“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2017.09
中国 止まらぬネット企業の勢い

 「こんなに腐敗して無能な政治にバンザイできるの?」 中国のネット企業大手、テンセントが提供していた人工知能(AI)の自動会話サービスは突如停止となりました。「共産党バンザイ」との読者からの話しかけに対してAIが真っ当な答えを返したからです。また習近平主席が唱えている「中国の夢とは何か?」との問いにはAIは「米国への移住」と答えたのです。笑い話のようなAIの自動会話サービスの一例ですが、中国でこのような実体が許されるわけもありません。面白おかしく話題になったものの、その後テンセントのAI自動会話サービスは大幅に修正され、AIの話題は立ち消えになりました。
 かような例をみると中国においては当局の締め付けが圧倒的に強く、自由な気風がないのでIT企業も大きく育っていかないような感じがします。ましてやネット企業など奔放さと自由な発想が不可欠な企業には余計に締め付けが裏目に出てくるように思えます。
 ところがテンセントは全く違って、当局の締め付けにもかかわらず、その成長の勢いは留まることを知りません。一般的に考えると、世界を牛耳る企業群は今やビッグ5と言われる、ITの巨人、アップル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック、グーグルなど米国企業のように思えます。現にこの5社は世界の株価の時価総額ランキングの上位5社です。米国はいろいろ言われますが、時代の覇者らしく米国の企業群が時代の最先端を走っているのは間違いありません。我々の毎日の暮らしぶりを見ても、アップルのスマホから始まり、フェイスブックの確認やアマゾンでの物品購入、そしてグーグルでの検索とこのビッグ5に知らず知らずのうちに毎日が支配されています。本格的なIT時代に突入していく中で、圧倒的なプラットフォームを有しているこれら米国発のITのビッグ5は今やあらゆるものを支配する勢いです。我々の好みも行動も全てこれらITのビッグ5によって丸裸にされて、我々の個人情報は好きなように使われ、ビッグ5の巧みなAIを使った購買誘導によって、我々は自然にネット上の購入に誘導され、結果的に彼らの懐を我々が意識しないうちに潤しているのが現実でしょう。IT時代にあっては圧倒的なプラットフォームを持つ彼らに今後、対抗する勢力が出てくるのは至難の業のように思えます。製造業では世界に冠たる地位を得て、それなりの影響力や実績も持っている日本企業ですが、ことITの分野になると米国企業の圧倒的な支配力に後塵を配しています。

