“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2021.07
中国 共産主義へ里帰り?

「資本に乗っ取られていた教育セクターを見直す!」
 中国政府は小中学生に対する学習塾に対して、驚愕の規制を発表しました。なんと「学習塾は非営利にしなければならない」ということで、「金銭的な儲けを目指して学習塾を開くことはまかりならん」と言うのです。
 中国政府は学習塾設立について、これまでの届出制を廃止、今後は小中学生向けの学習塾は許可制とし、実質、新しい学習塾は設立できなくなったのです。
 これによって、中国の教育関連の企業の株式は軒並み大暴落、新東方教育科技集団は株価が一気に10分の1にまで下がったのです。
 他の教育関連の企業も同じような状況です。何しろ教育にまつわる営利企業は存続させない方針なのですから当然の大暴落かもしれません。

●中国政府の「隠れた意図」とは?
 中国政府は国として一気に国民の教育熱を冷まそうとしています。
「小中学生は勉強ばかりするな、宿題もたくさん出してはならない!」とし、仮に宿題を出す場合は、「宿題の目安として、小学1、2年生は書式の宿題を出してはならない、小学3年生から6年生については1日1時間程度の宿題、そして中学生については1日1時間半程度の宿題を目安として、それを超えるような宿題を出してはならない」と言うのです。
 小中学生にとっては夢のような話ではないでしょうか。代わりに「小中学生はスポーツや読書、文化活動に励め!」と言うのです。これは英断のような気がします。私も子供の頃勉強が大嫌いだったので、宿題にうんざりしていた思い出があります。小中学生の頃は多感な時期ですから、やはり友達と遊ぶことも重要であり、クラブ活動などで、体を鍛えることも大事なことと思います。
 そのようなことを国が奨励するというより、強制するのですから、中国という国は驚きです。
 日本でも現在の小中学生に対しての過剰な教育熱は問題になってきています。有名私立中学への受験のため、小学生から受験勉強に必死になる姿には、「子供の頃、こんなことでいいのだろうか」と異様さを感じます。かような必要以上の教育熱を中国では「国家の指導としてやめさせる」というのですから中国共産党の政策は大胆きわまりないように思えます。

 しかしながら一歩引いて考えてみると、勉強嫌いだった自分は、こんな政策で小中学生時代やってくれれば嬉しかったろう、と思いつつも、かようなことを国家が強制するという、中国政府の強硬な方針に違和感も感じます。
 そもそも教育熱がこれだけ激しくなったのは、社会を写しての結果です。学歴によって各々の人生に大きな差がつき、格差がひどくなっている、それが社会全体で許容できないところまできているという現実を反映しているからこそ、異様なまでの教育熱が生じてきているわけです。
 親の立場からすれば、自分の子供の将来を考えて、少しでもいい学校に入れて、将来少しでもいい職業についてもらい、苦労しないで幸せな生活を送ってほしい。そのために学歴社会である中国社会において、少しでもいい学校に入れたい、そのためには親として、お金を使ってもいい塾に通わせて、子供の将来を輝けるものにしてあげたい、と望むのは当然でしょう。
「親の心子知らず」と言いますが、親が子供に勉強しろ、とうるさくいうのも子供のことを考えて言っていることであり、その延長上として塾通いがあるわけです。
 それを国家が「そのような教育のための塾は開いてはならない」というのです。では親たちはどうやって子供たちの将来を考えてやればいいのでしょうか。

 一見するともっともな政策にもみえる「異様な教育熱を冷ませ」という中国政府の驚愕の方針ですが、実はその裏には中国国内で生じている多くの矛盾を是正させるための「隠れた意図」が透けてみえてくるのです。

 「隠れた意図」とは何でしょうか?
 それは現在の中国社会にとって、「高学歴の人材は多数いらない」という冷然とした現実から生じています。ですから中国政府は「みんなして大学なんか行くな!」と言いたいのです。
 これは中国だけではないかもしれません、現在の社会は一部のエリートだけが存在して、他の人たちはいわば単純労働だけでもいい、という一面があるわけです。例えば現在世界を席巻しているGAFA、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンなど巨大企業において、多くの労働者は必要とされていません。一部の極めて優秀な人材だけがこれら企業では必要であり、彼らだけに高収入を与えて、新しい革新的な知恵を創造して貰えば、GAFAは企業として十分なのです。ですからGAFAは巨大な利益を上げ続けていますが、従業員の数はその規模や利益率から考えれば極めて少数ということです。現在の世界の現実は<スーパースター経済>と言われ、勝った者だけが全てを奪い取る構図となっています。

