“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2022.02
中露蜜月時代へ

「ロシアの安全保障における正当な関心を中国政府は理解している」
 世界中がロシアのウクライナへの暴挙を非難する中、中国政府はロシアに配慮、ロシアの非を認めようとしません、ロシアが「ウクライナへ侵攻した」という事実認識をすることすら拒んでいます。中国外相の王氏は「ウクライナ問題は単純ではなく複雑で歴史的な経緯がある」と言うわけです。

 かように明らかなロシアの侵略行為に対して煮え切らない態度を取る中国政府に対して、米国のバイデン大統領は「ロシアを支持する国は全て汚名を着ることになるだろう」と中国を名指ししなかったものの、中国政府の実質ロシア支持の態度を非難しました。
 これに対しても中国外務省の報道官は激しく反発しています。「真に信用できない国は他国の国内問題に理不尽に干渉し、民主主義や人権の名の下に外国で戦争を起こす国だ」とイラク戦争やアフガン戦争を起こした米国を皮肉り、「米国政府がウクライナに武器を供給し、武力衝突をあおった可能性がある、今回の混乱は米国政府の責任だ」と米国政府を非難する有様です。

●ロシアの言い分と、中国の思惑(予想)
 今回のロシアによるウクライナ侵攻は暴挙ですが、ロシアにもロシアなりの理屈があります。ロシアからすれば「NATOが東方へ拡大し続けた、ロシアは自らの権益を守るために必要な措置を取らざると得なかった」と自らの被害者ぶりを強調しています。ロシアの懸念もわかりますが、それで今回のウクライナ侵攻の暴挙を正当化できるはずもありません。同じ民族で同胞でもあるウクライナに対してロシアが強引に戦争を仕掛けるとは常軌を逸した行為です。
 プーチン大統領としても、戦争を始めれば当然、欧米諸国や世界から強烈な制裁が科されるのは覚悟していたでしょうから、その対策も十分に考えていたはずです。そこで頼りにするのが中国というわけです。先に行われた中国での北京オリンピックでは主要国首脳の中でプーチン大統領だけが参加しました。
 当然、プーチン大統領と中国の習近平主席は首脳会談を行ったのですが、そこではロシアが中国に対して天然ガスの更なる大規模な供給を行うことが決まったわけです。
 まさにプーチン大統領としては後のウクライナ侵攻を考え、その時に欧米諸国から制裁を科されるのを計算づくで、北京オリンピック開催の時点から天然ガスの売り先を確保しておくという、用意周到な行為だったと思われます。
 また現実にロシアがウクライナ侵攻した後で、今度は中国がロシア産の小麦を大量に買い付けることを発表したわけです。これでは欧米諸国はじめ、世界がロシアの暴挙に制裁を与えても皆底抜けのようになってしまいます。
 中国政府がロシア政府からウクライナへの侵攻予定を聞いていたとは思いませんが、あまりの手際の良さに両者の見事な密月関係が演出されていると感じるわけです。

 実際中国にとって、今回のロシアによるウクライナ侵攻は極めて重要な将来におけるシュミレーションとなっています。
 習近平政権の悲願は、なんといっても台湾奪取です。今回ロシアのウクライナ侵攻がうまくいくのか、また米国はじめ、世界各国がどのような覚悟を持ってこの侵略行為に対して反対、あるいは厳しい制裁を科すのか、そしてそれがロシアにどれほどの被害を与えることとなるのか、またロシアは首尾よくウクライナを占領することができるのか、米国はじめ、NATOの動きがどのようなものなっていくか、など中国にとって知りたいことが山のようにあるはずです。
 単純に考えると、ロシアがウクライナを軍事的に占領することと、中国が台湾を軍事的に占領することの難易度を比べれば、ロシアがウクライナを占領する方が格段に難しいと思えるのです。というのもウクライナは欧州で地続きですし、兵器や物資を欧州側から輸送するのも容易です。ウクライナはかなり広いですし、かつて旧ソ連時代は核保有国だったわけです。いくらロシアといえども、多大な犠牲なしでウクライナを占領することは非常に難しいでしょう。
 またうまくロシアがウクライナを占領することができたとしても、そもそもウクライナの民衆がロシアを支持していませんから、その後の統治も極めて難航すると思えます。
 一方、中国の台湾侵攻を考えた場合、台湾は周りを海に囲まれていますし、中国本土と目と鼻の先ですから中国にとって輸送や物資の供給体制は容易です。
 いざとなれば、日本など参戦するはずもないと高をくくっていると思います。
 問題は米国だけで、本当に米国が台湾を巡って、中国と全面的にことを構えるかどうか、それだけが一番重要問題と思っていることでしょう。
 もっとも、ロシアのウクライナ占領のように、仮に中国が台湾を軍事的に占領しても、民衆が中国政府に従うはずもなく、統治は容易でないことは明らかです。それでも一番重要なことは、中国が台湾を軍事的に占領できるかどうかということでしょう。
 <孫氏の兵法>では「戦わずして勝つ」のが最もうまい勝ち方ということです。戦わないで勝つためには、戦う前に圧倒的な戦力の差を見せつけて、相手の戦う意思をくじくことです、そうなれば容易に占領にこぎつけるようになるというわけです。この圧倒的な戦力の差を作るために、中国政府として利用価値があるのがロシアではないでしょうか。

