ヤスのちょっとスピリチュアルな世界情勢予測
このページは、社会分析アナリストで著述家のヤス先生こと高島康司さんによるコラムページです。
アメリカ在住経験もあることから、アメリカ文化を知り、英語を自由に使いこなせるのが強みでもあるヤス先生は、世界中の情報を積極的に収集し、バランスのとれた分析、予測をされています。
スピリチュアルなことも上手く取り入れる柔軟な感性で、ヤス先生が混迷する今後の日本、そして世界の情勢を予測していきます。
イラン戦争は新しい段階に移行しつつある。まず、いま何が起こっているのかを整理する。
イラン・リアルは1ドル=200万リアルを突破し、通貨は事実上崩壊した状況にある。イランの議会議長自身が「我々は飢えている。生き延びることはできない」と認めるほど、イラン経済は追い詰められているようだ。これに対しイランは全世界に向けて、「アメリカの経済戦争に加わる国は、いかなる国であれ、戦争行為を行ったものとみなす」と警告した。そうなればペルシャ湾から一滴の原油も出荷されなくなる、というのだ。
こうした状況にもかかわたず、イランは政治的にも軍事的にも持ちこたえている。すでにイラン戦争は始まってからほぼ6か月になるが、イランは湾岸エリアでの影響力をむしろ強めつつある。イランはアメリカに降伏する可能性は非常に低い。
この膠着状態を打破するために、スコット・ベッセント米財務長官が発動したのが「経済的追放作戦」である。今後もイランの金融動脈としての役割を果たし続ける国は、イランと同様に孤立し、米ドルシステムから締め出される。トランプ大統領は自ら各国の首脳に電話をかけ、イランとの関係を断つよう要求している。要するにアメリカは世界各国に対して、「新たなイラン制裁に加わるか、さもなくばドルシステムから出て行け」と踏み絵を迫っているのである。
●アメリカ自身も追い詰められている
だが、注意深く見ると、この作戦は圧倒的な強者が弱者を叩いているという単純な構図ではない。むしろアメリカ自身が深刻な弱みを抱えている。
アメリカの原油備蓄量は、いまや41日分にまで減少し、50年ぶりの低水準となっている。戦略石油備蓄(SPR)は、補充される速度を上回るペースで消費され続けている。ホルムズ海峡は依然として封鎖されたままだ。つまりアメリカは、半世紀で最も逼迫した石油供給状況の中で、この金融戦争を仕掛けているのである。
しかも、この6か月に及ぶイランとの戦争を経て、アメリカはペルシャ湾岸地域の15か所の基地へのアクセス権を永久に失い、約800人の米軍将兵が死傷したとされる。国防総省は損傷した基地について「以前の状態通りに再建することさえできないかもしれない」と述べている。これは計画的な兵力削減ではない。率直に言えば、「戦争に負ける」という姿にほかならない。
一方でイランは、ファールス州南部に数百億ドル規模の巨大な新ガス田を発見したと発表し、ホルムズ海峡への統制をすでに強化している。サウジアラビア、トルコ、パキスタンが結んだ「メッカ防衛協定」には、いまやイラン自身が参加を招待されているという。中東の勢力図は、アメリカとイスラエルにとって決して有利とはいえない方向に動いている。
現状はまさに、双方が実害を被る「チキンレース」である。残された疑問は、どちらが先に大きな打撃を受け、どちらがより長く持ちこたえるか、ということになる。
しかも、事態は分単位で緊迫している。イラン外務省は「アメリカとの協力には代償が伴う」と反論し、事態の激化は48時間以内に起こり得ると警告した。イランはまた、パキスタンを通じて伝えられたトランプ大統領支持の最新の和平案も拒否している。
一方でトランプ大統領の足元は、決して盤石ではない。原油価格は急騰し、中間選挙が目前に迫っている。ガソリン価格の高騰は、アメリカの有権者が最も敏感に反応する政治的争点である。つい先ごろまで「石油は順調に流れている」と語っていたトランプ大統領が、今度はパキスタンに対して、イランとの非公式な連絡ルートを維持するよう求めはじめた。これは、強気の「経済Dデイ(イランを屈服させる最終作戦)」の裏側で、政権がすでに出口を探しはじめていることの証左でもある。強者を装いながら、双方とも内心では相手の一手に怯えている。それが、この対決の実相である。
●日本経済への直撃、石油ショックの再来か
