“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2019.6
動き出した金相場

 「イランによる米国へのいかなる攻撃にも強力かつ圧倒的な力で対処する。場合によってはイランの消滅を意味する」
 6月25日、トランプ大統領はイランをけん制するメッセージをツイッターに投稿、この表現は激しくまるで核兵器でも使用するようなイメージさえ抱いてしまいます。米国とイランの緊張は高まる一方です。米国がイランの最高指導者ハメネイ師を制裁対象に指定したことでイランは激しく反発、米国を非難しています。イランの外務省のムサビ報道官は「この米国の追加制裁によって外交の道筋が永遠に閉ざされた」と述べました。かように米国とイランの関係は悪化する一方で今や両者の状態は一触即発、いつ軍事衝突が起きてもおかしくない情勢です。
 不透明な環境下、ついに金相場が大きく動き出したのです。一連の報道を受け、金相場は一時1トロイオンス1439ドルと2013年5月以来、およそ6年ぶりの高値に躍り出てきました。久しぶりに脚光を浴びつつある金相場ですが、現状と先行きを考えてみましょう。

●過去のデータからみても金相場は躍進中
 金相場は昨年の夏には1トロイオンス1200ドル割れ、多くの投資家の失望を招いていました。この当時は金価格に連動するETFから断続的に資金流出が止まらず、ヘッジファンドなど投機筋の売り越し額が過去最高に膨らんでいました。昨年の秋までの段階では米国の株式市場は好調、NYダウが史上最高値を付けたのは10月3日です。ドル相場も米国の好調な経済を受けて上昇し続け、米国の中央銀行であるFRBは政策金利を上げ続けていたわけです。金利のつかない金投資は嫌われ、金投資は向かい風が吹いていた状態です。資金は金相場から逃げ、株や金利の取れる投資対象に向かっていたのです。その当時金相場はじわじわ下げる一方でした。
 ところが昨年10月から米国は中国に対して強硬な姿勢を一層強めました。結果米中の貿易戦争が激しくなり、株式市場が変調をきたすようになりました。そんな状態でも昨年12月は米国の金融当局であるFRBは金利を引き上げていたわけです。それが昨年暮れ株価の世界的な暴落を招くこととなりました。クリスマス暴落です。
 年が開けると米国のFRBは金融政策の転換を示唆するようになりました。そこまで金利を引き上げる一方だったのが、今度は引き上げを止めるというわけです。この辺りから金相場の流れが少しずつ変わってきました。また米中の貿易戦争の激化で世界的な景気後退懸念が日に日に高まるようになり、今度は金利引き上げ停止どころか、金利引き下げの機運が盛り上がってきたわけです。金相場に金利の引き上げは天敵です。というのも金は金利がつきません。金に金利がつかないのに、他の金融商品は金利が上昇して、保有しているだけで金利をもらえるわけですから、この金利が引き上がる情勢下では金投資は不利なわけです。米国は世界の中心ですから、米国の金融政策は世界に影響を及ぼすわけです。その米国が今年7月には確実に金利を引き下げるという観測が市場の大勢の見方となってきたのです。こうなると金相場には追い風です。
 またそれだけではありませんでした。先に書いたように米国とイランの関係は一触即発でいつ軍事衝突が起こるかわからない情勢です。これにより安全資産としての金に再び注目が集まるようになってきたわけです。
 すでに金相場は今年に入ってから昨年に比べて底堅い動きを続けていました。それでも金相場には上値の大きな抵抗ラインが存在していたのです。金相場はリーマンショック後、米国経済の不安定化とドル安傾向を受けて大きく上昇しました。当時私も一貫して金への投資を推奨してきました。金相場は2008年から2011年までに約3倍に化け2011年秋には1トロイオンス1920ドルの高値を付けたのです。その後金相場は米国経済の回復とドルの復権を受けて下がる一方となりました。通常相場の世界では大きな相場が出て、大天井をつけるとその後相場の低迷は長く続くものなのです。ですから金相場は2011年秋の天井打ち以後、基本的には下げトレンドの中にあったと思います。そして2008年から2011年までの相場が3倍になるという大きな相場だっただけにその反動も長く続いたわけです。2011年秋から金相場は下げ続け、上げても再び下げるという展開でした。ここの直近3年くらい金相場はもみ合い状況、上がる時もあるのですが、ある程度上がると上値が押さえられる展開だったのです。
 特にここ3年金相場は上値の強力な抵抗ラインとして1350ドルから1360ドルのラインが意識されていました。上がってきてもどうしてもこのラインを抜けなかったのです。
 2016年7月、8月は英国が予想外のブレグジットを国民投票で決めたことに世界は衝撃、世界の不安定化を危惧して株が売られ、金が買われました。その時も1360ドルが上値の大きな抵抗ラインとなってその上に相場が突き抜けることはできませんでした。
 また2017年8月、9月は北朝鮮が核実験を実施したことで世界的に危機感が広がりました。当然この時も金相場が買われたわけです。それでもこの時、金相場は1360ドルの上値抵抗ラインを抜けることはできませんでした。
 また昨年2月、3月、4月と米中貿易戦争への懸念から世界的に株価が下落した時も金相場は上げたものの、1360ドルで相場の頭を抑えられました。今年2月も米国の利下げ観測が出て金相場が一時的に買われる局面があったのですが、この時も1360ドルを前にして相場は失速したのでした。かように金相場における1350ドルから1360ドルの壁は過去3年間の間に4回もトライしても抜くことができず、チャート上の相当強力な上値抵抗ラインとみられていたのです。