 多くの産業において、究極的にナンバー1しか生き残れません。結果、社会全体として一部のエリートだけが高収入を得る構図となりつつあるわけです。コロナの波はかような格差をさらに広げることとなりました。
 一部のエリートたちは自宅でテレワークをして、十分仕事の上でも成果を出せるのですが、反面、単純作業しかできない、スキルのない労働者は、人と直接接する対面での仕事しかなく、コロナで仕事ができなくなりました。今後、コロナ後の経済の回復時でも、その回復はいわゆるK字型であり、経済の回復とともに高収入が期待される一部のエリートたちと、一方でスキルがなく、対面でしかできない低賃金の仕事という二極化の構造は止まらないわけです。
 これは人においても国においても起こっていることです。これは今の世界の深刻な問題で、世界全体を覆う格差拡大の加速というどうしようもない時代の波なのです。

 そこで中国政府は、この現実を受け入れる方法を考えました。
「多くの人を大学に行かせて高学歴社会を作り出す」よりは、「単純労働とか工場で働く人材こそ、劇的に増やして行かなければならない」というわけです。
 実際、中国における異様なまでの高学歴への期待の高まりによって、大学卒ばかり増え、彼らに与える仕事がないのです。
 一方で中国では極端な人材不足が生じてきています。足りない人材は製造業で働く工場労働者や、介護を担う介護職員、さらに家政婦などです。こういった単純作業を行う人材こそ早急に必要となっているわけで、中国全体としてみれば大学卒などもういらないわけです。ですから中国政府は何としても国民の教育熱を冷まし、国民の大多数を低学歴に持っていきたいのです。そうしないと単純労働者が激減して社会構造がいびつになり、ついには全体がもたなくなるという危機感があるわけです。エリートは共産党員の一部だけで十分であり、あとは賃金の低い簡単な単純な仕事をやっていればいい、というわけで、まさに中国政府には「隠れた意図」があるわけです。

 しかしかような厳しい現実と「隠れた意図」を公にするわけにはいきません。それで考え出されたのが学歴に対しての格差を表面上無くしていくという政策です。表面上、学歴についての差を無くしていくのです。
 どういうことかと言うと、職業専門学校卒と大学卒を同じ資格、価値とする、という新しい方針です。日本で言うと専門学校卒業と大学卒業とを同じ土俵としてもらい、就職やその後の昇進において差をつけてはならないということです。
 こうなれば専門学校卒業でも大学卒業と社会的な差がなくなるので、多くの学生たちが難しい大学への勉強など諦めて、職業学校に行くようになり、そして中国政府として決してこれらの差をつけることを許さないという行政指導を行って、実質的に賃金や昇進で差を無くすというわけです。こうすれば工場労働者も大学卒と変わらないわけですから、多くの学生が不要な勉強などせずに、素直に単純労働についてもらえるというわけです。

●中国がいま、向かっている方向は?
 これこそ「共産主義」であり、学歴で人を差別しない、共に平等に扱うというわけです。実際、中国政府としても早めに異様な教育熱を冷まさせて、社会全体に単純労働者を供給してもらわないと、極端な人手不足となり、社会が立ち行かなくなる可能性があると感じているのでしょう。
 習近平の目指す「中国の特色ある社会主義」において、格差の是正はどうしても必要なことです。こうして中国では教育行政を抜本的に変えようというのです。中国では子供のころから一生懸命勉強することなどなく、皆が自分の器量にあった仕事を行うこと、そしてそれらの仕事に差をつけないこと、単純労働も喜んで行うこと、など社会安定のために新しい政策を打ち出してきたというわけです。
 毛沢東時代、文化大革命によって知識人が多く粛清されました。スターリンの恐怖政治においても多くの知識人が粛清されました。もっとも酷かったカンボジアのポルポト政権では少しでも教育のある者は皆殺されました。黙って言うことを聞く人民だけが優遇されたのです。
 中国共産党創立100年の記念式典において、習近平主席は毛沢東と同じく人民服をまとってひな壇に登場しました。まさに中国はかつての毛沢東時代のように、「皆貧しく平等に」との夢のような、そして粛清と恐怖政治の時代に戻ろうとしているかのようです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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