“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2013.08
崩壊に向かう新興国経済

 シリア情勢の悪化をきっかけにして新興国の市場が大荒れ模様となってきました。
 通貨も株価も怒涛のように売られてきたのです。8月28日にはインドルピー、トルコリラ共に最安値を更新、株価も急落しています。またアジアではインドネシア、フィリピンの株価も通貨も急落状態です。
 世界をリードすると言われてきたアジア地域がもろくもあっという間に崩れ去るようです。投機資金の逃げ足は早く、待ったなしで株や通貨を売り叩き、我先へと資金の逃避が始まってきたのです。私はこのような状態に陥っていくことはかねてから予想して警戒を発し続けてきました。しかしそれが現実化するときは、このように急激で世界を驚かすようなスピードを持って襲い掛かってくるのです。しかしこれもまだ序の口にしか過ぎないのです。
 これから訪れる新興国の破壊的な経済破綻の扉が開いたに過ぎないと言えるでしょう。
 今後、真打である中国経済の大崩壊に向かって動いていくのですが、その前哨戦としてアジア各国の止めどもない波乱が幕を開けたと思っていればいいでしょう。

急激に暴落する、インドをはじめとするアジア市場
 実際、この1ヵ月足らずでもアジア各国の情勢変化は目まぐるしいものでした。
 例えばインドですが、インドを代表するセンセックスの株価指数は7月23日には20351ポイントの戻り高値を付けていたのです。ところが1ヵ月月後の8月28日には立会中に安値17448ポイントまで急落しました。株価がわずか1ヵ月で率にして14.3%もの急落です。
 それだけではありません。インドの通貨であるインドルピーの急落も目を覆うほどなのです。5月3日には1ドルは53.8インドルピーだったのに、8月28日は一日で3.6%の暴落、何と1ドルが68.8インドルピーと暴落状態です。インドルピーは一日でこれほど動くことは18年ぶりのことです。シリア情勢悪化とはいえ、余りに急激な相場の変動です。5月3日から見ればインドルピーの相場は27.8%の暴落です。わずか1ヵ月の間に株は14.3%も下げ、通貨は3ヵ月で27.8%も下げてはインドに投資している海外投資家はたまりません。通貨と株暴落のダブルパンチで投下資金はあっという間に42%を超える損失を被ってしまうのです。
 極端な例としてインドのケースを紹介しましたが、他の新興国も似たり寄ったりで、新興国投資は見るも無残な悲惨な状況と相成っているのです。
 私はかねてから新興国の実情については一貫して警告を発してきましたが、まさに瞬時に現実化してきたわけですが、これをシリア情勢が主因と思うわけにはいけません。
 今回の新興国市場の大混乱は基本的にシリア情勢を主因としているものではなく、米国の金融政策の変化と中国経済の失速がもたらしたものなのです。そして今、新興国の相場は砂上の楼閣のように崩れていく流れに入ってきていたということなのです。それがシリア情勢の悪化を口実、あるいはきっかけにして顕在化してきたにすぎないのです。
 2008年のリーマンショック、2010年から始まったユーロ危機、21世紀に入ってから世界は絶えず大きな経済危機に見舞われてきました。それがまるで循環するかのように大きな危機が繰りかえし訪れてくるのです。そしてリーマンショックから5年経ってやっと米国の経済の正常化が訪れるのではないか、と思われてきたここで、今度はスケールを大きくした新興国の危機の勃発が始まってきたのです。

急激な発展とともに深まった新興国内の“溝”とは?
 2008年以降、世界の経済は中国をはじめとする新興国の勢いに支えられてきました。
 BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の最盛期と言われ、世界は先進国から新興国へとその発展の中心を移してきたのです。先進国が不況に喘ぎ、成長率が鈍化しても新興国は一向に影響を受けない、新興国経済は先進国経済に連動することはない、いわゆるデカップリングと言われ、新興国はその巨大な人口をバックにしてたゆまない発展を遂げると思われてきました。実際、新興国は先進国の数倍の速度で経済成長して、豊かさが全土に広がり、膨大な中産階級が出現、先進国へのキャッチアップも時間の問題と思われてきました。米国はリーマンショックの後遺症に苦しみ、欧州はユーロ危機に代表されるように債務危機と失業者の増大に苦しんできました。そして日本は終わらないデフレと格闘してきたのです。

 新興国経済を劇的に引っ張ってきたのは中国経済の怒涛のような大発展でした。13億人の人口を有する中国の発展は、世界の資源の全てを食い尽くすような膨大な資源需要を引き越したのです。そしてそれは、資源に恵まれた新興国経済の劇的な拡張をもたらすことになったのです。ブラジル、ロシア、インドネシア、資源の高騰はこれらの資源国に大きな富をもたらしたのです。まさに<コモディティーブーム>がこれら新興国の発展を継続的なものとして、資源開発とその価格高騰の流れは止まることはありませんでした。新興国はその果実をたっぷりと受け取り、自国の数千万の貧困層を中間層に引き上げていったのです。人々は中間層に引き上げられたことによって、権利意識に目覚めました。その日暮らしで仕事を必死に求めていた時とは一変して、中間層になった人々は自らの権利を当然のごとく意識し、主張するようになったのです。インターネットの発展が瞬時に情報を共有させ、さらに人々は権利意識を強めていきました。
 こうして新興国の中間層はそれまでの貧困層とは違って、様々なことを要求するようになったのです。それは政治意識の芽生えでもありました。
 自分達は「もっといい暮らしをする権利がある」「教育、公共サービス、政府は我々にもっとできることがあるはずだ」、中間層に転じた人々は積極的に自らの意見を主張するようになったのです。
 各国の政権は安定していました。経済の発展はその政治体制の成功を象徴していたのです。貧困層から中間層を作り出していった新興国各国では、その政治体制はある意味、国や人々を豊かに導いたわけであり、一般的に見れば政策は的確だったと言えます。
 政治の安定と巧みな政策が国を発展させた立役者というわけです。客観的に見れば時の政権は時代の波、外部要因の幸運さに恵まれたわけですが、そこで貧困層から中間層に登りつめた人達、並びにその国の発展を享受した人達にとっては、政治に対する信頼がつちかわれたことでしょう。これら発展した新興国の政治体制は例外なく長期政権になっているのです。
 ブラジルでは2003年から労働党の体制下です。ルラ政権そしてそれを引き継いだルセフ政権と続いています。インドでは現在首相であるシン首相は2004年の時点で就任しています、シン首相は1990年代は財務相でした。トルコではエルドアン首相が2003年から政権を担っています。そしてロシアではプーチン体制が長く続いています。こうして新興国では各々強力な政権が国を引っ張っていき、尚且つ政権は安定していたのです。そして強力な安定政権の下、国も人々も豊かになっていったのです。

