“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2015.03
アベノミクス その光と影

 3月下旬に行われた日経新聞の世論調査の結果には驚かされました。
 先行きの景気の見方、賃金の推移の予想などで世論調査に答えた人の立場によって余りに違った回答がなされていたからです。

●現在の日本で起こっている本質的なこととは?
 かつての日本は1億総中流社会と言われていた時期もありましたが、現状は大きな格差社会になりつつあるようです。アベノミクスで景気回復の期待が盛り上がっている日本ですが、一方でその恩恵に預かれない人達も多数いるわけです。
 長いデフレ状態からの脱却ということで、政府も日銀も日本を程よいインフレ社会に持っていくように誘導しようとしています。しかしその中では、このアベノミクスという経済政策で恩恵を受ける人と取り残される人ではっきり差別化されつつあるようです。
 まさにデフレからインフレへと大きく変化しようとしている時代の流れの中で勝ち組と負け組が出現しつつあるわけです。しかしその勝ち組も負け組も、まだ各々の状態ははっきりとは意識していないようです。
 今回の世論調査などの結果をみると、明らかに日本の中で大きな構造的な変化が起こってきていることがわかります。そして格差社会が広がってきていることがわかります。まだ多くの人々はこの格差拡大の動きが日本において許容できないほどに広がっていくことを認識していません。今回の世論調査の結果から日本で起こっていることの本質的な部分をあぶり出してみたいと思います。

 日経新聞は3月下旬、二日間にわたって、国内主要企業の社長に対してのアンケート調査と一般的な世論調査を行っています。
 主に国内景気と見通しを聞いているものですが、この同じ質問に対しての答えが答える階層によって全く違うのです。
 例えば「アベノミクス効果で景気が今後良くなると思うか」との質問に対して、主要企業の社長は75%が「良くなる」と答えています。最近は株価も上がっていますし、日本経済全体が原油安の恩恵も期待できます。法人企業統計や各種経済指標も好転中で、この主要企業の社長の景気に対しての楽観的な見方は現状を追認したもので妥当な答えのように思えます。
 ところが一般の世論調査の結果ですが、同じく「景気は良くなると思うか」との問いに対し「良くなると思う」との答えはわずか36%、「良くなると思わない」が47%で俄然景気に対しての悲観的な見方が多数占めていることがわかるのです。
 これを安倍内閣支持層と不支持層でみると更に極端なコントラストが生じています。
 安倍内閣を支持する層は景気が「良くなると思う」の回答が57%で、主要企業の社長の回答に近くなってきます。
 一方、安倍内閣不支持層でみると同じく「景気は良くなると思うか」、との問いに対し「良くなると思う」との回答はわずか10%に過ぎないのです。そして「良くなると思わない」との回答が79%という驚くべき水準に及んでいるのです。

 同じ日本人で同じく日本で暮らしているのにもかかわらず、景気回復について「良くなる」との答えが主要企業の社長は75%、安倍内閣支持者は57%、ところが安倍内閣不支持者は10%と全く見方が違うのです。
 余りに見方が違いすぎるとは思えませんか? 同じ日本で暮らして同じ経済圏で働いているのに、なぜこれほど景気の見方に違いが出るのでしょうか? 景気という一つの事象をみているだけなのにこれだけ極端な違いが出るというのは余りに異様なことと思えませんか?

 私はこの世論調査の結果と見方の差に、今の日本が置かれている状況、これからの日本がたどる道が示唆されていると思います。
 例えば同じ世論調査の質問事項で、「賃上げによる所得増が期待できると思いますか」との問いに安倍内閣不支持層は「期待できる」との回答はわずか6%、賃上げによる所得増は「期待できない」との答えが89%にも及んでいるのです。

 つい先日、トヨタの満額回答があり、3.2%の賃上げが決定されました。日本では大企業を中心として今年は6割近い企業は賃上げを予定しています。また中小企業でも人手不足が顕著になりつつあり、建設など好調な業種をはじめとして賃上げが進みつつあります。また派遣やアルバイトの給与も上昇傾向が続いています。
 それなのになぜ、安倍内閣不支持の層は89%もの人達が賃上げを期待できないと思うのでしょうか?
 ひとつにはまだ収入の増加を実感できていないところもあるからでしょう。昨年は消費税も上がり、多くの人達は賃金が上がっても消費税の上昇分を補うことができませんでした。その経験から一種あきらめもあって今年も期待できないという気持ちになっているとも思えます。
 もう一つ、安倍内閣不支持層は、アベノミクスの恩恵でもある株高や不動産高といった資産価値の上昇という恩恵もほとんど受けていないというところもあるでしょう。給料も上がらず資産も増えず、景気回復を実感するすべがないのです。アベノミクスが始まってから円安が起こり、株高が起こりましたから、いわゆる富裕層は潤っているはずです。また日本企業は今年3月期の決算では史上最高の利益となります。これら大企業やそれに付随する人達、並びに富裕層が景気回復を実感できないわけがありません。

