないかもしれませんが、現在の日本の年金の運用においては国内の株式が25%、海外の株式が25%で、年金の株式投資の比率は完全に5割にまで拡大させているのです。
 これは決しておかしな突飛なことではありません。年金の資産運用において、あるいは政府ファンドなどの長期資金の資産運用において、その運用資産の半分を株式投資に充てるというのは、世界を見渡せば常識的な投資スタイルなのです。今までの日本の年金の投資スタイルが世界標準で見れば国債などの株以外の投資に極端に偏っていたわけなのです。
 このような中、今年も夏からの中国経済の急減速懸念、並びに米国が金利引き上げを行うかどうかということが、世界的な経済の不透明さも相まって株式市場は乱高下を繰り返してきました。保守的な日本人にとって「やっぱり株式投資は怖いものだ」という考えを再確認させる結果となっていたかもしれません。
 そのようなタイミングではありましたが、今回、郵政グループ3社の上場が行われるわけですが、このような国の絡む、しかも誰もが身近に感じている郵政3社の上場には、国民的には普通の株式と違って非常に親近感もあり、また、今回設定された価格も比較的安めに設定されたので、投資しやすい環境となったようです。
 公募価格は日本郵政が1,400円、ゆうちょ銀行が1,450円、かんぽ生命が2,200円となったわけですが、パックで購入するとこの1セットでおよそ50万円となり、お手頃の投資となったわけです。政府は今回の大規模な売り出しに関しては、国民によるNISA枠での買い付けも意識したものでした。これが予想以上の人気化となり、一般的には公募株は手に入らないほどの抽選倍率となってしまったのです。とはいえ、運よく抽選に当たって公募株を手に入れた投資家も多くいるでしょうし、またその中には初めて株を購入するような投資家もいるでしょうし、しばらくは投資から遠ざかっていた投資家が郵政3社の上場を契機として株式投資を再開したようなケースもあるでしょう。
 手に入れることは難しかったとはいえ、国内の売り出しの95%は個人投資家に分配されています。いわばどのような形であっても、日本の個人の投資家が、郵政3社の今回の初回の売り出しの株のほとんどを保有することとなったわけです。

●日本人の投資に対するアレルギーは消えるのか
 その郵政3社ですが、現在の情勢ですと11月4日の上場時には公開価格を上回って取引が開始されるのは必至の情勢とみられています。NTTが初めて公開されたときは1987年の2月でしたが、公開価格119万円に対して初日は値段が付かず、翌日やっと160万円で値段がついて、その後一気に300万円まで値段が急騰していった経緯があります。この国民的な大行事でNTT株が大人気となって多くの国民が大儲けをすることが、株式市場にさらに火をつける結果となって、その後株式市場全体が大きく上昇、1989年12月29日、日経平均は大納会で38,915円のバブル天井をつけるに至るまで大相場が展開されることとなったのです。明らかにNTTの上場で、多くの日本人が大儲けをしたことが日本株全体の大相場の引き金になったことは疑いないでしょう。
 NTTの上場によって日本人は投資に目覚めてしまって、また1989年暮れの大天井によって、反対に多くの日本人は株式投資から離れることとなっていったのです。
 今回、この1987年のNTT上場以来の大イベントが行われるわけです。そして政府や証券会社の予想以上に、郵政3社に対しては日本の個人投資家の人気が沸騰しつつあります。
 1兆円にのぼる膨大な資金が個人投資家から郵政3社に投下されたわけですが、その資金は11月4日の上場時の段階で、郵政3社の株が上昇することによって、おそらく最低でも1割以上の利益を有することとなるでしょうし、うまくするともっと大きく利益を得られる可能性も高いでしょう。今回の郵政3社の上場は、1987年のNTTの上場時のような短期で3倍近いほどの過熱とはならないでしょうが、それなりの上昇と共にある程度の人気化することは必至でしょう。政府も今後の売り出しの予定もあるわけですし、実戦部隊の証券会社も郵政3社が一気に上昇してしまうよりは、ゆっくりと着実に上昇していく方が望ましいと思っています。

 いずれにしても郵政3社の株が上昇して、このイベントに参加した日本の個人投資家が現実に株式投資で儲けるという実利が生じた場合は何かが変わりそうです。今までは株式投資に関しては臆病で懐疑的だった多くの日本の個人投資家の投資姿勢が株式投資に対して前向きで積極的に変わってくる可能性も高いでしょう。政府がいくら笛を吹いても踊らなかった日本の個人投資家達が大きく投資に目覚める可能性があります。元々、金利がほとんどつかない預金に資金を寝かせておく方が不合理であることに気付くのです。実戦で実際に儲けを出すことができたことで、投資に対してのアレルギーが消え、投資を怖がらなくなり、逆に投資に積極的になる可能性があるわけです。日本の1,717兆円の個人金融資産の1%が動くだけでも17兆円ですから、それだけで日本の株式市場は暴騰してしまいます。2013年、アベノミクスに沸いた日本の株式市場は外国人投資家の15兆円にのぼる投資によって、年間8割の上昇となったのです。
 郵政3社の上場が近づいています。どのような展開になるか、そしてそれが日本の株式市場を劇的に変えることとなるのか、注目したいところです。

15/12

2016年の展望

15/11

中国の結婚事情

15/10

郵政上場

15/09

現れ始めた高齢化社会のひずみ

15/08

荒れた株式市場の先行きは?

15/07

異常気象の連鎖

15/06

値上げラッシュ

15/05

新刊『株、株、株! もう買うしかない』まえがき

15/04

日米同盟強化の恩恵

15/03

アベノミクス その光と影

15/02

ギリシアの悲哀

15/01

止まらない<株売却ブーム>


バックナンバー


暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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