 しかし豊かになった中間層は、その豊かさの享受に比例するかのように「要求」が膨らんでくるのです。権利意識と要求は、その国の発展速度を遥かに上回る要求となっていくのです。こうして人々の潜在的な要求は、高度の経済発展をベースとした高い目標であり続けました。いつの間にか現実を見据える政治と、人々の要求の間には溝が生まれ、それが次第に大きくなっていったのです。
 新興国は、米国の量的緩和の影響から、膨大なドル資金が流入し続けていました。低成長の先進国では、資金のパフォーマンスが悪かったのです。新興国は先進国からの資金に加えて、自らも大規模な金融緩和を続けました。新興国は例外なく為替戦争と銘打って自国通貨売り、ドル買いを繰り返して、自国の通貨の高騰を抑え、結果的に通貨の供給を必要以上に拡大させていったのです。さらに新興国の銀行は自国の企業に毎年倍々ゲームで資金供給を増加させていったのです。成長資金はありとあらゆるところから溢れ出し、その供給は絶えることがなかったのです。こうして新興国は予想以上の経済発展を遂げることができました。人々にとって高成長は当たり前のことになり、いつの間にか発展し続けることは必然となったのです。

新興国の高成長の行き着く先は?
 しかし永遠に高成長が続くわけもありません。新興国各国にもやがて過渡期が訪れていたのです。ところが高成長に慣れた人々の意識の変化は簡単には起きえません。高度成長に浸って、権利意識に目覚めた中間層の要求は限度を知らないのです。高成長は当然と言う人々の意識と、それが過渡期にきていたという現実のギャップは埋めることができません。人々の溜まった欲求不満は、政治に対する過度な期待になっていきました。今までの高度成長は当たり前であり、それは当然のごとく続くはずなのです。人々と政治との間の小さなギャップが徐々に広がっていきました。

 ブラジルのデモは公共料金であるバスの運賃が140円から150円になるという、わずか10円の値上げに激怒して、この動きが全国に波及、100万人規模のデモに発展していったのです。トルコのデモは公園の一つの木の伐採に対しての反対運動が発端でした。
 最初は些細なことだったのに、「政府は説明責任を果たせ」と声を上げ、やがて「インフレを止めろ! 公共料金を下げろ!」とエスカレートしていきます。
 新興国各国の人々にとって、たゆまない経済発展と収入増は当たり前のことになってしまっていたのです。ところがいつの間にか政府サイドでは、そのような過大な欲求に答えられなくなってきていたのです。追い風が吹いていた新興国経済にとって、いきなり来た向かい風はとても耐えられるものではありません。今、中間層に転じた人々はその不満をストレートに政府にぶつけてきています。政治が動けば何とかなるという期待や過信が充満しているのです。

 一方で、これら民衆の欲求不満を、危険な方法で処理しようと試みるのも政治が行う手段の一つです。
 中国や韓国にとっては<反日>は常に一番のカードなのです。事が起こりそうになれば中国共産党政権は尖閣問題、日本製品ボイコット、と人々の不満を<反日>のエネルギーに転嫁させようとすることでしょう。常套手段は永遠に続きます。形は違いますがロシアのプーチン大統領は<反米>の強い大統領を演出しようとしています。
 ここまで新興国の波乱はまだ序の口でした。ところが米国の量的緩和縮小の流れの中で、ドルへの一極集中の流れが起き、今や新興国からの資金流出は絶対的な流れとなってきたのです。その混乱はシリア問題をきっかけとして市場の激変を引き起こしました。そしてその後には、中国のシャドーバンク問題が控えています。いよいよ煮えたぎっている不良債権の爆発は避けることができなくなるでしょう。新興国では中産階級となった人々はこれから来るインフレ、経済減速に我慢することはできないことでしょう。そして長期に渡った安定した政治体制は深刻な過渡期を迎えることになるのです。その時いったい新興国各国にどのような激変が訪れるのか、もっと大きく見れば中国共産党は経済減速下で国内を抑えることができるのか? 奇跡の発展で20年以上二桁近い成長を続けた中国では、国民は低成長も経済の減速も知らないのです。避けようもない低成長とそれに伴う混乱の勃発、まだまだと思ってはいられません。ここ数年、怒涛の勢いで上昇、発展してきたインドネシア、フィリピンの株式市場は5月からわずか3ヵ月で様変わりです。まさに一気の転落です。そして中国は理財商品というねずみ講のような危うい金融に国中がのめり込んでいます。確実にバブル崩壊の足音が近づいています。リーマンショックや欧州危機は序の口だったのでしょうか。今アジア全域に危機が降りかかりつつあり、中国は大きな爆発のマグマを何とか覆い隠しているのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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