“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2009.11
デフレとインフレ

 日本政府は11月20日に「日本経済は物価が持続的に下落する緩やかなデフレ状態ある」と正式に表明しました。2006年6月以来、3年5ヵ月ぶりです。 一方で世界の市場を見渡すと、金(ゴールド)の価格が新高値に躍り出るなど、インフレの兆しが現われてきています。このデフレとインフレという正反対な状況が同時に叫ばれているわけですが、いったいどのように判断したらいいのでしょうか?

リーマンショック以来、日本経済が回復しない理由(わけ)
 デフレと宣言された日本経済ですが、実は今インフレに苦しみだしています。世界中で余った資金が金(ゴールド)や石油、銅、ニッケルなどの資源に向かっていて、この資源価格は年初から倍近くなっているのです。当然、日本には資源はありませんから、海外からの輸入ということになります。このため、この輸入代金が膨らんでいくという、まさにインフレの影響を受けているのです。ポリエステルなどの繊維原料も上昇していますし、まだ日本への波及はしていませんが、コメなどの食糧価格も海外では上昇中ですので、やがて影響が出てくるでしょう。

 ではいったいなぜ、デフレになるのでしょうか?
 これは単純に物が売れずに余っているからです。日本のGDP(国民総生産)は約500兆円ですが、このうちの40兆円が、“デフレギャップ”といって余剰なのです。一生懸命つくった、40兆円分の仕事でできた製品の売り先がないのです。勢い、叩き売るしかありません。現金にできなければ、在庫になり、資金回収とならないからです。
 昨年まではアメリカをはじめ、世界経済も好調で、つくった製品もさばけたのですが、リーマンショック以来、世界は変わりました。特に、日本の大事な輸出先であるアメリカの“借金消費”が音を立てて崩れたのです。借金消費ですから一度買えなくなると、もう元のような放漫消費はできなくなってきているのです。日本経済の場合は、この放漫消費に支えられた需要を作っていたわけなので、元の状態には戻れないのです。アメリカの消費は爆発的だったわけで、中国や新興諸国の消費とはわけが違います。特に日本は高付加価値の商品を得意としていますし、このアメリカ消費の腰折れは致命的なのです。日本国内は見渡せばわかりますが、基本的に物は行き届いていますから、余った40兆円分の製品を買う余力などありません。
 となるとどういうことになるか? と言いますと、各企業が我先にと生き残りをかけて、物を売る、いわゆる安くても売りきるという行動に日本全体として動いてきているわけです。一般国民の懐(ふところ)状態を見ると、これも大変な状況になりつつあります。冬のボーナスは14%減というかつてない厳しい状況で、とてもお気楽に消費するというような状況ではありません。生活防衛のためには節約しかないのです。実際、この20年近くの日本経済の状況を見れば、名目、いわゆる我々が肌で感じるお金の面でいえば、ほとんど成長していないわけです。所得は20年間ほとんど変わっていないと言ってもいいでしょう。
 今回、GDPの発表で4.8%増ということで如何にも成長しているような感じを抱きますが、この数字は「実質GDP」と言って、物価下落を調整した数字です。我々が実感するのは名目値、まさにもらったお金の額になりますので、この感覚からすれば、日本経済は全く成長していないのです。成長していないどころか名目GDPは0.3%のマイナスです。1,000円以下のジーンズが話題となりましたが、980円が出たと思いや850円の出現、さらにはドンキホーテは650円という破格のジーンズを発売、3万着は瞬く間に売り切れとなったのです。同じくユニクロの開店には2,000人の列ができるという有様です。これは景気がいいのではなく、消費者の悲鳴を現している状況というしかありません。
 政府は、9月の全国消費者物価指数の下落率を2.3%(前年同月比)と発表しましたが、これら統計には今値下げ競争の先陣を走っている、いわゆるプライベートブランド(PB)は調査の対象には入っていません。現実にはもっと激しい安売り合戦が日本中で展開されつつあるのです。
 ところがこのようなデフレ合戦を繰り返す各企業の原料仕入れ価格は、先に言ったような世界的なインフレの影響で上昇するばかりです。値下げが命題なのに、値上げして売れるわけはありませんから、どうしてもこのコスト上昇分は各企業の負担となるしかありません。それが回り回って収益の低下、支払い賃金の引き下げ、儲からないから税金を収める額も減り、結果として国庫収入の悪化というサイクルになってしまい、日本全体がまさにデフレスパイラルに陥っているのです。