 それが今回この1360ドルのラインをあっさり抜いて1400ドルを超えてきたのを見ると、金相場は相場的に新しいステージに入ってきた可能性が高いわけです。相場の世界ではかように強力な抵抗ラインを上でも下でも抜き去ることで、新しいトレンドが始まることはよくあることです。
 背景として、金相場が上がる外部環境が整ってきたということがあるでしょう。先に書いたように米国の金融当局であるFRBが今後政策を転換して金利引き上げ政策から、金利引き下げ政策に変わってくるという見方は、金相場にとっての一番の追い風です。
 また現在金相場と共にビットコインの相場も大きく上昇してきたのですが、これも現在の世界の不透明感を写している動きでしょう。もちろん米国とイランとの軍事衝突の危険性、そしてそれに伴って予想されるホルムズ海峡の実質的な封鎖による原油価格の急騰が世界経済に与える悪影響も懸念しているわけです。
 実はこういう外部要因から起こる金相場の上昇だけでなく、金自体を継続的に買い続けていた主体があったことも知っておく必要があります。金の国際調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシルによると、2019年1−3月期世界の金需要は前年比で7%増えたということです。これは普通の投資家が金を購入したからではありません。
 世界の中央銀行が金の買い付けを行っているからです。この2019年1−3月期、世界の一部の中央銀行は積極的に金投資を行いました。その量は145.5トン、これは2013年以来の高水準です。最も購入量が大きかったのはロシアで、55.3トンの金を購入しました。中国やインドも購入しています。さらにエクアドルやカタール、コロンビアなど新興国の中央銀行も積極的に金を購入しているのです。ロシアなどでは米国と対立状態ですからドルを保有して米国債を購入するより、金を購入するという選択を行ったように思えます。また中国の金需要をみると昨年秋から急増しているようで、香港経由も多く、米中貿易戦争が佳境となる中で、資本逃避的に金への需要が起こってきた可能性もあると感じます。インドは元々歴史的に金の人気は高く、継続的な買い付けが続いています。

 一方、日本の投資家は少し違った投資スタイルです。金地金大手の田中貴金属によると、ここで金相場が上昇してきたことで、金売却を行う投資家が増えているということです。6月第1週の金買取り実績は5月最終週に比べて1.8倍に増えたということです。日本の投資家の場合、金価格が1グラム5000円というラインがひとつ節目のようで、日本の投資家はこの水準に金相場の天井感を感じているようで、ここに近づくと投資家の売却が増えてくるということです。
 いずれにしても「先行きが見えない」と世界中のほとんどの人が感じていることでしょう。米中の貿易戦争の行方ははっきりしませんし、当然世界の経済の先行きも不透明です。中国をはじめ新興国の借金は膨大な額に達していて大きな懸念となっています。また米国とイランの軍事衝突の危険性は増しています。また世界的な異常気象も年々激しくなる一方です。あまり話題になりませんが、異常気象からトウモロコシの作付けが大きく落ち込んで値段がじわじわ上がり続けています。2011年に起こった小麦の世界的な高騰による<アラブの春>のような混乱が生じないとも言えません。かような中、投資家の多くに金投資という選択肢が盛り上がってきたということです。今回金はさらに人気化してある程度の相場が出ると思われます。
 こうみると、「株や国債などの投資から金へとの流れ」と感じるかもしれませんが、実はそうでもありません。現在米国株はS&Pは史上最高値、NYダウももう少しで史上最高値です。ブラジルやインドの株価も史上最高値です。一方、国債にも資金が殺到、米国債は昨年10月の3.2%から2%割れという大人気です。日本国債は人気沸騰でマイナス金利にまで買われています。要するに株も国債など債券も人気、金相場もビットコインまでも人気です。
 かような状況では普通金利は引き下げません。逆に引き上げるものです。今まで株が最高値、国債など債券も最高値近くで金利引き下げ政策など行ってきたことはありません。かように現在、世界中で資金がジャブジャブ状態なのです。外部環境が如何に厳しくとも、資金の行き場がないのです。そしてこの状態でさらに資金供給が拡大しそうなのです。外部環境をみれば不透明感ばかりで投資には二の足を踏むことでしょう。しかしながらこんな状況でどの資産も最高値に達している現状を見逃してはなりません。どの相場も強いのです。世界中にばらまかれた膨大な資金が唸りを上げていることを忘れてはいけません。一般的にあらゆる相場の暴落ばかり恐れているようですが、その恐れとは逆にバブル崩壊どころかこれから壮大なバブルが始まる可能性が十分あるのです。金相場が大きく上がってこれから有望かもしれません。そして株も国債も大きく買われ続けていて、どの資産も頑強な動きを続けていることを意識する必要があります。日本株は一番出遅れていて、全く人気がありませんが要注目です。先行きは不透明、全く見えません。しかし弱気になりすぎるのは危険です。

19/12

オリンピックイヤー

19/11

欧州に忍び寄る危機

19/10

ペンス演説

19/09

先進国社会の病理

19/08

新刊『アメリカが韓国経済をぶっ壊す!』(仮題)まえがき

19/07

ここまできた顔認証技術

19/06

動き出した金相場

19/05

ドローンの脅威

19/04

株式投資に目を向けよう

19/03

現代金融理論(MMT)

19/02

米国を襲う<反資本主義>の波

19/01

ユヴァル・ハラリ氏の警告


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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/

Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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