では、この対立は日本にどう跳ね返ってくるのか。ここが読者にとって最も切実な問題であろう。
最大のリスクは、言うまでもなくホルムズ海峡である。ここは世界の海上輸送原油の約2割、日量にして2000万バレル近くが通過する、地球で最も重要なエネルギーの動脈だ。そして日本にとっては死活的な意味を持つ。日本は原油のほぼ全量を輸入に頼っており、そのうち中東依存度は9割を超えていた。もちろんイラン戦争以後、日本はアメリカからの石油輸入の割合を増やし、中東への依存はいまは4割程度になっている。しかし、アメリカの石油戦略備蓄が激減していることから、日本への輸出が大幅に減少、ないしは停止される可能性もある。するとまた日本は、石油を中東に依存せざるを得ない状況になるかもしれない。
イランが警告どおりホルムズ海峡を完全に締め上げ、あるいは封鎖した場合、来月にも何が起こるか。原油価格の急騰、ガソリン不足、そして1970年代のオイルショックのような光景、ガソリンスタンドの長蛇の列である。実際、専門家の中には、封鎖が現実になれば原油価格は1バレル150ドル、あるいは200ドルを超える水準まで跳ね上がると見る者もいる。
これは、イラン戦争が始まりホルムズ海峡が部分的に閉鎖されとすぐに始まるとされたシナリオだったが、イランによる通行料徴収、米海軍護衛によるオマーン側の南航路からのタンカー通過などによって最低限の石油輸出ルートが確保されたことから、最悪のシナリオには至らなかった。しかし、トランプ政権の全面的な経済制裁への対抗として、イランがオマーン寄りの南航路を含め、ホルムズ海峡の全面閉鎖に踏み切った場合、はからずも最悪のシナリオが実現してしまう可能性もある。
●日本の二重の弱点
だが、ここで注意しなければならないことは、日本には二重の弱点があることだ。
いま日本は歴史的な円安の只中にある。原油はドル建てで取引されるため、円安と原油高が同時に襲えば、日本の輸入コストは二重に膨れ上がる。ガソリン、電気、ガスといったエネルギー価格はもちろん、あらゆる物流コストが上昇し、食料品から日用品まで、ほぼすべての物価が押し上げられる。ようやく賃上げの動きが出てきた矢先に、実質賃金は再び目減りし、家計は一気に苦しくなるだろう。
忘れてはならないのは、影響が原油だけにとどまらないことだ。日本は発電と都市ガスの要である液化天然ガス(LNG)も、中東カタールなどからホルムズ海峡を経由して大量に輸入している。海峡が完全に封鎖されれば、電力とガスの供給そのものが揺らぐ。原発の再稼働が限られたままの日本にとって、これは単なる価格の問題ではなく、エネルギー安全保障の根幹に関わる問題である。製造業もまた無傷ではいられない。中東からの原油・ガスを前提に組み立てられた日本企業のサプライチェーンは、輸送コストの急騰と供給の不安定化に直撃され、鉄鋼、化学、電力多消費産業から順に採算が悪化していくだろう。
イラン戦争の開始直後から、このようになる可能性は指摘されてきた。しかし、すでに上に書いた要因でホルムズ海峡の閉鎖は部分的なものに止まっていたために、この最悪な状況は回避されてきた。しかし、トランプ政権の全面的な経済制裁に対する報復として、イランがホルムズ海峡を全面封鎖すると、最悪な事態も覚悟する必要があるだろう。
さらに深刻なのは、エネルギー高がもたらすスタグフレーションの危険である。物価は上がるのに、景気は冷え込む。企業はコスト増を吸収しきれず、収益は圧迫され、投資や雇用は縮む。
また、金融政策も手詰まりになる。インフレを抑えようと金利を上げれば景気を抑制し、景気を支えようと金利を低く保てばインフレと円安がさらに進む。日本銀行は、きわめて難しい舵取りを迫られることになる。
そして、これは日本だけの話ではない。世界最大の原油輸入国である中国、ようやくインフレを鎮めつつあった欧米も、揃ってエネルギー高の逆風に晒される。世界同時のインフレ再燃と景気後退、その引き金が、これまで最悪な事態が辛うじて回避されてきたホルムズ海峡完全閉鎖で実現されてしまうかもしれない。
●ドルシステムの武器化という「もう一つの爆弾」
しかし、日本にとって本当に恐ろしいのは、じつは石油だけではない。ベッセント財務長官の「ドルシステムから締め出す」という脅しそのものが、世界経済に長期的な時限爆弾を仕掛けている。
