トップが語る、「いま、伝えたいこと」

　昭和４２〜３年ごろ、東洋レーヨン株式会社の創業者といってもいい田代茂樹さんに、「本物を知ろうと思ったら世界の一流ホテルへ行きなさい」といわれました。その時、勧められたのがスコットランドにあるＧＬＥＮＥＡＧＬＥＳ（グレーンイーグルス）でした。そこで、ＧＬＥＮＥＡＧＬＥＳに泊まろうと申し込んだのですが、固く断られました。その後、田代さんに相談したところ、田代さんの紹介ということで、やっと泊めてもらうことができたのです。田代さんは、昔、三井物産のロンドン支店長時代に、よくＧＬＥＮＥＡＧＬＥＳに宿泊していたようです。当時、ヨーロッパの超一流ホテルは、過去の宿泊客又は、華族・貴族でなければ泊まることができませんでした。
　私と他、約１０名の日本の経営者の方々が一緒にＧＬＥＮＥＡＧＬＥＳに行きました。初日は、ものすごい歓迎を受けました。レストランは、真ん中の一番いい席を用意してくれました。また、日本のいろんな曲も演奏してくれました。しかし、明くる日の朝には、「あなたたちは、マナーを知らない」と言われ、一番端の席に変えられました。そしてその後の２日間にマナーを教えてくれたのです。
　また、当時のヨーロッパの超一流ホテルというのは、元華族とか、元大使以上とかエリートでないといくらお金を払っても泊めてくれなかったのです。ですが、それ以後過去にＧＬＥＮＥＡＧＬＥＳに泊まったという証拠さえあったら他の一流ホテルでもどこでも泊めてくれました。パリのジョルズサンクスとかクリオンとかも泊めてくれました。クリオンに泊まっているというと、たとえば、パリでムーランルージュなどレストランショー劇場に行っても、「いまクリオンに泊まっています」と言うと、間違いなくクリオンに確認を取ります。そこで確かにクリオンに泊まっているということが分かると、一番いい席を用意してくれたのです。しかし、チップは余計にかかります・・・そのように、嫌な部分もヨーロッパの社会にはあったのですが、そういったことをはじめて教えてくれたのが昭和４０年前半のヨーロッパの一流ホテルなのです。ですから、私にとっては、非常に勉強になった場所です。１０年くらいそういった一流ホテルばかりを泊まり歩いていたのですが、そのお陰で私の美的センスは多少は磨かれたようです。
　最近は、美的センスのない人が多く、私も時々、驚かされることがあります。これからは、本物の時代です。できるだけ本物を見て、触って、一流の感覚、センスを磨いてほしいと思います。いまでもヨーロッパの超一流ホテルなどはいいのではないでしょうか。
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