ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測

このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。

2022.04.01(第98回)
ロシアが見る世界情勢

 今回は、ロシアの報道から見える世界情勢についてお伝えする。いま日本の主要メディアでは、欧米の報道のシナリオにしたがった内容が一方的に流されている。このシナリオに合わない内容は排除され、報道されることはない。こうした内容を見たものは、欧米の世界観を容認する方向に誘導される。

 しかしこれは、いま起こっているウクライナ侵攻の反面に過ぎない。もちろん軍事侵攻とそれが引き起こしている悲劇は強く非難されるべきだが、ロシアの報道から見られる現実も知っておかなければならない。欧米や日本の報道だけを真実とし、ロシアの報道内容をすべてフェイクニュースだとする見方こそ誘導であり、フェイクニュースであると思う。

 もちろん、ロシアの報道内容がすべて真実であるわけではない。こちらはこちらで西側と同様の情報操作が行われている。だが、なにが起こっているのか理解するためには、ロシアが世界の情勢をどのように見ているのか知ることはとても重要だ。

 また、いまウクライナへの支援が高まるにつれ、ロシア人やロシアに関係するあらゆるものへの憎しみと排斥が起こっている。そのような集合的な感情のうねりに流されると、最終的にそのマイナスのエネルギーは、すべて自分自身が受けることになる。憎しみの感情が制御できないと、自分の人生の軌道を狂わすことにもなりかねない。

 憎しみの集合的な感情に巻き込まれないためにも、日本を含めた西側の報道に支配されないようにしなければならない。そのためには、反対側のロシアの報道を見ることも重要だ。

 むろん、ロシアの報道がすべて真実であるわけではない。ロシアにはロシアのプロパガンダがある。しかしロシアのメディアの報道は、日本を含めた西側のメディアが、自分たちの喧伝するシナリオに合致しないために、フェイクニュースのレッテルを張って排除した 別の側面の事実が見えてくる。

 ウクライナに同情するあまりロシアを憎むという世界的に荒れ狂う集合的な感情のうねりに流されないためにも、西側とロシア両方のメディアを参照し、なにが起こっているのか包括的に情勢を把握するべきだと思う。いまロシアのメディアは一斉にSNSのアカウントが削除され、また西側のネットもつながりにくくなっている。西側の言論統制だ。

 だが、ロシア国営放送の「ロシア・ツデー(RT)」、「タス通信」、「プラウダ」などはまだつながる。ちなみに筆者は、「アルジャジーラ」や「DW(ドイツ公共放送)」のライブ放送、そして「BBC」などの西側メディアと、「ロシア・ツデー(RT)」のライブ放送、さらに「タス」や「プラウダ」などを交互に見るようにしている。

●ロシア国内で高まるナショナリズム
 まず西側の報道から排除されているのが、ロシア国内のナショナリズムの高まりである。日本ではウクライナ侵攻が始まった2月24日以降、ロシア各地で侵攻に抗議する運動が始まり、1万5000人を越えるロシア国民が拘束され、強い言論統制が続いているというニュースが多い。

 また、「ロシア国営第一放送」の職員による番組内での抗議、ジャーナリストによる報道内容がプロパガンダで事実を反映していないとする訴え、またウクライナに派遣されたロシア軍兵士の母親による切なる反戦の訴えなど、ロシア国内でも国民の反戦意識が高まりつつあり、プーチン離れが進んでいるとの印象を受ける。プーチンの命運はさほど長くはないとの論評もテレビや新聞でよく耳にする。

 しかし、ロシア国内のメディアや欧米のロシア専門家の書いた分析を見ると、ウクライナ侵攻の支持が予想以上に高いのが分かる。以下はロシア政府の影響下にはない独立系の調査プロジェクト、「ロシア人は戦争を求めているのか」の調査結果だ。

 軍事作戦を支持するか?
 ・支持する  63%
 ・支持しない  7%
 ・その他   30%

 軍事作戦についての情報源
 ・テレビ   75%

 これを見ると分かるが、ウクライナ侵攻の軍事作戦の支持は6割を越えている。ロシア国民の過半数が支持している。これはアメリカの調査会社、「スタティスティカ」が2月末に行ったプーチン大統領の支持率は以下のような結果だった。

 プーチン大統領の支持率
 ・支持  71%
 ・不支持 27%

 これは1月の69%、12月の65%、11月の63%などよりも顕著に高い数値である。明らかにウクライナとの緊張の高まりにつれ支持率は上昇し、侵攻後はさらに高まった。これを見ると、ウクライナ侵攻とプーチン大統領の支持率は明確に連動している。

 また、軍事作戦の情報源がテレビであると答えた割合が75%だったので、作戦の支持率が高い背景のひとつは、国営放送が中心のテレビがメインの情報源であることにあるようだ。この事実から日本の主要メディアでは、ロシア国民の支持率の高さは国営テレビの情報操作のたまものだとされている。