●安倍内閣が実際に行ったシンプルなこと
 安倍内閣が発足してから抜本的な経済対策が取られたということはありません。いわゆる「第3の矢」と言われる日本経済の構造を変えるような大胆な規制緩和などドラスティックな改革は実際ほとんど行われていません。
 確実に実行されたことは、日銀の体制を変えて思い切った金融緩和政策、マネーの怒涛の印刷を行ってきただけです。ですから安倍内閣の実績と言われると第一の矢、第二の矢、第三の矢、と言われていても実際は第一の矢である金融緩和だけが大胆に行われたという評価が大半です。
 この金融緩和は量的緩和策といって、日本円を大量に印刷して国債を購入することです。
 さらに日銀は日本円を印刷して株式や不動産投信まで購入しています(その額は国債購入の額に比べれば少額です)。かように安倍内閣では日銀を使って日夜マネーの印刷を続けてきたわけです。

 この量的緩和策の効果ですが、実体経済にどのようにどのくらい効いてくるのかは証明されていません。ただ米国では量的緩和政策は明らかに経済回復のツールとなってきました。リーマンショックで瀕死の状態になった米経済を救ったのは量的緩和策の思い切った実行でした。これが経済にどのように働きかけてどのようなメカニズムで経済を活性化させるのかは定かではありません。ただはっきりしていることは、量的緩和政策によって米国経済が回復したという事実と、もう一つ、量的緩和政策を行うと株式市場は必ずといっていいほど上昇するという事実です。

 マネーを印刷する、マネーの量が増える、株が買われる、株を持っている人達が儲かる、彼らが消費を行う、景気が回復してくる、という流れになります。この経路は量的緩和策においては確実に発生している構図なのです。
 そして今や量的緩和策はユーロ圏でも実行されて、これがユーロ安株高を引き起こしてユーロ圏経済の回復に寄与しています。

 一般的には経済が好転して、株高が実現されるのですが、量的緩和策においてはマネーの力で通貨安や株高を引き起こし、それをバネにして経済を活性化させるわけで、株高からの経済好転ということで順番が逆です。しかしこれが今の世界の潮流であり、この手法のみが経済を回復させることができたことも事実なのです。
 「2%のインフレ目標達成」が世界各国の経済目標です。量的緩和政策は、この目標が達成されるまでは、「オープンエンド」と言われて始まったら達成されるまで終わらない、と明言されています。結果、2%の物価上昇が起きていない日本ではまだ相当な期間、この量的緩和政策は続けられるのです。ですから株は上がり続けるしかないのです。

 繰り返しますが量的緩和策は、株高を引き起こすことは証明されています。現在の先進国では唯一の経済回復の手段である量的緩和に頼るしかなく、マネー印刷を止めることなどできないのです。そしてその政策は株高を誘発させるものであり(政府は表立っては決して明言しません)、結果的に持つ者である富裕層ばかりを潤し、持たざる者との差を限りなく広げていくのです。

●今後の行方は?
 「この道しかない」。昨年行われた安倍首相の選挙のキャッチフレーズは、アベノミクスを前面に出したものでした。そして日本国民はこの政策を支持したのです。今後も限りないマネー印刷によって株高は際限もなく続いていくことでしょう。そしてやがて2、3年後には本格的なインフレもやってきます。今回の日経新聞の世論調査でもわかるように、その時、人々の意識はその立場や自分の置かれている立ち位置によって大きく変わってくることでしょう。時代は常に動き、歴史の事実は峻烈で残酷でもあるのです。
 デフレからインフレへの変化を確信しなければなりません。勝者と敗者、激しくなっていく格差社会の到来を意識しなければなりません。生き残りたければインフレに備えなければなりません。アベノミクスは日本の景気を回復させるものですが、それは資産効果という大きな株高を引き起こすことによってのみ成功するのです。驚くべき株高の動きは日本政府の不退転の政策をバックにしたものであり、変わることはないのです。結果的に起こってくる怒涛の株高は、その激しさから日本に修復できないほどの格差を引き起こすことになるのです。保守的で脅えてチャレンジできない人には未来は微笑みません。来るべきインフレを確信できた者だけが生き残れるのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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