“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2010.11
物価高騰に備えよ

 「FRBの政策の正しさが証明された」。当局者は胸を張りました。11月17日に米国で消費者物価指数(=消費者が購入する商品・サービスの価格変動を示す指数)が発表になりましたが、その数字は前年同月に比べ、0.6%の上昇、過去最低となったのです。
  まさにデフレが証明されたとのことで巷に広がっているインフレの懸念など杞憂(きゆう)に過ぎないというわけです。ドルを印刷しまくり、一見インフレを拡散させるかのごとくに見えるFRBですが、蓋を開けてみればなんてことはない史上最低水準の物価上昇率でインフレの心配などないというのです。
 また日本では、11月26日に同じく消費者物価指数が発表になりましたが、これは前年同月比で0.6%の低下、20ヵ月連続のマイナスという有様です。まさにデフレから抜け出せない日本経済の姿を裏付けたというわけです。今日(11月26日)も、野田財務大臣は午後の参院予算委員会でデフレ克服を「日本経済最大の課題」と強調しました。民間のエコノミストも政府も課題は「デフレの克服」ということで、インフレのイの字もないかのようです。相変わらず著名エコノミストも国会議員も「デフレを何とかしろ!」の大合唱です。

デフレではなく、実はインフレの波が日本に押し寄せてきている
 しかし実は、彼らの見方を根本的に覆すようなインフレ、物価高が迫ってきています。
 「デフレを何とかしろ!」どころか「インフレに備える!」必要がもう待ったなしなのです。
 私は11月20日に行ったセミナーで、リスナーの方々にまずは、「服を買いだめしておくように」と、身近なところからインフレへの備えの話をさせていただきました。
 今年11月に発売された拙著『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社刊)でも詳しく書きましたが、もう物価高、それも必需品の高騰は目の前に迫ってきています。早急に備える必要があるのです。
 一般的にデフレというと日本の場合、その原因として需給ギャップということが指摘されます。日本経済の抱える膨大な供給力はとても、国内の減っていく需要では賄うことができず、これが構造的な物余り、売れ残りを誘発して物の値段が下がる、物価が下がっていくというのは事実です。また、人口、特に働き手と言われる15−64才までの生産年齢人口(いわゆる稼ぐ、使う現役世代)の人口の減少は特に著しく、これが予想以上の需要の減少を起こしていることは疑いありません。日本社会は予想以上の高齢化の進展で収入は減り、負担が増えていくという実態があり、ここから抜け出すことはできません。これら構造的な問題が解決不能のデフレ、物価安を引き起こしているのは否定しようがないでしょう。

 ところがこの状態でも物価高が起きるのです。新興国はインフレだが、日本はデフレ、物価高など起きない! というのが定説です。しかし考えてください。新興国だろうが、先進国だろうが同じ物を買ったり、消費したり、使っていませんか? 食糧やエネルギー、もちろん車やテレビだって、今や同じような製品なわけですよね。ということは基本的には同じ値段ですよね。もちろん流通とか人件費とかいろいろありますから、多少の値段の誤差はあるでしょう。しかし石油や銅、大豆や小麦など、基本的な資源や食糧は全世界、値段は同じはずです(コメなどの農産物は関税で値段は違いますが)。だからニューヨークやロンドンで、毎日商品市場も取引されているわけです。そしてこれらの物資は新興国の持続的発展により高騰すれば、当然国際価格の上昇となって日本へ波及してきませんか? 当然波及してきますよね。まさにこの動きは始まろうとしているのです。国内のデフレ状況を超えた国際的な商品価格上昇の動きの伝播です。
 そしてそれは、人間の基本的な営みから影響してくるわけです。たとえば人件費などのようなサービス価格で考えれば、新興国の人件費と日本の人件費とでは、まだ全く違うわけです。しかし食べる物とか着る物を考えるとどうですか? 生きている以上は新興国の人達も我々も食べるわけですよね。また着る物はどうですか? 北朝鮮のような人民服をきている国はもうないですよ。あっという間に世界中の人達も今までよりも服を必要としてきているわけです。まさに発展に伴って、人間の基本的な営みである、衣食住などは新興国だろうが、先進国だろうが同じように消費するようになるわけです。そしてこれら衣料品を作る原料や穀物などは世界共通の価格です。
 ですから供給不足、需要過多による価格高騰、インフレへの走りはまず、先進国だろうが新興国だろうがどこの国でも使用頻度が変わらないこの必需品から訪れるわけです。

