“超プロ”K氏の金融講座

このページは、船井幸雄が当サイトの『船井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介している経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2014.03
ウクライナを巡る暗闘

 <反政府デモ、首都掌握>
 2月22日、ウクライナ情勢は急転直下、大統領のヤヌコビッチは首都のキエフを脱出、反政府デモ隊の野党勢力が政府ビルや内務省、並びに最高会議(国会)など政府の主要機関をすべて掌握したのです。
 命からがら脱出したヤヌコビッチ大統領はテレビインタビューで野党勢力について「これはクーデターだ、彼らは野党ではなく悪党だ、私は辞めない」と叫んだものの、首都を逃げ出した大統領をもはや誰も支持しなかったのです。

 ウクライナ軍は「国内紛争に巻き込まれることはない」と声明を発表、中立を守るとして実質、ヤヌコビッチ大統領の管理下にないことを宣言しました。また警察官の多くは反政府デモの側に寝返ったのでした。この日を境にウクライナの大勢は決定、反政府デモを指揮した欧州側の野党勢力の完全な勝利でした。

 2月27日、今度はロシア系住民が多数を占めるウクライナ南部、親ロシアのクリミア半島では議会や政府庁舎が突如現れた武装集団によって相次いで占拠され、ロシア国旗を掲げました。並びにクリミアの空港は彼らによってあっという間に占拠されました。

 クリミアの住民はこの動きを歓迎、こちら側はキエフの状況とは逆に、ロシア支持を表明、自分たちはキエフを占拠した反政府側の野党勢力には従わないことを公言して、あっという間にクリミア共和国全土を支配下に置いたのです。
 劇的な展開はオリンピック期間中に起こったのです。
 2月24日がオリンピックの閉会式でしたから、まさに平和の祭典であるオリンピック期間中に電光石火のごとく歴史的な政変が起こったのでした。
 反政府デモ側が一気に首都を掌握したスピードも見事でしたが、今度はそれを待っていたかのようにクリミア共和国全土を抑えたロシア系の武装集団のスピードも驚くべき手際の良さでした。お互いの行動の素早さは、まるで長い間に用意周到に練られた計画がタイミングを見計らって実行に移されているかのようでした。そしてまさにそれはお互いが想定していたシュミレーション通りに行動した結果だったのでしょう。ニュースをみているとあたかもドラマが自然に次々と展開されていくような歴史の醍醐味を持ったダイナミックさを感じますが、実はその裏側は目に見えない計略と争いが繰り広げられ、ロシアや米国、欧州の間のドロドロしたウクライナを巡る血なまぐさい暗闘が実行されていたのです。

●一連のウクライナを巡る情勢の裏側とは?
 時は昨年11月に遡ります。11月22日、ウクライナ政府は突如、EUとの連合協定に向けた準備作業を停止すると発表したのです。
 連合協定は自由貿易協定を柱としたEUとウクライナの協定で、ウクライナの将来的なEU入りを目指す第一歩だったのです。この協定をとん挫させてはウクライナのEU加盟は水泡に帰してしまいます。
 実はウクライナのEU接近に強引にストップをかけたかったのがロシアです。
 ロシアはベラルューシとカザフスタンと関税協定を結び、ロシアを中心とした独自の経済圏を構築しようとしていました。ウクライナは元々旧ソ連圏ですし、この関税協定もウクライナが参加しなければ経済的な効果が激減します。関税協定は旧ソ連圏の統一と復活を目指すプーチン大統領の重要な戦略でした。
 プーチン大統領は、ウクライナのヤヌコビッチ大統領に圧力をかけ、ロシア側につくことを強制、EUに近づく連合協定作業の中止を計らせ、それを決定させたのでした。これに多くのウクライナ国民が反発、やがて大規模なデモに発展していったのでした。

 ウクライナを巡る欧米側とロシア側の綱引きはソビエト連邦崩壊後から続いていました。
 ウクライナにとってEUとの<連合協定>を選ぶか、ロシアとの<関税同盟>を選ぶかの決断はウクライナの将来を決める最も重要な事項です。
 一体、欧米側につくのか、ロシア側につくのかはウクライナにとっての分水嶺でした。
 欧米側もロシア側も、引くに引けない争いの渦中にウクライナは巻き込まれていったのです。ヤヌコビッチ政権の方針に反発した昨年11月から始まったデモはその規模が拡大、死者が出るまでにエスカレートしていきました。一方でヤヌコビッチ大統領は今年になって、デモ抑え込みを狙った法案を強引に可決させるなど、反政府側と対決色を強めていったのです。

