“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2010.08
ニューノーマル

 「ニューノーマル」。この言葉は、ビル・グロス(※「債券界の王様」と呼ばれ、世界一の運用会社・米ピムコ(PIMCO)の最高経営責任者)が指名し、今、グロスと共にPIMCOの最高経営責任者となっている、モハメド・エラリアンが作ったニューワードですが、今や現在の経済を語る代名詞のようになってきました。この「ニューノーマル」とは何か? 世界は「ニューノーマル」に向かうのか? また「ニューノーマル」の隠された意図は何か? 検証してみたいと思います。

「ニューノーマル」とは何か?
 「ニューノーマル」についてのエラリアンの見解は明確です。もう世界はリーマン・ショックの前には戻れない! これからは低成長を覚悟するしかなく、その道のりは極めて厳しいものとなる。我々の向かっている目的地は以前とは違うのだ! というわけで、我々は今までの常識は捨てて、新しいものさし「ニューノーマル」をはっきり意識する必要がある、と説いているのです。そしてそれは厳しい道のりというわけです。

 エラリアンは「ニューノーマル」について具体的に世界の経済の構造的変化の例として4つの事象を上げています。
 一つ目は、今までと違って、米国経済を引っ張ってきた消費が長期にわたって減速していくということです。これが米国経済の成長率を大きく持ち上げることを不可能にするわけです。1990年、バブルが破裂した日本の経験を肌で感じている日本人には特にわかりやすいと思います。米国では、全国民が借金消費を膨らませてきたわけですが、今回のリーマン・ショックから簡単に立ち直ることはできず、これからは長期に渡ってこの積みあがった借金を個々人も企業も返していくしかないということです。まさにバブル崩壊後、日本国中で起こり、20年も経った現在も続いている過去の負債のツケが、長く経済を圧迫するということです。借金があり過ぎては身動きがとれません。まさに米国全体がこれから陥っていくのは日本の来た道そのものという考えです。
 二つ目は、公的債務の膨張です。これもまた日本の経験にダブります。民間が借金漬けで動きがとれなくなると経済が失速してしまうので、これを補うため、政府が支出するわけです。いわゆる経済対策というやつです。減税、公共投資、とにかく国が資金を使って何とか経済の落ち込みを回避しようと必死になるわけです。これはどこの国でも行うわけですが、当然これを行えば、国としての借入、いわゆる借金が膨らむわけです。具体的には国債の発行が増えるわけです。いわば借金の民間から国への大移行が始まるわけです。そして今の日本を見ればわかりますが、その額は今や天文学的になってきたわけで、これはこれからの米国も同じです。
 三つ目は、失業問題です。景気が回復したと言っても失業問題が一向に片付かないわけです。景気回復と言うものの、米国の失業率も10%のところに張りついた状況で、全く改善されてきません。米国の若者の4人に1人は職がないのです。そしてこの「ニューノーマル」の世界では、この失業問題も解決は難しく、そうなれば将来への不安は解けず当然のことながら経済の本格的な活性化は望めないということです。
 四つ目は、これらが複合的に絡み合う関係で、政府の規制が激しくなってくるということです。本来なら経済の悪化に対して、規制を緩和して経済の新しい分野を構築、その需要で活性化を目指すというのが常道ですが、なにしろ問題多発で規制を緩和するどころか強化するしかなくなってきているのです。

 エラリアンはこれら4つの問題が構造的問題であって、解決は難しく、結果として世界は全く今までとは違う「ニューノーマル」という低成長を甘受しなければならない事態に陥っていくのだ、と言っているわけです。
 彼の言うことは現状をそのまま表現したようなもので、的を射ている印象です。この考えでいくと、世界はまさに日本のようになっていく、ということで、今この“日本化”、ジャパナイゼーションという懸念が米国では急速に出てきているのです。まさにデフレ長期化の懸念です。
 米連邦公開市場委員会(FOMC)の委員であるセントルイス連銀のブラード総裁の発言も同じような意味合いで話題になっています。ブラード総裁は、「米国経済はデフレのリスクが高まってきている。デフレに陥り、流動性の罠にとらわれた日本のようにならないか注意する必要がある」と述べました。

