“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2016.04
熊本地震とヘリコプターマネー

 被災された熊本県の方々に心よりお見舞い申し上げます。一刻も早く復興できることをお祈りいたします。日本は地震列島ですが、最近はとみに全国的にも世界的にも地震の発生頻度も上がり、そのエネルギーも大きくなっているような気がします。世界を見渡しても気象も経済も政治状況も全てが混乱に向かいつつあるような気がします。今回のコラムでは熊本で地震が起こったことによる経済的な影響や今後の政策的な変化をレポートしたいと思います。

 「熊本地震の復旧、復興や経済対策の財源として合計20兆円の国債を発行して充てるべきだ。」
 4月21日、<アベノミクスを成功させる会>の会長である自民党の山本幸三議員は地震発生という緊急事態を受け、大規模な補正予算の編成を提案したのです。設備の破損や資本に与えた損害額は東日本大震災では17兆円、阪神淡路大震災では10兆円と言われています。今回の熊本地震も続々と被害状況が拡大しているわけですが、損害額を概ね東日本大震災の半分程度と見積もって10兆円程度を地震の復興財源として用意して、更に昨今の日本全体の景気の落ち込みに配慮して10兆円程度の経済対策を行い、計20兆円の補正予算を組み、予算編成のため国債を追加発行すべきであるということです。20兆円と言えば本予算である100兆円の20%に当たるほどの額ですから補正予算の規模としてはかつてないほどの相当思い切った提案です。また財政再建中の日本の実情を考えれば国債の発行額も驚くべき大きさです。

 実際問題として、今回の熊本地震は地震が拡散、拡大していくという前代未聞の展開で、地震発生直後から様々な被害の拡大が報告されています。また東日本大震災の時もそうですが、地震の被害は被災した地域の直接的な影響にとどまりません。
 もともと九州地区では、多くの日本の企業の工場が稼働しているわけで、今回の被災で工場の被害の復旧がどの程度で、どのくらいあるのかまだ定かではありません。いわゆる車や電気機器の部品の中枢的な部分を背負っていた企業の被災もあって、日本の供給システム、サプライチェーンが寸断されてしまったのです。トヨタは被災後すぐに車の生産の停止を発表したのですが、これはトヨタ本体でなく、系列の部品メーカーであるアイシン精機が被災したからです。アイシン精機の製造する自動車のドアの動きを制御する部品の確保が難しくなってしまったのです。影響はトヨタだけにとどまらず、米国のゼネラルモーターズ(GM)の北米工場まで生産停止に追い込まれたほどです。
 一方、ソニーは、画像センサー向けの半導体を手掛ける熊本工場が被災してしまいました。また東日本大震災の時も被災して復旧に多大な時間がかかり、話題になっていた自動車制御の中枢である車載用半導体を独占的に生産しているルネサスエレクトロニクスが再度被災にあって先行きが懸念されていましたが、こちらは再開のメドが立ってきたようです。
 話題になるような大企業であれば、各方面からのサポートもあって、早急な復旧も可能でしょうが、域内の中小企業にとっては設備も人もいつ元に戻せるか全く目途が立たないという深刻な状況も生じています。

 また今回の地震によって訪日外国人の数が急減する恐れもあるでしょう。既に九州地区では宿泊予約のキャンセルが相次いでいるようです。
 一連の流れを考えると迅速に予算を投じて復旧に全力を期すのは政治の大きな責任であり、安倍政権もその方向で動いていくでしょう。もはや消費税引き上げの先送りなどは議論の余地などなく必至の情勢であり、いつ安倍首相が自ら消費税引き上げ先送りの発表を行うか、ということが焦点です。
 かように大規模な補正予算編成と国債の大幅な追加発行は必至という情勢になってきました。むしろこの国債の追加発行を歓迎しているのが株式市場です。

●今回の震災の政治への影響は?
 実は今、アベノミクスが曲がり角にきたのではないか、という疑念が大きく広がってきているのです。政策的に手詰まり状況で、経済政策も次の一手が厳しい局面に追い込まれてきたのです。特に市場では日銀による金融緩和が限界にきたという見方が強くなってきています。黒田総裁は2013年4月の異次元緩和を実行した時は「2年で2%の物価目標を達成させる」と言っていましたが、4年目に突入した現在でも2%の物価目標の達成は遠のくばかりで、一向に物価は継続的な上昇状態にならず、再びかつてのデフレ状態に戻ろうとしているかのようです。アベノミクスの中核となるものは、円安とそれに伴う株高だったのですが、昨年6月に円安もピーク、株高もピークとなって、その後市場は一向に回復しません。特に最近の円高は日本経済に更なる物価下落をもたらしそうで、株も今年になってから大きく下落してきています。