 そして両者の争いが過熱する中で、オリンピックが開かれる日が来ようとしていました。
 オリンピックという世界的な一大イベントの傘に隠れることによって、実は事を起こすには絶好のタイミングが訪れたのです。
 表面上は同性愛者に対するロシアの方針に抗議するという建前でオリンピック開会式の参加を見送った欧米の首脳達でしたが、実はウクライナでの駆け引きは水面下でじっくり練られていたことでしょう。ウクライナを巡って火花を散らしていた欧米首脳とロシア大統領は、ソチでにこやかに談笑することなどできなかったのです。
 オリンピック中、ウクライナで拡大していったデモですが、実は意図的に拡大させていた可能性が高いでしょう。そしてデモをさらに激しく、究極的にオリンピック期間中にヤヌコビッチ政権から、政権を血をもっても奪い取る計画が秘密裏になされていた可能性があります。
 徹底的にデモを拡大させて首都を奪い取るのはオリンピック期間中でなくてはなりません。オリンピックを過ぎれば、ヤヌコビッチ政権側も裏で政権を操るロシア側も、世界の世論を気にしないで武力をもって強引にデモを弾圧してくる可能性もあります。

 いくらロシアのプーチン大統領がタカ派でも、オリンピック期間中に大規模な流血の惨事が起こるほどの強引なデモ弾圧ができるはずがありません。自らがホスト国のオリンピックを台無しにするわけにはいかないのです。
 こう考えると、反政府デモ、欧米側の野党勢力にとっては、デモによる混乱を利用して力づくで政権を奪い取るチャンスはオリンピック期間中しかあり得なかったのです。

 今年になってから拡大し続けたデモですが、2月7日、オリンピックが始まるとさらにエスカレート、2月18日には3人死亡、150人が負傷、一方で警察官も37人負傷という有様でした。翌19日にはデモは拡大して死者は18人となったのです。そして20日、デモ隊とヤヌコビッチ大統領側が武力行使停止で合意、いったん混乱は収まるかのように思われましたが、翌21日、デモは最大限に拡大して収集不能となり、ついに反政府側は主要施設を掌握、ヤヌコビッチ大統領は首都を脱出するに至ったのでした。
 一連の流れは自然発生的にデモが拡大していったかのような経緯に見えますが、実はオリンピックの閉会式の24日をターゲットにして限界点にまで拡大させている様が見受けられます。デモによって政権側を追い詰めるには、強権を使うことを封印されたオリンピック期間中しかなかったのです。

 一方、オリンピック中をターゲットにした欧米の意を受けた反政府デモ側の、これだけ大規模な政権転覆計画が練られていることは、ロシアのプーチン大統領にははっきりわかっていたことでしょう。
 2月7日、まさにオリンピックの開会式その日に、米国の欧州担当のヌーランド国務長官補と駐ウクライナ大使の電話会話の内容がすっぱ抜かれユーチューブに投稿されたのです。
 それは、米国が、直接ウクライナにおいてどの野党がどのような役割をするべきか指導している話で、どの人物をウクライナ政府に送り込み、どのような話し合いが行われるかまで決定している内容だったのです。
 まずはボイス オブ ロシアから全ロシア並びに全世界に向けてユーチューブは発信されました。ロシア側からウクライナにおける米国の諜報活動の一端を暴露したのです。
 元々がKGB(ソ連国家保安委員会)出身のプーチンは、諜報活動を熟知しています。
 プーチンが欧米側のオリンピックに向けたヤヌコビッチ政権の転覆計画を察知できないはずはありません。
 2月7日のユーチューブへの投稿は、米国のウクライナへの裏での働きかけを白日の目に晒すことによって、米国側の陰謀を世界に見せつけることが主眼だったと思われます。
 一方で、プーチンとしては、ヤヌコビッチ政権が崩壊した事態にもしっかり備えておいたものと思われます。それがクリミアへの秘密部隊の展開でした。
 クリミアは元々ロシアの領土であり、地中海に出る不凍港の軍港を有しています。ロシアにとっては、戦略上死活的な重要拠点です。ロシアとしてもウクライナで何が起こっても、このクリミアだけは死守する必要がありました。