インフレの影響を受けながらのデフレ状態
 今回のデフレ状態が普通のデフレよりタチが悪いのは、先にも言ったように、インフレの影響も受けながらのデフレ状態の出現だからです。悪いところばかりを受けていると言っていいでしょう。
 解決策はあるのでしょうか? 残念ながらないのです。このデフレギャップの40兆円部分は、もう戻らない消費に対しての余剰な供給部分と捉えなければなりません。政府が今、一時的にエコ減税とかエコカーに対しての補助をして消費を盛り上げようとしていますが、これら耐久消費材は一度買ったらしばらく買いません。世界中で、政府のお金で需要の先食いをしているだけなのです。ですからかろうじて経済はもっていますが、この40兆円部分の過剰設備は基本的には削減するしか方法はないでしょう。今のように無理やり援助してもたせれば政府の借金が余計に膨らんでいくわけですが、この日本政府の借金ももはや限界にきているわけです。今「政府で国債を発行しろ」とか「財政規律を守れ」という議論は究極的に考えると、「いくら国債を発行したら日本という国が破綻に至るのか?」という考えを述べ合っているようなものかもしれません。国債をさらに発行しろ、という意見はまだ借金しても大丈夫、と言っているわけです。また、今の状態で緊縮の財政を組めば、経済はさらに悪化し、ますますデフレスパイラルに陥ってしまいますから、先は考えずにとりあえず借金、国債発行に走れというわけです。
 民主党政権も仕分けという作業で歳出削減に努めていますが、なにしろ税収は30兆円台しかないのです。予算は90兆円以上の話です。ここで2兆円とか3兆円とか削減しても体制に影響はありません。国債を出せと言っている方も、今政府の必死の歳出削減作業も、大局的に見れば大きな変化をもたらすものではありません。残念ながら国家として財政破綻方向に向かうのは避けることはできないでしょう。結果、日本国内ではある時点から想像を絶するインフレとなるのです。
 日銀にすがって、国債の買い取りを頼んだり、日銀のさらなる資金供給にて円安に持っていくことを目指すべき、という考えもありますが、基本的には紙幣増刷ということで、今度は円安に振れた時に歯止めの効かない円安となってしまい、日本の国家破綻のスピードを早めるだけと言えるでしょう(恐らく今後は政策にかかわらず破壊的な円高がきて、経済破綻が起こり、その後激しい円安が予想される)。
 現在も日銀はゼロ金利という史上最低の金利体制を敷いています。本来なら金利が下がれば、資金需要が出て経済は活性化するわけですが、もう15年もほとんどゼロ金利という状態に慣れますと、あえてここで資金調達をして、という行動にもなりません。繰り返される安売りと同じで、ゼロ金利の常態化ということが金融政策の経済に対してのインパクトの効果を失わせているのです。

助け合いの精神で、この経済危機を乗り越えよう!
 日銀をはじめ、アメリカの中央銀行であるFRB(米連邦準備理事会)や、世界各国の中央銀行の切れ目のない資金供給は、結局、儲かるところ…、今でいうと金(ゴールド)や石油、銅にまわり、さらにこれらの資源で儲かるところの株式、ないしはそれらの国、また新興国など発展する地域への投資に化けているわけです。そして現在のようなグローバルな経済においては、資金は国境を超えてどこでも行く関係から、日本でいくら金融を緩めても国内の経済には効かず、世界市場に流れ、回り回って、自分の打ち出したインフレ政策が資源高という風になって返ってくるだけです。
 個人の投資を考えればわかることですが、今、日本株などは運用成績が悪いから海外へ投資しようというふうに、国民全体も誘導されているようです。それだけ海外への投資が簡単になったわけで、この事実は裏返せば、日本でいくら金融を緩めても国内にはお金が回らないということです。
 もう経済が良くなるというような幻想を与える、ないしはそのような事実誤認ははっきりと否定しなければならない段階にあると言えるでしょう。政治家や評論家が様々なアイデアを最らしく話しますが、上手くいくものはありません。今は現実を直視して、これからくる未曽有の経済混乱に備える心の準備や、価値観の変化、日本国全体としての経済破綻の中での生き方を模索しなければならない段階です。仕事がない、という悲鳴が日本中に響いています。年間3万人もの自殺者が出ています。今、みんなが沈もうとしているのです。一生懸命頑張るのも大事。しかし、「お金が稼げなくなったら最後」というような考えを、日本中で捨て去らなければいけないと思います。
 とにかくできる人から周りと助け合う、そういうムーブメントが必要とされています。そうなるしか全体として生き残れないし、日本人だけがこのような経済破綻にも、助け合いの精神で乗り越えたということを世界に見せようではありませんか! 本当の意味で我々が試される時が来つつあるといっていいでしょう。

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ターミネーター


船井幸雄・朝倉慶氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月に発売された、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が大好評発売中!!

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 船井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を船井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に船井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)を発売。

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