中村陽子の都会にいても自給自足生活

このページは、認定NPO法人「メダカのがっこう」 理事長の中村陽子さんによるコラムページです。
舩井幸雄は生前、中村陽子さんの活動を大変応援していました。

2020.07.20(第70回)
そうだったのか種苗法改正

 種子の問題が頭から離れない中村です。よくよく調べ考え議論した結果、すべての事実がすっきりと符合する世界が見え、今度こそ悲しいほどすっきりと理解できました。まず、そのきっかけとなった記事をご紹介します。

「現代農業」8月号の「品種の海外流出防止と、農家の自家増殖は、全く別問題だった」という記事です。
 その中で元農水官僚の松延洋平氏の弁が解明してくれています。松延氏曰く「海外流出の多くは、現地で種苗登録さえしていれば防げた話です。それを怠った農研機構や制度の整備を怠った農水省にこそ責任がある。農家が自家増殖しているせいじゃありません。しかし法案を読むと、まるで悪いは農家の自家増殖であって、自分たちじゃないと言っているように思える。農水省は責任逃れのために2つの問題をセットにして、結果、農家を仲間割れさせている。農家はもっと怒っていい」とのこと。

 現代農業としては、「品種の海外流出」と「農家の自家増殖」を分けた法案にすれば、農家同士が争う理由はないはずだ。という提案です。ここで、海外流出は農家の自家増殖のせいではないということが分かりました。
 しかしここで私は、種子法廃止の時も、種苗法改正の時も、農水省知財課の方が、これはUPOV1991という国際条約に日本の国内法を合わせるために行っている、2017年から行われている種子への政策は遅きに失した、という発言を思い出しました。UPOVは「ゆぽふ」と読み、日本名は、「植物の新品種の保護に関する国際条約」です。内容は新品種の開発者の知的財産権を守る条約で、日本を含む75か国が加盟しています。また、国内法整備は、TPPやFTAなど自由貿易協定を結ぶ国々の必須条件になっています。

 実は、日本は知的財産権立国を目指しているので、それに従って、農水省の方はUPOV条約で求められていることを実行しているだけなのです。「日本の優秀なブドウやイチゴなどの品種が海外に流出するのを防止するため」というのは自家増殖原則禁止という国民の反発が強い内容の改正をするための理由として使われたのです。

 UPOV条約は、超グローバル企業に有利になるような条約です。超グローバル企業とは、モンサントを吸収したバイエル、ダウ・デュポン、シンジェンタなどで、上位6社で、約450億ドルの種子市場の6割以上、約499億ドルの農薬市場の8割以上を独占し、さらに経営統合が進み4社くらいに集約中です。彼らが売りたいのは、遺伝子組み換えの種子と農薬です。グローバル企業とは、その名の通り、特にどの国にも愛着はなく、利益のためならどの国の国土や国民がダメになっても構いません。

 UPOV条約は、加盟国に以下のことを求めてきます。
1.公共の種子生産の縮小・・・これについては、日本は2018年4月種子法を廃止しました。
2.自家増殖の禁止・・・これについては、日本は種苗法改正で実行しようとしています。
3.農薬・農機具・流通・卸先まで開発者が指示できるようにする・・・これについては、日本は農業競争力強化支援法でこれを明記し、種苗法から農家の加工、流通には開発者の権利は及ばないというくだりを削除してあります。
4.市場には登録品種しか流通できない・・・これは日本ではまだ法整備されていません。

 UPOV条約を実行したインドでは、公共の種子生産をやめてしまい、自家採種も禁止し、インドに合った綿花栽培から、ほぼ90%がモンサントの遺伝子組み換え綿花に変えたところ、気候に合わず収穫量と綿花の質が低下し、さらに自家採種が禁止されていたので、農家は借金が重なり10万人もの農民が自殺に追い込まれました。

 アルゼンチンではまず在来種の種子が取り上げられ、選択肢がなくなった農民が、遺伝子組み換え大豆の栽培で多くの農薬が撒かれた結果、農民のがんの発症が40倍になり50歳まで生きるものがいなくなりました。抗議活動によって住居地から1000mの範囲は農薬散布禁止することにはなりましたが、国としてはUPOV条約に従ったままです。

 UPOV条約は、超グローバル企業に有利な条約なので、これに従って得をする国民はありません。インドや南米などの農業国には、遺伝子組み換えの種子と農薬を買わせ、たくさんの遺伝子組み換え作物を生産させ、日本のような食料自給率が低い国には、遺伝子組み換え作物や農薬がいっぱいかかった作物を買わせているのです。

