“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2022.07
食糧を武器にするロシア

「食糧は西側諸国の制裁からロシアを守ることのできる静かで脅迫的な武器だ」
 ロシアのメドベージェフ前大統領は極めて好戦的、最近も「ウクライナが2年後の世界地図に存在する、と誰が言ったのだろう?」と言い放ってロシアがウクライナとの戦争に圧倒的な勝利となってウクライナという国が消滅するかのごとき言動も行っています。
 ロシア国内でのプーチン大統領の支持率は依然80%を超えた状態が続き、今回のウクライナ侵攻に関してもプーチン大統領はロシア国民の支持を得ているようです。ロシアの蛮行やロシア国内の世論などは西側諸国の常識からはかけ離れていますが、ロシア国内でナショナリズムが盛り上がっていることは否定できないでしょう。ロシアは西側からの制裁を受けて疲弊しているように思えますが、原油や様々な物資などの禁輸に関しては、ロシアの東側はがら空き状態、ロシアは中国やインドなどに自由に原油を売りさばいて収入を確保し続けています。

 ロシアの産業が先端の半導体や様々なハイテク部品が手に入らず、一部国内での生産が苦境に陥っていることは事実ですが、それでロシア国内が壊滅的になるような状況でもありません。ロシアとウクライナとの戦争は長期化の様相を呈してきています。その中でロシアが積極的かつ戦略的に利用しようとしているのが食糧です。ウクライナとロシア合わせて世界の小麦輸出の3割を担ってきましたが、これが戦争状態によって思うように輸出できず、中東やアフリカ諸国並びに南アジアなどの地域で食糧が思うように手に入らない状態となっています。
 かつて10年前、同じく小麦の高騰から始まったアラブ諸国各国の混乱、いわゆる<アラブの春>ではチェニジアから始まってリビアやエジプトなど次々と政変が拡大していきました。
 今後、食糧危機が本格化すれば、これらの地域を中心に食糧危機が勃発、暴動や政治的な混乱が生じてくることも懸念されます。食糧を武器に使って影響力を強めようとするロシアとその影響に迫ってみます。

●ロシアの強さ
 今回、国連やトルコなどの尽力によって、ロシア、ウクライナとの交渉がまとまり、ウクライナが黒海に面するオデッサ港から食糧を輸出できる運びとなりました。ところが、その交渉がまとまった翌日、ロシアはオデッサ港をミサイル攻撃、一気に合意は暗礁に乗り上げてしまいました。ロシアの真意はどうなっているのか? 交渉を本気でまとめる気があるのか? 疑問が持たれるところです。
 考えてみると、ロシアとしては紛争を起こして危機を演出すればするほど、自らの持つ食糧や原油や天然ガスの値段が高騰してロシアの国庫が潤う流れとなっています。昨今円安が話題となって、日本でも物価高が目立ってきました。しかし為替相場をみてみると、どの国の通貨もドルに対して安くなっているのが実情で、為替の世界ではドルの独歩高という状況が起こっています。
 その中で唯一の例外がロシアのルーブルです。なんとロシアのルーブルだけがロシアのウクライナ侵攻後の世界の為替市場においてドルに対して上昇となっているのです。これもロシアの持つ、原油や天然ガスや食糧などの値段が上がり続けているからです。
 ロシアという国は、GDPでみるとその経済力はたいしたことはありません。GDPでみるとロシアは韓国より下、ロシアのGDPは日本のGDPの3分の1強程度です。そしてロシアには世界を席巻するような技術力を持つ企業もありません。ではなぜロシアが強いのかというと、ロシアはその膨大な国土から取れる資源が豊富だからです。いわばロシアの経済体質は新興国などと似ているわけです。
 さらにロシアは世界中に武器輸出を行っていて、軍事的な影響力を駆使しています。ロシアがその前身であるソ連時代も状況は同じでした。ソ連も資源価格が上がると国として潤ったのですが、資源価格が下がると国が苦境に瀕するような状態だったのです。ですからソ連は、資源価格が暴落した1980年代後半から1990年にかけて厳しい状況となって、ソ連解体に至ってしまった経緯があります。その後、ソ連の後を継いだロシアも、1990年代後半には資源価格の低迷で苦しみ、ついには1998年には国家破綻状態に陥ってしまいました。
 その後、2000年に大統領となったプーチン氏は環境に恵まれたといえます。2000年になってから中国やブリックスなど新興国の著しい台頭によって資源価格が急騰、原油価格は2000年の10ドル台から2008年には149ドルと暴騰状態となりました、これによってロシアは、大きな収入を得て国が大復活、国が劇的に豊かになっていったのです。かような情勢の下、プーチン大統領は国を立て直し、人々の生活を豊かにしてくれた指導者としてロシア国内で人気があるわけです。われわれ西側からみると東西冷戦から緊張緩和を目指して冷戦を終わらせた指導者であるかつてのロシアの大統領であるゴルバチョフ氏や、その後民主化を進めたエリツィン大統領がロシアの英雄に思えますが、これは西側からの見方であって、ゴルバチョフ氏やエリツィン氏はロシア国内においてはロシアに混乱を招いた指導者として人気がないわけです。