●巧みな中国のIT戦略
 ところが中国は全く違うのです。中国は独自の国家戦略を持っていますし、世界を制覇しようという野心を持っています。そのため、国内の市場を簡単に米国など外資に侵食されることは許していません。特に軍事や防衛、情報、通信など国の基幹となる産業には他国の圧倒的なシェア獲得を絶対的に許さないのです。ですからネット空間においても中国は中国独自の技術を優先させ、米国勢の中国国内での独占的な活動を許すことはありません。
 その中国のネット空間において、中国の2大ネット企業、アリババとテンセントの業績拡大の勢いが止まらないのです。先にみたようにテンセントも中国当局の激しい検閲を受けながらも、テンセントは企業規模を確実に拡大中で、実はその伸びは米国のIT企業を大きく上回る勢いとなっているのです。
 今年4−6月期のアリババとテンセントの利益の伸びとみると、前年同期比でアリババは94%増、テンセントは70%増となっています。そして両者とも株価は驚くほど上がり続けています。テンセントは1998年創業、今日まで創業からわずか20年足らずです。株価の時価総額は現在40兆円を大きく突破してきました。2004年時の株式上場時と比べても株価が450倍に化けるという驚くべき成長企業なのです。因みに日本企業の時価総額トップはトヨタ自動車ですが、その時価総額はテンセントの半分以下の20兆円に過ぎません。
 テンセントの社員の平均年齢は何と29歳という若さです。テンセントでは40歳を超えると時代の流れに追随できないということで、自然に会社を去るようになり、結果40歳を超える年齢の社員はほとんどいないというのです。テンセントの主な業容はスマホ向けの交流サイト、ウィーチャットです。そしてそこで広がった巨大な顧客層をベースにゲーム配信で巨額の利益を稼ぎ出しているのです。これだけ急成長して巨額の利益を叩きだしているわけですから社員への待遇も破格です。平均給与は年額で約1300万円ということで中国の平均的な給与の3倍以上で、しかも平均年齢29歳という事実を考えれば、同年齢の給与を比較した場合、破格の好条件と言えるでしょう。日本でもこれほど若い社員に平均してこれだけの給与を与える企業は存在しないと思われます。これだけでなく、社員には株をもらえるストックオプションの制度、また残業には夜食券が支給され、夜10時以降帰宅の社員にはタクシー券が配られるという至れり尽くせりの福利厚生です。何しろチャットとかゲームの新しいアイデアを作り出す会社ですから若い柔軟な発想が必要とされます。このため年齢はほとんど関係なく、社員の上下関係も薄いということです。社内では上下関係を気にすることはほとんどないということで、仕事だけに集中する環境が整っているというわけです。また社員はチーム制になっていて、いい発想や仕事がなされるとそのチームに対して多大なボーナスが出る仕組みとなっているということです。これによって社員の足の引っ張り合いもないというわけです。商品さえ売れれば給与が自然に上がる仕組みになっているので、誰もがやる気になるというわけです。ただこのような高収益会社で好環境なので、中国各地、世界各地から優秀な人材が大挙してきている状態となっていて、社員間の競争は厳しさを増しているようです。米国の有名大学ハーバードやスタンフォード、MTIなどからの卒業者がテンセントへの就職へ殺到しているということです。
 中国企業という意味ではアリババの話はよく聞かれますが、このテンセントの話はあまり聞いたことがないという人が多いのではないでしょうか。ところがこのテンセントは今やアリババと並ぶ中国企業のITの雄となっていて、株価の時価総額がアリババと共に40兆円を超えることによって、先に書いてきた米国のITの雄、アップル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック、グーグルに次いで世界の時価総額ランキングの上位ベスト10に突入してきたのです。まさにIT時代の申し子が中国にも彗星のごとく現れてきたというわけです。
 これはもちろん、アリババやテンセントの実力によるものも大きいと思われます。しかしながら見逃せないのは、ここまでアリババやテンセントが急拡大できた背景には中国における外資締め出しという巧みな国家戦略があったことは否定できません。中国は世界に覇を唱えようとしていますから、ITの分野でも国内の市場を米国勢に蹂躙されるわけにはいかないです。
 そのため、中国は事実上、中国国内のネット市場からグーグルやフェイスブックなど外資系企業を締め出してきたわけです。アリババやテンセントのような中国企業は外資には閉ざされた中国独自のネット空間において独占的な利益を享受してその業容を拡大させてきたわけです。中国の強みはその膨大な人口にあります。米国市場は人口約3億人ですし、欧州市場も人口は5億人程度です。ましてや日本市場は人口1億人足らずです。この日米欧全て合わせても9億人の市場規模ですが、中国は国内だけでも14億人の市場があるわけですから、その巨大な国内市場において独占的な地位を占めれば欧米企業が太刀打ちできないスケールメリットを有することができるわけです。ですから中国当局は国内市場を鎖国的に閉鎖して、国内の企業を優先的に育てるわけです。こうして中国は自国の企業を大きく強くすることで、まず国内における支配的な地位を作り出させます。その後、力をつけた強大化した中国企業は、規模の優位性を利用して、中国で成功した後に世界に打って出ることによって世界市場も制覇しようという戦略です。

●中国の次なるステップ
 現実問題としてテンセントなど中国のネット企業は中国国内を抑えた現在、次のステップとして東南アジアに進出していこうという腹づもりです。中国市場で14億人、そこから東南アジアに進出して東南アジアの6億人を抑えてしまえば、実質世界制覇を成しとげたようなものという感覚なのです。無理して多大な赤字を覚悟して米国の3億人や欧州の5億人のマーケットなど狙う必要もないということです。
 かように中国はその国家戦略に基づいてIT企業も構築しています。そして中国の国内の締め付けはますます激しくなる一方です。中国では政府への批判は一切許されません。ネット上も徹底的に監視されています。中国では<インターネット安全法>が成立、ネットに関するビジネスを行う企業は、サービスは中国基準を適用して、中国で得たサービスは中国に置かれたサーバーで管理することが義務づけられたのです。世界中の多くのネット企業は中国当局のかような強引な方針に猛反対したものの、結果的に中国当局の圧力には従うしかなかったわけです。
 こうしてアリババとテンセントは中国市場を実質独占して次々と新しいサービスを展開、更に収益構造を進化させています。もはや独占企業となったアリババやテンセントは既に構築された巨大なプラットフォームを利用することで、そこに新たな有料サービスを展開することで限りなく業績を拡大できる構造が出来上がっているわけです。
 こうして中国に置いては閉ざされた鎖国市場というネット空間でアリババとテンセントが稼ぎまくります。世界ではあまりに儲けすぎて個人情報を独占して利益を積み上げる米国企業のビッグ5が非難の的になっていますが、したたかな中国においては同じく巨大なプラットフォームの構築に成功したアリババとテンセントが独占的に利益を享受する構図が出来上がってしまったのです。IT時代の全盛で巨大な独占が生じてますます格差が世界的に拡大するという皮肉な展開が始まっています。そして主役は米国企業だけでなく、中国企業も驚くべき強力な存在として膨張し続けているのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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