●比較的高いネットの普及率
 日本や欧米の喧伝とは異なり、いまロシアではウクライナ侵攻に反対し、抗議をしているのはかなりの少数派であることが分かる。別な調査によると、抗議運動は、高学歴で40歳以下の大都市圏の居住者に限定されているようだ。こうした層は、ネットなど国営テレビ以外の情報源を見ているので、大多数のロシア国民とは異なった見方をしているという。

 しかしながら、ネットとSNSがメインの時代で、国営テレビの情報操作だけで、過半数を越える63%もの国民が軍事作戦を支持し、71%がプーチンを支持するとはちょっと考えにくい。

 ロシアではネットが遮断されているわけではない。「フェースブック」や「ツイッター」、そして「インスタグラム」などがウクライナ侵攻後に遮断されているが、中国ではかなり以前から禁止されている「ユーチューブ」や「テレグラム」はいまもアクセス可能でロシアを非難する投稿も多く見られる。

 ロシアのネットの普及率は85%だ。これはオーストラリアとほぼ同等の水準だ。ネットによる情報収集が高学歴の若年層に限定されているとは考えにくい。

●ロシアで共有されているトラウマ
 このような現状を見ると、軍事作戦とプーチン大統領の支持の高さの理由はまったく別のところにありそうだ。実は欧米のロシア専門家やロシアのメディアがこぞって指摘するのは、国民的なトラウマの共有である。

 ロシア人は混乱と不安定に慣れている。彼らは20世紀から21世紀初頭にかけて、自分たちの政治的指導者によって行われた残酷な社会実験に耐えてきた。ミハイル・ゴルバチョフという稀有な例を除けば、この時期のロシアの指導者は決して民主的ではなかった。

 第一次世界大戦に参戦したロシアは、弱小の皇帝に率いられ、その結果、貧しくなってしまった。しかし、ボルシェビキの蜂起によって、皇帝の支配は無残にも崩壊し、ソ連の支配が何十年にもわたって続いた。1917年から1956年までのスターリンによる大量弾圧で、何百万人もの国民が収容所に追放され、その多くが冷酷に処刑され、ソビエト国家が作られた。

 私有財産は1929年に廃止され、政治指導者はソビエト国家に絶対的かつ無私の服従を命じられた。第二次世界大戦では、子供も含めたすべての国民に辛い犠牲を強いることになった。2700万人がナチスドイツとの戦争で死亡している。

 戦争が終わると、疲弊したソ連は鉄のカーテンという比喩を使い、国民が西側諸国へ渡ったり、連絡を取ったりするのを阻んだ。ソ連は共産主義の影響力を拡大しようとし、冷戦を引き起こした。この間、農業改革に失敗し、食糧配給制が導入された。1991年のソ連邦の崩壊は、新生ロシアに経済的な混乱をもたらし、失業や高い自殺率ももたらした。73歳だったロシア国民の平均寿命は59歳まで下がった。飢えとストレスでバタバタと人が死んだのである。

 これはロシア人が、経済制裁によるモノの不在に怯えてはいられないことを示唆している。高級ファッションブランド、「iPhone」、高級コーヒー、外車などは、過去20年の間にロシア人の生活の一部となったが、ロシア人はそれらを手に入れた期間があまりにも短く、それらなしの生活には問題なく耐えられる。

 さらに、高級品ビジネス(ロシアではマクドナルドが高級品とされている)のほとんどはモスクワとその近郊で展開されており、圧倒的多数のロシア人は自分の街でそれらを目にすることはなかったのである。

●ロシア国民のアイデンティティと共通の敵
 歴史的に見ると、政治的・経済的な闘争は、特に共通の敵に直面したとき、ロシアとその国民を団結させた。その敵とは、伝統的に西側諸国であった。

 第二次世界大戦と冷戦は、ソビエトのアイデンティティの中心である自己犠牲の思想のもとに国民を団結させた。そのアイデンティティとは、ソビエトの例外主義のようなもので、西洋の腐りやすい肉よりも、民族の魂を大切にする、道徳的に優れた国家というものであった。

 ソ連のアイデンティティは、ロシアだけでなく、さまざまな民族を包含している。ソ連の首都はモスクワ、公用語はロシア語であったが、ソ連はさらに14の共和国からなり、100以上の民族を束ねていた。ロシア語やロシア文化の普及という強制的な同化、ソビエト化という国家によるあらゆるものの独占と集団思考が相まって、同一性がしばしば押し付けられたため、民族の統一を主張することには無理がある。

 だがその結果、「ソ連人」のアイデンティティが生まれた。それは、ウクライナ人、ロシア人、グルジア人、ベラルーシ人、アルメニア人、アゼルバイジャン人、エストニア人など、ソ連に住んでいた人たちを指すのだ。

 第二次世界大戦と冷戦は、ソ連のアイデンティティの中心である自己犠牲の考えを中心にソ連を統一した。ソ連は、愛国心とロシアを中核とする祖国への忠誠心を高めるきっかけとして、ソ連の同質性と国民の道徳的犠牲を美化する尊大な言説を用いた。