 日本政府は驚いたことに、外圧によってUPOV条約に従った国内法整備をやっている感じではありません。TPPをアメリカ抜きでも率先して結ぼうとしているように、世界の超グローバル企業をお手本に日本のグローバル企業も強く育てるつもりです。
 そのためには率先して遺伝子組み換え作物や農薬がいっぱいの作物を買い、国民に気付かせないように食べさせたいと思っています。実際、世界で一番遺伝子組み換えの許可品目が多く、モンサントの指示に従って、世界で一番残留農薬の基準を高くしました。食品安全委員会が大丈夫だと言っているから安全だと普通の国民は思っていますが、遺伝子組み換えの農薬使用量に合わせて残留基準を高くしているので、いつでも基準内なのです。
 また、遺伝子組み換えを国民が気にするので、まずゲノム編集という遺伝子操作食品を遺伝子組み換えでないとして許可し、2023年には、遺伝子組み換えの表示義務もなくす予定です。

 農業についてですが、日本政府は、日本の農業はなくなっても構わないと思っています。種子法廃止で安くて良い種子をなくしてしまったのも、種苗法改正で自家増殖を許諾性にするのも、その表れです。しかも農家への所得補償は世界一低く2割程度です。EU各国では農業は国土を守るものであり食糧安全保障の要であるので、農家の収入の100%〜90%の所得補償が普通です。
 食料についてですが、日本政府は、食料は外国から買ったほうが良いと思っています。それは車や工業製品を輸出するためです。せめて農産物を輸入して貿易摩擦を少なくしたいと思っています。たとえ、気候変動や食糧危機が来ても、お金にものを言わせて日本の食料を調達できると思っています。またアマゾンを焼き払い日本用の農地を確保して食料を生産できると思っています。

 国民の健康についてですが、日本政府は、農薬や遺伝子組み換えで病気の国民が増えても、医薬品の開発につながり、収益につながるので根本的な解決はしなくて良いと思っています。
 日本政府は、農水省も厚生省も、もうけが第一の産業と考えており、いずれ財務省の一部となる日が来てもいいと思っています。強い農業、強い医療という言葉にはそれが表れています。
 しかしこれだけ日本が目指しているグローバル企業ですが、考えてみると、とても単純です。彼らは、農薬や遺伝子組み換え食品のせいで、世界中で何十万人も死んでも何百万人が病気になっても、ただただ農薬や医薬品が売りたいだけなのです。ただ彼らは、地球上の人口を5億人にするという大命題に従っているだけとも考えられます。そうでもなければ、普通の心を持った人間にできる所業ではありませんから。
 それでも、2017年から、なぜ、なぜ、どうして、どうして国が国民にこんなことするのだろう? と分からなかった種子法廃止も、農業競争力強化支援法も、種苗法改正も、もろもろの官から民への動きも、グローバル企業や政府の思惑が分かったら、スッキリわかりました。

 私は今がっかりしていません。分かったら、どうしたらいいかも、考えられるようになりました。それは次回にします。お楽しみに。

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Profile:中村 陽子(なかむら ようこ)
中村 陽子(なかむら ようこ)
首のタオルにシュレーゲル青ガエルが
いるので、とてもうれしそうな顔を
してい ます。

1953年東京生まれ。武蔵野市在住。母、夫の3人家族。3人の子どもはすべて独立、孫は3人。 長男の不登校を機に1994年「登校拒否の子供たちの進路を考える研究会」の事務局長。母の病気を機に1996年から海のミネラル研究会主宰、随時、講演会主催。2001年、瑞穂(みずほ)の国の自然再生を可能にする、“薬を使わず生きものに配慮した田んぼ=草も虫も人もみんなが元氣に生きられる田んぼ”に魅せられて「NPO法人 メダカのがっこう」設立。理事長に就任。2007年神田神保町に、食から日本人の心身を立て直すため、原料から無農薬・無添加で、肉、卵、乳製品、砂糖を使わないお米中心のお食事が食べられる「お米ダイニング」というメダカのがっこうのショールームを開く。自給自足くらぶ実践編で、米、味噌、醤油、梅干し、たくあん、オイル」を手造りし、「都会に居ても自給自足生活」の二重生活を提案。神田神保町のお米ダイニングでは毎週水曜と土曜に自給自足くらぶの教室を開催。生きる力アップを提供。2014年、NPO法人メダカのがっこうが東京都の認定NPO法人に承認される。「いのちを大切にする農家と手を結んで、生きる環境と食糧に困らない日本を子や孫に残せるような先祖になる」というのが目標である。尊敬する人は、風の谷のナウシカ。怒りで真っ赤になったオームの目が、一つの命を群れに返すことで怒りが消え、大地との絆を取り戻すシーンを胸に秘め、焦らず迷わずに1つ1つの命が生きていける環境を取り戻していく覚悟である。
★認定NPO法人メダカのがっこうHP: http://npomedaka.net/

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