“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2011.02
液状化する世界

 中東が揺れています。チュニジアから始まったデモはあっという間に中東全域、北アフリカ各地に拡大、チュニジア、エジプトと見る間に政府を転覆させ、今や頑強とみられていたリビアのカダフィー政権も風前の灯となっています。
 かつてベルリンの壁の崩壊から一気にドミノ倒しのように旧東欧諸国が民主化されていって、ついにはソビエト連邦の崩壊に至ったわけですが、それを思い出させるような急激な歴史の展開に息をのむような気持ちで多くの人々は見ていることでしょう。
 強固と言われた独裁政権の崩壊をみて、「こんなにもあっけなかったのか」という気持ちと「これから中東はどうなっていくのか?」という不安も生じてきます。これは歴史のなせる業なのか? 世界はこれからどういう風になっていくのか? 疑問は尽きないところです。

事態は2012年のカオスに向かって進んでいる!?
 昨今始まった、異常気象、そしてゆっくりと暴発しつつある食糧危機、静かに水面下で進む世界的なインフレ、そして連鎖する独裁政権のドミノ倒し、各々、別個に動いているようですが、実はこれらは2012年の巨大な地球全体のカオス、世界的な救いようのない危機に向かって、連動して動いていると言えるでしょう。

 まるでシナリオでもあるように、2012年に向けて混乱が助長されていくようです。
 パズルを一つ一つはめていくようにとてつもないカオスに進んでいくようです。ドラマの展開は急で、その一つ一つが驚くことの連続で、それはやがて巨大な波となり、津波となって綺麗に地球全体、世界全体を覆い尽くすかのような様相です。
 チュニジアでの発端は食料危機と若年層の雇用不安からくる、今まで積もり積もった欲求不満の爆発でした。それにインターネットの広がりによるツイッターやフェイスブックが火をつけた形です。チュニジアに限らず中東諸国では若者の数が激増、15−30歳までの人口が総人口の3割以上といいます。しかも彼らにまともな職もなく、働く場もない、大学を出ても職に就けない有様だったのです。そこに食料の高騰が襲ってきた。自然に民衆の不満は独裁政権側に矛先が向かっていきました。
 食料価格の高騰ですが、これは世界全体の人口が増えているわけで、当然、農業生産に限界をきたしている今、供給に支障をきたすのは時間の問題だったと思いますが、それに輪をかけて世界的な天候異変が起こってきたのですから、まるでこれらの混乱は絵に描いたように起こってきたともいえるでしょう。

 また世界を牛耳る秩序が急激に失われてきていることも混乱を誘発した一因でしょう。
 20年前のベルリンの壁の崩壊は冷戦の終わりという歴史的な事件でした。そしてそれに続いて旧東欧各国の民主化というドミノ倒しと旧ソ連邦の崩壊が起こったわけですが、やはり大きな変化を引き起こしたのは、ソ連という巨大な力の衰退、弱体化がきっかけでした。
 そして今回、冷戦終了後一大帝国となった米国の力の低下は目を覆うばかりだったのですが、これが間接的にも直接的にも世界的な秩序を崩壊させる一因になっていると言えるでしょう。帝国の力の低下が世界を流動化させてきているのです。

いまは「G20」ではなく、「Gゼロ」(リーダー不在)の状態
 とにかく、世界が一致して何かを決める、ということがもうできなくなりつつあるのです。米調査会社ユーラシア・グループは今年の世界の10大リスクのトップに「国際政治のリーダーシップの不在」を上げたのです。「Gゼロの時代」に突入したとの分析です。G8でもなく、G20でもない、何もない、何も決まらない、今の世界はリーダーのいないGゼロだと言うのです。
 冷戦終了後、米国が帝国として君臨していた時代は終わり、確かに今や何も決めることができなくなってきているのです。単純に考えてもわかりますが、強いリーダーがいて、G5ならG5と5ヵ国で物事を決めるのであれば容易だったでしょう。1980年代後半、G5が始まった当時は米国、英国、フランス、ドイツ、そして日本ですから米国の主導のもと、会議の方向を決定することも容易だったでしょう。その後、このG5はカナダ、イタリアを加えてG7となったわけですが、この状態でも米国主導のもとで会議の方向を決めることはできたと思います。米国の力が強く、参加国も少なく、そして民主主義という政治体制も一緒でしたから、物事を決めるのはスムーズだったと思います。
 ところが、この会議がG8となってロシアが参加してくるところから会議の雰囲気は変わってきました。そして2000年以降の新興国の台頭です。さらにリーマン・ショック後は世界の変化。具体的には中国やブラジル、インドなどの新興国の台頭をみることになって世界の物事を決めるには彼らBRICsの参加が不可欠となっていったのです。まさに世界のパワーバランスの変化でした。
 G20時代の始まりです。20ヵ国の利害など一致するはずもないのです。リーダー不在で20ヵ国が話し合いをしても何も決まるわけがありません。
 そもそも20ヵ国の代表格、先進国代表の米国と新興国代表の中国では、利害が一致していないのです。何も決まるわけがありません。例外的に第1回目の会議はリーマン・ショックの直後だったので、世界各国が景気回復に邁進するという一致した目標を有することができましたが、その後ははっきりと利害がぶつかる形で会議などは開くだけ、その後はまともなことは何も決まらないし、決める気もないと言えるでしょう。