実際は「ニューノーマル」レベルより問題は深刻
 私はこの「ニューノーマル」の状態に世界が陥っていくことや、現状がまさにこのデフレ状態になりつつある現状は否定しませんが、これらの現象は一時的なものと考えています。いわゆる「ニューノーマルの状態」は、これからの溢れかえったマネーの繰り出す「破壊的な混乱に至る一里塚(いちりづか=大きな目標や結末へ向かう過程での一つの段階)」という捉え方です。
 「ニューノーマルの考え」でいけば、ある意味では低成長ながらも世界は安定に向かうということです。その想定される将来は、ゼロ金利の長期化によるデフレ状態の継続で思うように浮かび上がらない経済です。
 歴史的にリーマン・ショックをどう捉えるか? という視点でみても面白いでしょう。ニューノーマルの考え方で言えば、リーマン・ショックを契機として、世界はかつての日本に似た極めて低成長を長期に渡り余儀なくされるということで、この場合はリーマン・ショックを一つの重大な契機、イベントとみています。リーマン・ショックが全てを変えたという捉え方です。それはそれで間違いないのですが、私はリーマン・ショックは「大混乱の始まり」であって、まだ世界の混乱は序章が鳴ったに過ぎないと思っています。今の世界のシステムが破壊され、収集不能となるプロセス上に、今ある様々な問題が横たわっているという考えで、リーマン・ショックは幕開けに過ぎないと思っています。

 具体的には確かにニューノーマルは起こるし、今起こっている。しかし世界はニューノーマルを避けようと(低成長を回避)と絶えず、バイアスがかかり続けるわけです。FRB(米連邦準備制度理事会)をはじめとする前例のない資金供給などは最たるものです。
 また今回の危機を今世界は“ジャパナイゼーション”とばかりに、日本のケースにすっぽり当てはめてデフレ懸念を抱き始めました。急激に日本研究が盛り上がってきているのです。
 しかし、日本のバブル崩壊と今回の世界的な金融危機と比べるのは無理があるのではないでしょうか? 今回のデリバティブ市場の崩壊による世界同時に起こった金融問題の規模はそのスケールが全く違います。日本の時は日本だけであり、特に不動産と株の暴落、それに付随する銀行の問題がメインでした。ある意味では不動産価格と株式の価格ははっきりしているもので、その額、スケールとも膨大ではありましたが、把握できるものでした。見えるわけです。また日本という国はそれまでに巨額の蓄えがあったということもあります。国民性も大きいでしょう、我慢強く、まじめに努力する国民性です。確かに破綻状態だった経済ですが、2003年以降の世界経済の回復に引っ張られて日本の経済は回復することができました。
 これらどの要因も今回の世界的な金融危機には当てはまりません。まずそのスケールですが、これはいまだに隠されています。住宅価格の下落から来た証券化商品の暴落が発端ですが、その概要はベールに包まれています。米欧でストレステスト(※経済状態が今より悪くなった状態を想定して、各銀行の財務状態を調べるもの。ストレステストをパスすることで銀行の状態は万全であるとアピールできる)がありましたが、これら問題の元凶である証券化商品は価格算定不能ということで、検査対象外です。100億円の債務担保証券(CDO)は100億円で評価されるのです。10億円、20億円の評価しかないと言われているものがです。今はこの公然の粉飾決算に慣れて、何の問題点も指摘されなくなったのです。その実情はおそらく世界を破壊するに十分な大きさですが、見事に封印しています。この問題はまたいつ爆発するかわかりません。

水面下にはとてつもない不良債権の闇!?
 現在明らかになっている一端を書いてみますと、米国の住宅ローン市場を一手に引き受けているフレディマック、ファニーメイの問題があります。両社の赤字は一向に止まる気配がなく、米国政府は毎期資金導入を続けています、最終的には100兆円に上るとも言われてきましたFRBがこの2社の住宅担保証券と社債を130兆円も購入しているわけですが、それがあってもこの状態です。いったいどこまで資金を必要とするのか?
 この膨大な額を見るとギリシアの問題などかわいいもので、ギリシアなど、なぜ騒ぐのか? と思ってしまいます。このフレディマック、ファニーメイの問題などは氷山の一角です。水面下にはとてつもない不良債権の闇が眠っているのです。
 また、世界はかつての日本のように巨額な蓄えがあるわけではありません。米国をはじめ、借金だらけです。またギリシア国民のストを見ればわかりますが、世界の人達は日本人のように我慢強くありません。緊縮財政、低成長に耐えるような性格ではないのです。
 「ニューノーマル」など、これからの少しの間のまやかしの状態を表す言葉です。「ニューノーマル」の状態が次なる大混乱へのステップを刻むのです。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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