 ソ連は崩壊した。しかし、やがて「ロシア」と「ソ連」は、国内でも海外でも、同じように理解され、使われるようになった。したがって、多くのロシア人、特にソ連で生まれ育った人々にとって、ウクライナが西側を受け入れるのを見ることは、ロシアの歴史の一部を一緒に手放すことを意味するのだ。

●危機のときに国家に結集
 もちろん、すべてのロシア人が、ウクライナでの戦争と、それに引きずり込んだ政府を支持しているわけではない。しかし、すべてのロシア人が制裁と危機で苦しんでいる。その共通の苦しみは危険なものだ。あまりにも身近なものであるため、彼らは怒り、なかには反撃に出ようとする者もいる。

 その可能性は、ソ連時代に作られ、今ではソ連崩壊後のロシアで育った世代にまで影響を与えている、ロシアの国民性に起因している。言論の自由、自己決定、宗教の自由、無制限の旅行など、歴史的にロシア人が持っていなかったものなのだ。それらを手放すことは容易にできる。

 その代わり、ロシアの人々は忍耐強く、ストイックで、しばしば独裁的な指導者が戦争を始めた残酷な祖国に不合理に献身的なのだ。現在、ウクライナを爆撃し、破壊している侵略者の国は、彼らの愛する祖国でもあり、今では世界で唯一、ありのままの自分たちを受け入れてくれる場所でもあるのだ。

 ロシア人にとって、自国が国際的に疎外されることは、気候変動政策からスポーツ、そして広く非難されたクリミア併合などの外交問題に至るまで、目新しいことではない。しかし、今日の状況は極端だ。国際社会から拒絶されたと感じたロシア人は、プーチン大統領に結集している。

●カラー革命でアメリカに仕掛けられる
 そうしたメンタリティーのもと、ロシア人はプーチン政権の世界観を共有している。それは、ロシアはいつも欧米の脅威にさらされており、解体されるかもしれないという深刻な危機感だ。

 周知のように、アメリカを中心とするNATOは、ソ連が崩壊する少し前の1990年に、当時のゴルバチョフ書記長に対してNATOは1インチたりとも東(ソ連)に拡大しないと約束したにもかかわらず、1997年以降NATOは東方に拡大し、ロシアにとっては安全保障上の脅威となるジョージャやウクライナを将来的なNATOの加盟国候補にした。

 ナポレオンやナチスドイツ、そして冷戦がそうであったように、ロシアの歴史的な脅威はいつも欧米であった。その軍事組織であるNATOがロシアの喉元にまで迫るということは、NATOがロシアの解体を狙うプランがあるのではないかと疑心暗鬼になった。

 さらに、2003年から2005年の2年間に中央アジアの旧ソビエトの共和国で「カラー革命」という民主化要求運動が起こり、グルジア、ウクライナ、キルギスなどの親ロシア派の政権が打倒され、欧米寄りの政権が樹立された。欧米ではこれは、民衆の民主化要求運動が結実した結果であると喧伝されているが、ロシアはそのようには見ていない。

「カラー革命」では、米国務省と国際開発庁、そしてCIAの管轄下にある「全米民主主義基金(NED)」や「フリーダムハウス」などのNGOが、抗議運動の組織や活動家の訓練に深くかかわっていた。ロシアにとってこれは、NATOの東方拡大同様、ロシア人を追い詰め最終的にロシアを解体するための計画の一環だと見られた。

 そして、2012年のロシアの大統領選挙では、「カラー革命」と同様の手口がロシアで仕掛けられ、反プーチンの抗議運動が起こった。プーチンは大統領選挙に勝利したものの、危うい選挙となった。

 さらに2014年にウクライナで発生した「マイダン革命」も同じ工作が仕掛けられていたことは、多くのジャーナリストの調査から分かっている。プーチン大統領はよく「マイダン・テクノロジー」というが、それはこのことを指している。

 このように、ソビエトが崩壊した1991年12月から現在までロシアは、民主主義を外交手段として使い、利害に合致しない体制を内部から崩壊へと追い込む欧米の脅威にさらされていると見ている。これは、プーチン政権と大多数のロシア国民が共有する認識になっている。

 このように見ると、いまのロシアとその国民は「傷ついた熊」のようなものかもしれない。ロシアに最大限の経済制裁を課し、欧米中心の国際秩序からロシアを排除する現在の方針は、裏目に出る可能性が高い。追い詰めれば追い詰めるほど、ロシアの国民は政府と一体となり、反撃するのではないかと思う。少なくとも、ロシアの論理を内部から見るこのような視点は大変に重要だ。

 だが、戦争が長引くにつれ、そうしたメンタリティーのロシア国民の間でも厭戦気分が高まり、世代を越えた反戦の抗議運動が高まる可能性も排除できない。筆者はそのような方向に向かうことを真に望むがどうだろうか?

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Profile:高島 康司(たかしま やすし)
高島 康司(たかしま やすし)

社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/

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