始まってきた世界的カオスの拡大
 G20で世界のGDPの85%を有していますし、米国、中国と2大国が物事を決めれば何とかなると思いますが、この2国が全く逆のことを目指しているのですからどうにもなりません。例えば為替ですがこの2国は共々、世界一の経常赤字国と世界一の経常黒字国なのですが、この2国が同じ為替レートという有様です。経済の教科書では経常黒字なら為替は強くなり経常赤字なら為替は弱くなるわけです。その世界を牛耳る2大国が一緒の為替レートでいるという矛盾、一体、日本をはじめ、世界各国はどのような為替体制を敷けばいいのでしょうか? また中国は一昨年のコペンハーゲンでのCOP15でも環境問題で妥協することなく会議を潰しました。
 これらは一例ですが、今回行われたG20をみても、明らかに会議が機能していないことがわかります。会議の前、フランスのサルコジ大統領はしきりに食料問題の重要性を説き、このG20での対策を作ることを提唱していたのです。ところが会議はこの切羽詰まった食料問題でさえ、全く解決策を見いだせない、ないしはやる気がないことが明らかになったと言えるでしょう。
 新興国側は、食料問題は先進国の投機が主因と考え、それに対して英米などは、旺盛な新興国の需要拡大が問題との立場で投機規制が役に立つとは思えないという姿勢です。独仏などEU諸国は投機規制に賛成の立場でしたが、結局何も決めることはできなかったのです。ただ一つ決まったことは、これから半年かけて食料問題が何故起こったか、調査することです。今、喫緊の問題でこの後どのように拡大するかわからない緊急性を持った議題なのに、決まったのは「ゆっくり調査しろ」ということです。そして面白いことにこの調査委員会のトップは日銀の理事、日本人が指名されたのです。まさにやる気のない会議で適当に日銀の理事に調査させておけばいいという姿勢です。やる気もない、もっとも解決法もないでしょうが、このような時は体よく日本人が指名されるのです。米国の意向を重視してくれ、強く主張することもなく差し障りがないからです。今、この段階から食料問題が新興国の需要が主因か、投機筋の投機が主因か調査を始めるというのですからお笑いです。
 例によって、投機の実際の現場すら知らない日銀の理事が半年もかけて調査するということです。一時が万事、このようにあらゆることが決まらない、決める気もないのが昨今のG20なのです。
 これで世界を一定方向に持って行けると思いますか? まさになるようになるだけ、秩序を失った世界は漂流に向かっていくと思えばいいでしょう。
 今や有り余った資金が世界中でインフレを起こすのを待っているのです。その一端は食料危機を通して顕在化してきました。そして中東をはじめとする食料危機は拡大して、この地域の混乱をさらに助長させることでしょう。結果としてそれは石油をはじめとするエネルギー価格に火をつけることになるのです。石油価格もこの地域の混乱が拡大すれば1バーレル100ドルどころか200ドルまで跳ね上がっていくことでしょう。
 そうなれば今度は混乱は中国に伝播です。中国は今、しきりに報道管制を引いて中東での出来事は一切報道されていません。こうしてデモの発生を抑えていますが、やがてこの食料高、エネルギー高が中国国内に本格的に波及してくれば、いよいよ国内が騒乱状態に陥っていくに違いありません。今国内が混乱し始めたイランは早速、矛先を外に持っていくため、緊張を作ろうとイスラエルを刺激し始めました。わざわざスエズ運河に軍艦を通してイスラエルを挑発しているのです。このように国内の混乱が始まれば海外との緊張を作り出すのは国家の常套手段です。仮に中国国内に混乱が発生すれば中国当局はいの一番に日本との緊張状態を作るために尖閣をはじめとする地域に緊張を作り出してくることでしょう。
 始まってきた世界的なカオスは拡大はしても収まることはないでしょう。中東の人々は政権が変われば暮らしがよくなると期待しているでしょうが、今の世界の食料事情を見る限り、どんな政権ができても食料事情が良くなることなどあるはずもありません。いずれ更なる食料高騰に民衆は失望して言葉を失い新たなる争いが生まれることでしょう。まさに世界の混乱、カオスは2012年を目標にして動いているかのように、連動して激しさを増してくるのです。いよいよ世界は2012年に向けて、インフレ、混乱、そして奪い合いと秩序を失う液状化状態に陥っていくのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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