 欧米側がデモを拡大させて政権転覆を目指すならそれに対応すると共に、もしもの時に備えてクリミアの奪取だけは電光石火のごとく成し遂げなくてはなりません。ロシアという国家の浮沈を賭けた、ロシアの国益を守るギリギリの決断がなされ、クリミアに秘密部隊が展開されていたものと思われます。

●凄まじい欧米側とロシア側の暗闘、そして何も知らない日本……
 ソチオリンピックに西側の首脳としては安倍首相だけが出席していたのが印象的でした。
 そしてそれは、日本だけが国際政治の裏での暗闘を知らなかったことの証左でもあったのです。
 ロシアに亡命したスノーデンの暴露によって、ドイツのメルケル首相をはじめ、米国政府が各国首脳の盗聴を行っていることも明らかにされました。日本の青森の三沢基地には巨大なドームの中に隠れて特大のパラボナアンテナがいくつも収まっています。通信傍受システムの<エシュロン>です。ここから日本の全ての通信は傍受されています。

 プーチンは米国の力と恐ろしさをいやというほど知っています。そして表には出ない裏での暗闘も大いに意識してきたことでしょう。ロシアは大国ですが、経済的には欧米には全く太刀打ちできません。またソ連の時代とは違って今のロシアは金融的にも欧米の資本に牛耳られる支配下に置かれているのが実情です。
 1968年、当時のソ連がチェコに軍事侵攻した時(プラハの春として知られる)に欧米諸国の株価は暴落しましたが、ソ連は無傷でした。ソ連には当時株式市場などなかったからです。ところが今回、ロシアの通貨も株価も大暴落です。米国のニューヨークダウはびくともしませんが、ロシアのRTSの株価指数(ドル換算のロシア株指数)は昨年10月22日の1521ポイントから今年3月14日には1016ポイントまで5割も暴落させられたのです。日経平均で言えば、15,000円の株価が10,000円になったのと同じです。それほどの株の暴落が短期で起こっているのです。

 現在でもロシアからの資本逃避は断続的に続いています。表面上は見えませんがヘッジファンドを使った攻撃で、ロシアは金融的な窮地に追い込まれつつあるのが実情です。
 最後は冷戦時代の産物である軍事力の行使によってのみ、ロシアは自らの国益である不凍港を死守しました。さすがに欧米側も軍事力に訴えることはできません。しかし欧米側はウクライナの大半は支配下に入れました。一見、強引にクリミアを奪い取ったロシアですが、前途は多難です。金融力経済力で欧米側に劣るロシアの苦難はこれからさらに増していくことでしょう。
 一方で、ロシアに併合されたクリミアは、時間の経過と共にロシア化が進み、クリミアがロシア領ということが既成事実化されていくことでしょう。
 表に見えるニュースとは別に、今回のウクライナを巡る欧米側とロシア側の暗闘は凄まじいものだったと思われます。KGB出身のプーチンだからこそできたクリミアの奪取劇でしたが、欧米に押されっぱなしのかつての大国の意地も感じさせます。GDPでいえば米国の1500兆円、ユーロ圏の1700兆円、日本の500兆円に比べてロシアはわずか200兆円にしか過ぎません。
 旧来依然とした軍事力を使って死守したクリミアですが、今後ロシアは、欧米による目には見えない金融的な並びに経済的な圧力によって苦難に追い込まれていくことでしょう。

14/12

アベノミクス

14/11

バンザイノミクス

14/10

新刊『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(舩井勝仁との共著)まえがきより(※目次、舩井勝仁のあとがきも含む)

14/09

加速する物価高

14/08

新冷戦という脅威

14/07

新刊『株は再び急騰、国債は暴落へ』まえがき より

14/06

深刻化する人手不足

14/05

何故ドルなのか

14/04

株高は終わったのか?

14/03

ウクライナを巡る暗闘

14/02

中国ショック

14/01

ハッピー倒産ラッシュ


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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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