戦後の世界経済は、ドルが基軸通貨として全世界の貿易と決済を支えるという構造の上に成り立ってきた。日本の莫大な外貨準備も、輸出企業の決済も、そのほとんどがドルを前提としている。そのドルへのアクセスを、アメリカが政治的な踏み絵の道具として振りかざしはじめた。これは、ドルという通貨に対する世界の信認そのものを傷つける行為である。
各国は、こう考えるようになるだろう。「いつ自分もドルシステムから追放されるか分からないのなら、ドルへの依存を減らしておかなければ危険だ」と。すでにロシアへの制裁が、中国・ロシア・インドを中心とした「脱ドル」の動きを加速させたことは記憶に新しい。ロシアの外貨準備が一夜にして凍結されるのを目の当たりにした各国は、ドル建て資産の安全神話が幻想であったことを学んだ。その結果、BRICS諸国は貿易の自国通貨建て決済を広げ、中国は人民元決済網を拡大し、各国の中央銀行は競うように金を買い増している。
今回のイラン制裁で、アメリカが「ドルからの追放」をあからさまな脅しの道具として全世界に突きつけたことは、この流れをさらに決定的に後押しするだろう。
ここに、トランプ自身が気づいていない巨大な自己矛盾がある。
制裁という短期の武器を振り回すたびに、アメリカは長期的に自らの通貨覇権という土台を削っているのだ。これまでアメリカの歴代政権は、ドルを政治的な武器として使ってきた。各国はこれに辟易している。
ドルの力の源泉は、世界中がドルを信頼して使い続けるという一点にある。今回のイラン制裁でドルの信頼を政治的な武器として乱用すれば、世界はドルから静かに離れていく。日本は、その揺らぐ土台の上に、1兆ドルを超える外貨準備と貿易決済のほぼすべてを乗せている。これは、石油ショックのように供給が戻れば癒える傷とは異なる、構造的で、後戻りのきかない深いリスクである。
●大規模制裁は戦争に勝てない、ペイプ教授の警告
では、そもそもこの「経済Dデイ」は、アメリカが狙うようにイランを降伏させ、戦争を終わらせることができるのか。ここで、戦時封鎖と経済制裁を30年にわたって研究してきたシカゴ大学のロバート・ペイプ教授の分析が、きわめて重い警告を発している。
彼の結論は残酷なほど明快だ。1918年以降、最大限の経済的圧力だけで主要な戦争に勝利した例は一つもない、というのである。
歴史を振り返れば、その通りだ。第一次世界大戦でイギリスがドイツに課した「飢餓封鎖」は、76万人もの民間人を餓死させながら、ドイツを降伏させることはできなかった。ドイツが倒れたのは、4年間の消耗戦と連合軍の最終攻勢の後である。1990年から13年に及んだイラクへの制裁は、経済を半減させ、50万人ともいわれる子供を死なせたが、サダム・フセイン政権を倒したのは、結局2003年の15万人の地上部隊による侵攻だった。2018年以降のイランへの「最大限の圧力」も、ウラン濃縮を止めることはできなかった。ウクライナ侵攻後のロシアも、西側の制裁を受けながら戦争を続けている。
なぜ、これほど徹底して失敗するのか。ペイプ教授は三つの理由を挙げる。
第一に、政権にとって敗北が存亡の危機を意味する場合、指導者はどれほどの経済的苦痛にも耐える。第二に、民間人を苦しめる制裁は、国民を政府に反抗させるどころか、国際社会への反感を生み、国民を政権のもとに結束させてしまう。第三に、圧力を受けた政府は、希少な資源の分配を握る「生存経済」を築き、国民を国家に依存させて統制を強める。外からの経済的苦痛は、政治的な降伏とはまったく別のものなのである。
●「経済Dデイ」が招く戦争の罠
さらに恐ろしいのは、経済的な締め付けが降伏ではなく、軍事的な報復を引き起こすという「反撃の罠」である。
その最も痛切な先例が、ほかならぬ日本の歴史にある。1941年8月、アメリカは日本の資産を凍結し、全面的な石油禁輸を課して、日本の石油供給の8割を断った。追い詰められた日本の軍部は、石油備蓄が枯渇して屈服する前に動くしかないと判断し、12月7日、真珠湾への先制攻撃に踏み切った。経済戦争は侵略を抑止するどころか、地域の危機を世界大戦へと一気に転落させたのである。石油を断たれた国家が、生き残るために先制攻撃を選ぶ。この論理は、いまのイランにそのまま当てはまる。