 今年1月末、窮余の策として打ち出した日銀によるマイナス金利政策も、極めて評判が悪いのです。実際、現状で個人の預金の金利がマイナスになるということはあり得ないのですが、人々は「マイナス」という響きに過剰反応してしまってお金を銀行から引き出して自宅にしまい込む、いわゆる「タンス預金」が急増するに至っています。そのため金庫の売り上げが急増している状態です。マイナス金利導入によって収益が大きく悪化するとみられている銀行株は大きく値下がりしてしまいました。更に今回、熊本地震への義援金集めで問題にされていることは、集まった義援金を銀行の口座においてあるわけですが、これが被災地の銀行で急速に拡大したために、現金が日銀の当座預金に滞留することとなり、結果的にマイナス金利が適用され、元金が減るという事態が発生しています。人々が善意で集めた義援金が国の政策で即座に目減りしてしまうなどということは本来許されないことです。このような政策的な矛盾が出てきたこともマイナス金利政策に対しての批判が強まってきている原因なのです。

 かように日銀の政策に限界が見えてきたところで、今回はいよいよ、国が更に国債を追加発行して、これを日銀が引き受ければいいではないか、という考えが広がってきているわけです。経済的な用語ではこれを国の借金を中央銀行に引き受けてもらうということで「財政ファイナンス」というのですが、日本はいよいよこの「財政ファイナンス」を堂々と行う局面にきたようです。
 この「財政ファイナンス」を堂々と行うことを別の表現でいうと「ヘリコプターマネー」と言います。ヘリコプターで空から紙幣をばら撒いてそれを景気対策として実行するということです。これは立派な経済政策の一つであって、かつて1969年ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンによって提唱されました。そして前FRB議長のバーナンキ氏は1990年代後半の日本のデフレ状況をみて、この「ヘリコプターマネー政策」を提言したのです。ヘリコプターから紙幣をばら撒くというととんでもない政策のようですが、要するに日銀のような中央銀行が紙幣を印刷してそれを国民に広く配分するということです。

●日本で「ヘリコプターマネー政策」が行われる!?
 ゼロ金利政策や国債を日銀が購入する量的緩和政策や、金利をプラス圏からマイナス圏にまで誘導するマイナス金利政策など、中央銀行の政策はあらゆる実験を行って景気を刺激することを目指してきました。そして日本も欧州も、これだけの政策を行ってもなかなか景気回復という具合にはならないので、ついに最後の手段である「ヘリコプターマネー政策」に舵を切るしかないのではないか、という思惑や予想が世界的に広がってきているわけです。
 そして今回の熊本地震の発生があり、日本がいよいよ世界で初めて実質的な「ヘリコプターマネー政策」を行う環境が出来上がってきました。日本はいくら国債を発行して借金を重ねてもインフレにはなってきません。それどころか円高になって更にデフレ状況が悪化しようとしているのです。であるならば、紙幣を無尽蔵に中央銀行である日銀に発行させ、それを天から降ってきたただのお金として政府がいただいて思い切って地震の復興に使おうというわけです。
 東日本大震災の時は、政府が復興資金を提供しましたが、国民には復興税がかけられました。しかし今回の熊本の地震では、国民に税金を課すことはないと思われます。まさに政府が自由に国債を発行して、金利もありません。かえってマイナス金利で金利がもらえる状態です。こうして日本政府は、自由にお金を使いまくることになるでしょう。
 こうしていよいよ世界初の「ヘリコプターマネー政策」が日本で行われようとしています。もちろん政府が「ヘリコプターマネー政策」を行うなどとは口が裂けても公言することはありません。しかし既に1000兆円を超える借金がある日本国が、更に追加的な国債を発行してそれを実質的に中央銀行である日銀が引き受けることで紙幣がばら撒かれ、地震の復興資金として立派に活用されるのですから、これはまさに「ヘリコプターマネー政策」の発動と言えるわけです。
 そして円が高く、インフレにならないのであれば、地震の現状を見る限り復興を急ぐべきであり、即座に止まらないインフレになるような懸念がないのであれば、日本全体がこの「ヘリコプターマネー政策」を現状では支持しておかしくありません。こうしていよいよ参議院議員選挙に向けて消費税引き上げ先送りと大規模な国債発行による補正予算編成が行われることとなるでしょう。
 そして今のところ、いくら国債を発行して、その資金を幾ら日本国が使おうがインフレになる兆しは見えません。いくらでも借金してその借金を幾らでも中央銀行である日銀が引き受けてくれて打ち出の小槌のように紙幣が溢れでるのであればこんなうれしいことはありません。
 こうして日本では世界初の「ヘリコプターマネー」が発動されるのです。天からお金が降ってくる「ヘリコプターマネー政策」ほど都合のいい政策はありません。日本人全員が熊本の一刻でも早い復興を願っているわけで、今回の政策が必要であれば反対する理由などないのです。こうしてますます政府も日銀も、そして国民も、日銀という中央銀行のたゆまない紙幣増刷に完全にマヒしていくのです。インフレはいつまで経っても起こりません。日本国の借金がいつ限界点に達するのかもわかりません。ただ政府も日銀も国民も完全に安心しきって「ヘリコプターマネー」にすがり「ヘリコプターマネー中毒」になっていく流れを止めることはできないでしょう。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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