 今回の世界を震撼させた暴挙でもはやロシアは世界から総スカン状態となることでしょう。どの国も今後ロシアとは取引したくないでしょうし、ロシアに投資することもないでしょうし、ロシアからエネルギー供給を受けることも考え直すことでしょう。まさにロシアは人間世界におけるヤクザではないですが、付き合いたくない<ならず者国家>と成り下がりました。今後、欧米諸国や日本など先進国はじめ、どの国もロシアとは貿易でも交渉ごとでも関わりたくないわけです。
 今回の暴挙において、ロシアは今後将来にわたって国として相当に信用を失ったと思われます。そこでロシアに助け舟を出すのが中国というわけです。
 中国はその巨大な市場から膨大な需要が存在しています。どの国も中国との貿易額が一番大きくなるという傾向であり、中国の経済的なパワーは計り知れません。ですから今回、ロシアが欧米諸国から経済制裁、あるいは経済封鎖を受けたとしても、中国にべったり頼る形にすれば、急場をなんとかしのげるのではないでしょうか。

 一方で、中国にとってロシアの魅力はその卓越した軍事力です。
 核兵器の威力であり、今回ウクライナ侵攻でみせた、いざとなれば簡単に軍事力を行使するという手のつけられない暴れ者であるということです。仮に中国が本当に台湾に攻め込む局面を想像してみましょう。
 中国として台湾に攻め入る前に、<孫氏の兵法>のように圧倒的な軍事力の差を見せつけるために、仮にロシアと軍事同盟を結んだらどうでしょうか?
 中国とロシアがNATOのように軍事同盟を結んで、その巨大、且つ乱暴な軍事力行使を後ろ盾にして、台湾に攻め入ればどうなるでしょうか、日本などとても対抗できませんが、米国としても戦うのをためらうのではないでしょうか。
 そう考えると、今後ロシアが世界で孤立することは明らかでしょうし、当面の間ロシア経済は苦しい局面となるでしょう。そこを中国が助け、そして中国としても台湾侵攻を前にして、一時的にでもロシアと軍事同盟を結べばどうでしょうか。中国にとって悲願の台湾奪取が余計に容易になってくるのではないでしょうか。
 中国もロシアもお互いを真から信用しているわけではありませんし、共に覇権を目指している国同士ですから、いずれ対立する局面が訪れるとは思います。ただ現在は米国主導の世界にあって中国もロシアも共に独裁的な政治体制であり、民主主義国家とは対立構図が鮮明です。独裁国家同士でお互いの利益が一時的に重なっているわけです。
 少なくとも中国にとって、台湾を攻め入る前には強力な助っ人が欲しいところです。現在、ましてやこれからのロシアは喜んで中国の味方となり、台湾に攻め入ることを様々な面でバックアップしてくれるでしょう。最もロシアとしても、台湾有事で中国と同盟関係となれば、米国とことを構えることとなりますので、話は簡単ではありません。
 そのあたりは様々な交渉ごとで詳細を詰めるかもしれません。どちらにしても、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、今後の中国の台湾侵攻に道をつけることとなり、これからの中露のさらなる接近は際立ってくると感じます。
「台湾有事は日本の有事」と言われています。今回のロシアによるウクライナ侵攻は対岸の火事とは済ませられないのです。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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