 さらにロシアが経済力も主要企業もないのにどうして大きな影響力を持つか、という視点で考えてみますと、武器輸出という面も大きいのです。
 例えば今回のロシアによるウクライナ侵攻は大いに非難されるべきことですが、インドなど多くの新興国はロシアを全く非難していません。
 これは自国の武器をロシア製に頼っていることも大きいのです。武器は一度輸出されるとそのメンテナンスなどを通じて、長い取引が必要となります。どの国でも軍隊は重要です。軍隊はその武器を使って国を守るわけです。その武器の使用法やメンテナンスなどはある意味、国の存亡をかけた重要な物資です。ですからロシアから自国の軍隊のための武器を輸出してもらって、ロシアの武器に頼っている国はロシアとの関係を悪化させることなどできるはずがないのです。

●小麦を武器にするロシア
 インドとロシアの関係は古く、インドの軍隊はロシア製の武器で装備されています。インドは中国と国境を接し、中国とインドは極めて仲が悪いですから、インドとしてはロシアに頼るしかない状況となっているわけです。かような状況はインドだけでなくアジアではベトナムなども同じです。アフリカや中東諸国に目を向けると様々な国がロシアの武器に頼っている現実があります。
 かような武器輸出を通じてロシアは世界中の多くの国に影響力を駆使し続けているわけです。かような現実から多くの国はロシアのウクライナ侵攻を非難できないわけです。
 さらにこれに食糧が加わります。ロシアにとってウクライナの小麦輸出など、ウクライナの食糧生産をつぶしてしまうことは自らの食糧の価値を高める効果があるわけです。特にロシアとウクライナが食糧を輸出する国々は中東やアフリカや南アジアなどの貧しい国ばかりなので、その影響力は甚大です。ウクライナが食糧輸出ができない状態となれば、これら貧しい国に対しての輸出市場はロシアの独断場となっていきます。食糧が手に入らない国のことを想像してみてください。国民が食えなければ暴動は必至ですし、政府も転覆の危機に瀕してしまうでしょう。かような危機は何としても避けたいと思うでしょう。そうなればそれらの国々はロシアとの関係を悪化させるなど、とてもできない選択肢です。かような環境を構築してこれら世界各国への影響力をさらに強めて、西側との対立に備えようとするのがロシアの戦略と思います。

