ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測

このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。

2022.08.01(第102回)
安倍元首相の殺害の意味

 2022年7月8日は、日本の歴史に残る転換の日として記憶されることだろう。奈良県、大和西大寺駅の近くで 7月10日に行われる第26回参議院選挙の遊説中に、山上徹也容疑者に背後から銃撃され、安倍元首相は死亡した。元首相殺害の激震は、日本のみならず海外にも走った。

 この殺害事件は、三つの点で同種のテロがこれから日本で拡大する可能性を示唆している。一つは容疑者は特定の宗教団体によって家族がバラバラになったと逆恨みした単独犯の犯行であるという点だ。次に、容疑者は過激思想を持つ特定の集団の指令で行った犯行ではない点だ。そして最後は、銃撃に使われたのは手製の武器であったという点だ。これら三点から、同種のテロは政治家を殺害する動機のあるものであれば、基本的には誰でも実行可能であることを示した。

 残念ながら日本では、これから政治家やエリートを狙った同種の殺害事件が多発するものと思われる。それというのもいまの日本では、社会に対するストレスが沸点に達しており、いつ爆発してもおかしくない状況だからだ。
 30年近く続く低賃金状態、拡大する格差、放棄された終身雇用、拡大する派遣と低賃金労働、若者や女性を中心とした自殺の増加などという多くの国民が直面する苦しい状況がある一方、企業の巨額な内部留保金、日銀が演出する高株価とミニバブル、所得を増加させた富裕層、有効な政策を出せずに停滞する政党政治などの現象がある。
 こうした長年続く極度の閉塞状態に苛立つ国民は多い。そしてそのストレスを、派遣と低賃金労働に喘ぎ、ある程度の学歴があるにもかかわらず、結婚もできず将来も見えず、生きる意味と希望を失った「無敵の人々」が集中的に表出するようになっている。したがって、安倍元首相の殺害は、日本社会で沸点に達したストレスを表出する「無敵の人々」に、新たな表出方法の可能性を示したのである。つまり、要人殺害という方法である。

●ストレスを爆発させる段階
 これまで日本では、社会のストレスの表出方法は段階的に変化してきたように思う。最初は自殺だ。社会に恨みを持つ人々が静かに死んで行く。次は公共の場で不特定多数の人々をターゲットにした暴力だ。電車内での人の殺害、レストランやネットカフェでの立て籠もりのような事件だ。そして次の段階が、安倍元首相の殺害のような日本の要人を狙った犯行である。
 いま、社会のストレスの発散は、第三段階に到達した感がある。安倍元首相を殺害した方法は、社会に一矢報いて死ぬ覚悟をした無数にいる「無敵の人々」に、「そうか!この方法がある!」というインスピレーションを与え、そのバイブレーションはSNSで拡散することだろう。

●ストレス表出の第4段階としての思想
 しかしながら、さらにその上には第4の段階がある。それは、要人殺害とテロを正当化する思想の拡大である。ISにシンパシーを持つ人々が共感するイスラム原理主義にあたるような思想である。日本の戦前はテロの時代であった。1921年の原敬首相の暗殺から1936年の226事件まで、日本でも要人を標的にしたテロが横行した。1932年には日蓮宗の僧侶、井上日召が率いるテログループが三井財閥総帥の団琢磨や元大蔵大臣の井上準之助などを暗殺した血盟団事件が起こった。
 井上日召は法華経と日蓮の教えを曲解した独自の思想を展開していた。日召によると、宇宙全体が生命体であり、その清浄なエネルギーはすべての生命体に仏として宿っている。生命体が死ぬと、大本に戻って宇宙生命に溶け込み、これと一体化する。しかし、日本を支配している勢力は我欲と権力欲、そして金銭欲にまみれ、自己の内面に宿る仏性を完全に忘れている。これが日本社会が歪んでいる主要な原因だ。
 これを是正するためには、我欲の強い支配層を殺害して大本の宇宙生命に引き戻さなければならない。これは彼らを成仏させることになるので、殺害は善の行為である。このような極端な思想を唱え、「一人一殺」をスローガンとして要人の殺害を正当化した。

 この極端な思想は、血盟団の構成員のみならず、昭和恐慌で落ち込んだ経済と、農村の婦女子が身売りをしなければ食べて行けないような極端な格差に喘ぎ、将来の希望と生きる意味を失った当時の「無敵の人々」に広く支持された。これはまさにテロの多発を誘導する起爆剤のような思想になった。
 これが、鬱屈した社会のストレスを発散させる第4段階である。もちろん、この段階にいまの日本が到達しているわけではない。しかし、今回の安倍元首相の殺害が引き金になり、殺害を正当化する極端な思想が形成されない保証はない。SNSであらゆるメッセージが瞬く間に拡散する現代である。ある鬱積した「無敵の人」のつぶやきが話題となり、そこから危険な思想が出現しないとも限らないのだ。安倍元首相の殺害で、日本は新たな時代に突入したのかもしれない。要人を狙ったテロが連鎖する戦前のような時代である。