イランの安全保障指導部は、すでに報復の準備を進めている。「近隣諸国が米国の経済作戦に加われば、ペルシャ湾とホルムズ海峡から一滴の石油も流出させない」という警告は、まさにこの先制報復の論理を示している。
そしてペイプ教授は、さらに深刻なパラドックスを指摘する。イランは、これまで日量10万〜30万バレルという極端な低水準の石油輸出にも、62%を超えるインフレにも耐えて崩壊しなかった。つまり経済・金融制裁だけでは、イランは降伏しない。ならばアメリカは、イランの密輸ルートや陸上国境を物理的に封じ込めるしかなくなる。
だが、米墨国境(※アメリカとメキシコの国境)の約2倍にあたる3600マイルのイランの陸上国境を封鎖するには、数万人規模の地上部隊が必要になる。経済的圧力は、いつしか地上戦力の論理へと横滑りしていく。そしてイランは、アメリカが経済の動脈を物理的に封じる方向へ動いたと見た瞬間、それが不可逆になる前に、湾岸の石油インフラへの先制攻撃に踏み切るだろう。
結論は皮肉である。「経済Dデイ」は、まさにそれが防ごうとしていた戦争のエスカレーションを、自ら招き寄せかねないのだ。
●これは経済危機の引き金になるか、筆者の見立て
以上を踏まえて、最後に筆者の見立てを述べる。
この対立が、世界経済危機の引き金になる可能性は、決して小さくないと私は見る。だが、その引き金は二段構えで理解しなければならない。
第一の引き金は、言うまでもなくホルムズ海峡の完全封鎖による石油ショックである。これが現実になれば、原油高と円安のダブルパンチで、日本は真っ先に、そして最も深く傷つく。世界的にもインフレが再燃し、各国の中央銀行は、ようやく利下げに転じようとしていた金融政策の方向を再び逆転させざるを得ない。1970年代のオイルショックが世界を長い停滞に突き落としたことを思い出せば、その破壊力は明らかだ。
だが、より本質的で見えにくい第二の引き金は、ドルシステムの武器化がもたらす通貨秩序の亀裂である。石油ショックは、たとえ深刻でも、いずれ供給が回復すれば癒える傷だ。しかし、ドルへの信認が損なわれる流れは、一度動き出せば簡単には止まらない。アメリカは、目先のイランを屈服させるために、自らの覇権の土台である基軸通貨の信用を切り売りしている。その代償は、数年、あるいは十数年をかけて、世界経済の地殻変動として現れてくるだろう。
そしてペイプ教授の分析が正しければ、この「経済Dデイ」は当初の目的を達成できず、むしろ軍事的エスカレーションへと引きずられていく公算が大きい。経済制裁が地上戦に転化し、イランが先制報復に動けば、ホルムズ海峡の完全封鎖は「もし」の話ではなく「現実」となる。つまり第二の引き金が引かれる過程で、第一の引き金もまた引かれてしまう。二つの爆弾は、別々に存在しているのではなく、連鎖しているのである。
私たちが目撃しているのは、たんなる中東の一戦線ではない。半世紀で最も逼迫した石油市場と、戦後世界を支えてきたドル体制という、二つの巨大な断層の上で行われている、きわめて危ういチキンレースである。日本は、そのどちらの断層の上にも、無防備に立っている。この対立の行方から、私たちは決して目を離してはならない。エネルギーの調達先の多様化、そして過度なドル依存の見直しは、もはや遠い外交の問題ではなく、私たち一人ひとりの暮らしに直結した、差し迫った課題なのである。
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社会分析アナリスト、著述家、コンサルタント。
異言語コミュニケーションのセミナーを主宰。ビジネス書、ならびに語学書を多数発表。実践的英語力が身につく書籍として好評を得ている。現在ブログ「ヤスの備忘録 歴史と予知、哲学のあいだ」を運営。さまざまなシンクタンクの予測情報のみならず、予言などのイレギュラーな方法などにも注目し、社会変動のタイムスケジュールを解析。その分析力は他に類を見ない。
著書は、『「支配−被支配の従来型経済システム」の完全放棄で 日本はこう変わる』(2011年1月 ヒカルランド刊)、『コルマンインデックス後 私たちの運命を決める 近未来サイクル』
(2012年2月 徳間書店刊)、『日本、残された方向と選択』
(2013年3月 ヴォイス刊)他多数。
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