 ちなみにロシアとウクライナから多大な小麦輸入に頼っている国を挙げてみます。それらの国の小麦輸入に占めるロシアとウクライナの割合ですが、エジプトは86%、トルコは77%、パキスタンは89%、レバノンは96%、バングラデッシュは57%、イエメンは49%となっています。
 その他中東、アフリカを中心に50カ国がロシアとウクライナに小麦輸入を深く依存しているのです。これらの国の人口を合わせますと11億5000万人となっています。まさにウクライナにおける戦争の今後の推移によって世界人口の7分の1が食糧危機に陥る可能性があるということです。イエメンは内戦中ですが、今後、食糧危機の勃発から大惨事が起こること必至と言われています。

 現在、世界的な異常気象によって各国とも自国の食糧を確保するために、自国の食糧の輸出規制が頻繁に実施されています。現在世界の食糧取引の2割が輸出規制の対象となっているのです。かような中ではウクライナの小麦は高値がついていると思うでしょうが、実は逆で、ウクライナの小麦価格は大暴落している最中です。なんとウクライナの小麦価格は今年例年の価格の3分の1にまで暴落しているのです。
 というのも、ウクライナの小麦は運ぶ手段がありません。船で輸出できなければ腐ってしまいます。ウクライナは戦争中ですから物資の輸送は軍事物資優先となっていて鉄道など国内の輸送網は超繁忙でパンク状態、しかも現在のウクライナで小麦を鉄道輸送などしようものなら高コストとなって、価格が大暴騰してしまいます。かようにウクライナの小麦は行き先がなく、どうしようもできない状態となっているのです。
 さらにこれら小麦を巡る世界的な食糧危機の問題が今後拡大していくのは必至なのです。というのも現在問題となっている小麦の問題は、ロシアのウクライナ侵攻以前に収穫されたものであり、その収穫済の小麦の輸送手段が問題となっているわけです。現在ウクライナは戦争状態であり、畑に地雷を埋められたところもあります。かような状況では今後、ウクライナでは思ったような栽培も収穫もできるはずもなく、今後、ウクライナの小麦生産が激減することは必至の情勢なのです。
 であれば、これら中東やアフリカ諸国や南アジア諸国は、やむなく、米国産やオーストラリア産など違った地域から小麦を輸入すればいいと思うかもしれません。ところがそうもいかないのです。
 というのも、米国産やオーストラリア産では買い手として日本などと競合しますし、中東やアフリカへ運ぶとなると航路が長い。ただでさえ米国産やオーストラリア産の小麦はウクライナやロシア産と比べて価格が圧倒的に高いのです。
 それに昨今急騰している輸送費が上乗せとなります。そうなってはこれらの小麦はとても貧しい国が買える値段とはならないでしょう。こうみていくとこれら新興国を中心に今後の深刻な食糧危機は避けようがないと思われます。

 ロシアは狡猾です。ロシアは今回のウクライナ侵攻前に黒海を封鎖しました。そしてウクライナ侵攻と同時にウクライナの港を占領しました。そしてその直後にウクライナの穀物の倉庫など穀物関係のインフラを破壊したのです。ロシアがいの一番に奪ったのは小麦でした。これらロシアのウクライナ侵攻直後の行動を振り返ってみますと、ロシアは軍事作戦と同時にウクライナの食糧のインフラにターゲットを絞っていたことがわかります。ロシアはウクライナ侵攻前から食糧が戦略兵器として重要であり実質的な武器となることを十分に承知していたのでしょう。

 米国のブリンケン国務長官は「ロシアは食糧で不快なゲームをしている。自国に輸出規制を課し、割り当てを設け、どこにいつ食糧を送るかを政治的な判断で決めている」と非難しています。これは事実ですが、食糧を確保しなければならない中東やアフリカや南アジアの新興国にとってロシアに嫌われるわけにはいきません。仮にロシアから「われわれは友好国にだけ食糧を送る」と言われたらどうしようもありません。ロシアの蛮行は目に余ります。しかしながらこれら新興国は食糧を確保できなければどうしようもありません。理想やきれいごとだけでは生き抜けないのが世界の現実でもあります。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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