●安倍元首相殺害の別な側面、ウクライナ
 しかし、安倍元首相殺害には社会の鬱屈したストレスの発散とは異なったもうひとつの側面があることに気づかねばならない。それは、長期化しつつあるウクライナ戦争との関係である。
 今回の安倍元首相殺害のタイミングを見ると、興味深いことに気づく。いまウクライナでは侵攻したロシア軍との間で激しい戦闘が続いているが、日本のメディアで喧伝されているウクライナ軍の善戦というイメージとは異なり、圧倒的な軍事力を持つロシア軍の勝利が確定しつつある。ロシアは東部のルガンスクとドネツク、そして南部のサボリージャとヘルソンの4州を占領し、この地域をロシアの緩衝地帯にする構えだ。この目標はかなりの程度実現しつつある。
 一方ウクライナのゼレンスキー政権は、ロシア軍の侵攻する2月24日以前の状態まで領土を回復し、さらに2014年にロシアが併合したクリミアの奪還までも目標にしている。いまのロシア軍が優勢な状況だと、この目標の実現はほぼ不可能である。諦めるしかない。

 こうした状況でウクライナ戦争を終結する唯一の方途は、ロシアとウクライナとの和平交渉しかない。しかし和平交渉は、ウクライナの領土の一部をロシアへの割譲を許す苦汁の決断を要求するだろう。これにゼレンスキー政権は到底耐えられない。すると、第三国の仲介でゼレンスキー政権を説得し、和平交渉のテーブルに着かせねばならない。ウクライナの軍事的支援に前のめりになっているアメリカのバイデン政権内部にも、早期の和平交渉を提案する声が次第に強くなっている。
 いずれ詳しく書くが、ウクライナ戦争は、バイデン政権を実質的に支配している「外交問題評議会(CFR)」と、そこに結集している軍産複合体が、ロシアを弱体化し、プーチンを失脚させるために引き起こした戦争である。CIAなどの情報機関も含めて、この勢力をネオコンやディープステーツと呼ぶ。
 しかし、ロシアの経済はウクライナ戦争で弱体化するどころか、資源大国のロシアは、逆に中ロ関係を強化してBRICSの結束を図りながら、人民元やルーブルを決済通貨とした新しい経済圏を作りつつある。ロシア経済圏の弱体化どころの話ではない。その逆である。

 そうした状況なので、ネオコンの描いたシナリオは求心力を失い、和平交渉を支持するバイデン政権内の派閥が力を持ち始めている。そして、もし和平交渉となると、ロシアのプーチン大統領とよい関係のしかるべき人物による仲介が必要になる。そのとき、候補の一人に内外で声が上がるのが、プーチンと40回以上会談し、ウクライナ戦争による報復制裁で日本の閣僚と政治家がロシア入国を禁止されているにもかかわらず、唯一の例外としていまだに入国を許されている安倍氏なのである。安倍氏は、ロシアとの仲介のいわば切り札になり得る存在だった。
 そのような安倍元首相がこのタイミングで殺害されたということは、殺害はネオコンのCIAが実行した可能性を想像させる。もちろん、いまのところこれを示す証拠はまったくないが、仮説としてはあってもおかしくないことだ。

 もし安倍元首相が、本当にCIAかネオコンの一派によって暗殺されたのだとしたら、この勢力の狙いは、ロシアとの和平交渉を拒絶し、ウクライナ戦争の長期化であることになる。ウクライナを徹底的に荒廃させ、主要国の対ロシア制裁による高インフレと深刻な景気後退のリスクがあっても、戦争の長期化によるロシアの弱体化を優先する戦略である。安倍氏の死によって、この方向へと舵が切られた可能性があるのだ。ということでは、安倍氏の殺害は歴史的な意味を持っていることになる。

●闇の連鎖に入る日本
 いずれにせよ、このように安倍元首相の殺害の複数の意味を読み取ると、日本はすべてを失った「無敵の人々」を中心に、鬱積した社会的ストレスが、日本の政治的、経済的な支配エリートを標的にして噴出する可能性が高くなったように思う。

 安倍元首相の殺害で、日本は新たな歴史的段階に入ったかもしれない。これから先に書いた第4の発散の段階、つまりSNSを中心にテロを正当化する新たな危険思想が出てくるのかどうか、見極めなければならない。意外にこうした思想は、いま日本で興隆しているスピリチュアル系の分野で出てくるのかもしれない。戦前の日本ではテロが横行した。そしてそれを正当化する思想的なリソースも豊富である。誰かがこれをよみがえらせるのかもしれない。要注意だ。

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Profile:高島 康司(たかしま やすし)
高島 康司(たかしま やすし)

社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
★ヤスの備忘録: http://ytaka2011.blog105.fc2.com/
★ヤスの英語: http://www.yasunoeigo.com/

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