これから洋服の値段が高騰する!?
 綿花が急騰しています。服を作る基となっている繊維の原料である綿花が異常な高騰となって、ついに市場が始まってから150年以上の歴史をひも解いてもなかったような、とてつもない史上最高値に躍り出ているのです。リーマン・ショック後には1ポンド(約453グラム)が40セントにも満たなかったのに今年に入ってから上昇。9月下旬に1ドルに乗せ、その後も急騰し、11月10日には何と、1ドル50セントを超え、2年で4倍に急騰、今年に限っても倍になろうとしています。事の発端はやはり異常気象からでした。世界の繊維製品の、生産も消費も輸出も牛耳っている中国が干ばつになったのです。綿花畑に多大な影響を受けた中国では一気に繊維の原料である綿花の供給不足となりました。中国に次ぐ綿花の生産国であるインドは綿花の国内供給を優先、輸出制限に乗り出したのです。そうなると綿花の輸出能力を持つのは米国かパキスタンしかなかったのですが、このうちパキスタンは夏の異常気象による洪水で綿花畑に甚大な被害がでたのです。唯一輸出能力を持っているのは米国だけですが、今や在庫は従来の半分に激減、これでは世界中で毎年約1割ずつ増加していく綿花の需要に答えられるわけもなく、ついに綿花価格の急騰と相成ったのです。世界の生産の主体となってきた中国ですが、今年の生産高は昨年に比べ、5.5%減(一説では15%減)が予想されています。実は中国でも綿花の生産などは食糧と違って、国家として戦略的に危機対応の準備をしていません。いざ干ばつになると対応のしようがないのです。
 この綿花の急騰を受け、繊維業界は、綿花を使った天然繊維がダメなら、合成繊維がある、と比較的に手に入りやすい合成繊維に傾倒していったのです。ないしは天然繊維に合成繊維を多く混ぜて価格を抑えようというわけです。ところが、これも今度は玉突きになるように合成繊維の高騰を招いてしまっているのです。何とあまりの需要の急激な盛り上がりで合成繊維の原料である、ポリエステル短繊維とPTA(高純度テレフタル酸)が急騰。PTAに至ってはこの10月28日に2年ぶりに1トン1,000ドルに乗せてから、わずか2週間でその後、4割近くも上昇という有様です。綿花も急騰、合成繊維の原料も急騰、とにかく服を作る原料の高騰を止めることができないどころか、上昇が止まらないのです。まさに野菜の値段が急騰するかの如く、繊維の原料が飛ぶように上昇です。だって世界中の人々は服を着ないわけにはいきません。あっという間に上がるのは世界の需要は絶対的だからです。
 そして当然のことながらついに最終価格にも、この影響が及んできたのです。繰り返しますが、我々の繊維製品の生産地はほとんど中国です。繊維製品については、ここから流れが始まってくると思えばいいですが、この中国で値上げが始まってきたのです。この冬からです。秋物はまだ原料が値上がりする前の在庫があるわけですが、冬物となると直近で作っているために、原料高に直撃されています。1割とか2−3割ならともかく、その原料が綿花のように2年で4倍となってはもう値上げに走るしかありません。少しくらい値上げしても赤字でしょうが、メーカーとしてももう背に腹は代えられない状態に陥っているのです。
 そして今これら世界の大半の繊維生産地の中心である中国企業は現在、米国の衣料品小売大手のギャップやJCペニーなどと来年4月出荷分について値上げ交渉を開始しました。
 おそらく原料の綿花や合成繊維の急騰をみると、値上げを避けることはできないでしょう。一部のメーカーでは5割から7割の値上げに踏み切ったということです。今年の冬はともかく、来年の春にはいよいよ日本でも、大幅な衣料品の値上げは避けられなくなってくると思われます。不況で売れもしないのに、やむを得ない値上げということになっていくでしょう。
 天候で影響を受けて世界的に供給不足となってきたのは綿花だけではありません。砂糖の原料である粗糖は30年ぶりの高値、自動車のタイヤに使うゴムは31年ぶりの高値、コーヒーは13年ぶりの高値、そばの原料となるそばの実の中国産は26年ぶりの高値。

 ちなみに日本の野菜ですが、全て昨年に比べて高くなってきていますが、東京卸売市場ではキャベツなどは昨年の3.7倍です。お隣の韓国ではキムチの基となる白菜の急騰が話題。何と小売価格が昨年の5倍というではありませんか!
 中国は先日、政策金利を上げました。消費者物価が大幅に上昇したからです。原因は食料品が10%も高騰しているからです。まだ日本に影響はきていないものの、日本はいかに多くの食糧を中国から輸入しているか考えてください。
 テレビやパソコン、サービスなどの人件費を見てデフレと言っていますし、政府もエコノミストもデフレ話ばかりですが、怖い必需品の高騰が近づいてきているのです。綿花も粗糖もゴムも小麦もトウモロコシも大豆もコーヒーもそばの実も野菜も、不作になったのは全て異常気象が原因です。干ばつと異常な降雨が交互に世界中で起っているからです。地域、地域の気象状況が世界中で異常に変化しているのです。この異常気象が収まると思いますか? 収まらなければどうなると思います? 綿花も粗糖もゴムも小麦もとうもろこしも大豆もコーヒーもそばの実も野菜も、全て上昇は収まりません! まさに「衣、食」という我々の生活に欠かせない必需品だけが高騰しかねないのです! いよいよ庶民を直撃する物価急騰の流れが近づいているのです。

10/12

迫りくる大増税

10/11

物価高騰に備えよ

10/10

まえがき(新著『2011年 本当の危機が始まる!』より)

10/09

中国の謀略

10/08

ニューノーマル

10/07

焼け太ったFRB

10/06

金(ゴールド)相場の映すものは?

10/05

ギリシア問題の末路

10/04

ゴールドマン・ショック

10/03

郵政改革の裏

10/02

金融問題公聴会

10/01

グーグルVS中国


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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/

Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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