“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2014.12
アベノミクス

 「アベノミクスの成功を確かなものとしていくことが最大の課題だ。更に進化させていきたい。」
 選挙で大勝して第3次安倍内閣を発足させた安倍首相は力強く述べました。安倍首相によれば「強い経済があってはじめて社会保証、教育の財源を手に入れ、強い外交、安保を展開できる」わけで、今まで通り「経済最優先で政策を遂行する」と国民に宣言しているわけです。

 振り返ってみてアベノミクスで何が変わったのでしょうか? 
 日本全土で若干景気の回復モードが広がっていることは疑いないでしょう。給料も人によると思いますが、若干上がった人の方が多いかもしれません。しかしそれらの事象よりも、アベノミクスを考えた場合はっきりと根本的に変わったのは資本市場です。
 安倍政権ができて日経平均株価は倍になり、円相場は80円から120円へと50%下落したのです。人によって利益を得た方と不利益を得た方もいるでしょう。しかし厳然たる事実として株が倍化し、円が大きく下がった事実は強烈です。まさにこれこそがアベノミクスの成果であり、この動きを更に強めていくという決意が安倍首相の宣言と思っていいでしょう。
 安倍政権は投資家に優しい、と言われます。安倍政権は株価連動内閣と揶揄されるほど、株価の動向を気にかけ、株価を上げるためにまい進しているように思えます。株を保有していない人にとっては関係ない、と思えるかもしれませんが、株価は基本的に経済の鏡です。株価を気にして自らの経済運営の評価を感じ取る姿勢は政権として当然のことでしょう。むしろ今までの歴代の日本の政権があまりに株価を軽視してきたと言えるかもしれません。日本はバブル崩壊後20年以上にわたるデフレに苦しんできたわけですが、その姿を株価ははっきりと映しだしていました。かつては世界一の時価総額となり世界中の全ての富を吸い上げるような圧倒的な高株価に日本中は沸いていたのです。当時をバブルと振り返るのは簡単ですが、あまりに急激なバブルの発生と崩壊は日本を大きく変えました。

 バブル崩壊の激震を甘く見て有効な手を打たなかった歴代の政権が日本の不況を長引かせたという事実は重いと言えるでしょう。
 1990年日本でバブルが崩壊して株価が暴落し、その後長い不況に陥ったことは世界の反面教師として記録されてきたのです。ですからリーマンショックで米国株が未曽有の暴落をした後は、米国当局はあると有り余る資金を供給してドルを限りなく印刷して株式市場を回復させ、経済危機を克服しようとしてきたのです。米国の中央銀行であるFRBは当時実質破たん、崩壊していた米国の大手金融機関に膨大な資金供給を行いました。こうして米国では史上最悪と言われたリーマンショックの危機を乗り越えたのです。マネーの限りない増刷によって経済危機を克服できたことは誰も否定しないでしょう。

●アベノミクスの要は「第一の矢」
 かように現在ではマネーを印刷できる中央銀行の力は甚大ですし、それの有効利用が目指されています。アベノミクスは第一の矢、第二の矢、第三の矢と言われますが、実質、第一の矢である未曽有の金融緩和がその政策の中心線です。
 円紙幣を限りなく印刷することによって円の価値を下げて円安に誘導させます。この結果起こった円安によって輸出関連企業を潤していきます。更に「円をもっともっと印刷するぞ」と世間にアナウンスして、世間が円の価値が減価するのではないか、と思わせることで、いわゆるインフレに対する期待を醸成して物を買うように消費を活発化させるように誘導していくわけです。人々が物を積極的に買うようになり、投資するようになれば、デフレマインドは消え去り、景気に大きな刺激が与えられるというわけです。これがアベノミクスの目指す本質的なところです。
 実際、円相場が安くなって日本株が上昇した事実をみれば、アベノミクスはある意味成功したと言えるでしょう。「この道しかない」と選挙のキャッチフレーズで述べていた安倍首相に対して与党各党とも「他の道」と提示することはできませんでした。そして選挙の大勝を経てアベノミクスは国民のお墨付けを得て更に進化していくことになるのです。
 「アベノミクス」に対して、海外では「クロダノミクス」という表現で日銀の政策の重要性だけを評価する声が高くなっています。第一の矢の思い切った金融緩和だけが効いている事実を強調しているわけです。
 日銀は大量の円を印刷して市場にある日本国債を買い占めて、結果として強引に低金利を実現して景気に刺激を与えようとしています。日銀は円を限りなく印刷することができます。極端な話国民一人一人に100万円ずつ配って、その原資を日銀が円を印刷して供給すれば、日銀は確実に日本にインフレを引き起こすことができます。これは経済用語ではヘリコプターマネーと言ってヘリコプターからお金をまく、という意味ですが、これをやればマネーが大きく流通して国民は消費に資金を使うことができます。しかしこのような節度のないことをやり続ければ、やがて止まらないインフレが発生して収集がつかなくなるというわけです。

 日本は1000兆円を超える借金がありますし、国家予算の規模は100兆円近くに上ります。しかし税収は今年度50兆円程度です。ここにきて税収が増えていますが、基本的には予算を税金では賄えず国債発行という借金に頼ってきたわけです。その新規に発行される国債のほとんどを実質日銀が買い上げているのが今の手法です。ヘリコプターマネーのように空から円紙幣をばら撒くわけではありませんが、実質的には大量に発行された国債を日銀が円紙幣を印刷して引き受けていますからやっていることは似たようなものなのです。

●「マネタイゼーション」の結果、起こった“面白い”事象とは
 「マネタイゼーション」、この言葉はお金を印刷して借金を返すという意味ですが、今の日銀の政策について多くの識者も実質マネタイゼーションであると認めています。
 このように、日銀が国債を円紙幣を印刷して限度を超えて購入していることで、日本国では面白い事象が発生してきています。
 日銀は今、毎月10兆円近い円紙幣を印刷して毎月国債を購入しています。ところが日銀が市場に出回っていた国債を買いすぎてしまって、市場に国債がなくなってきてしまいました。こうなると国債も需要と供給の関係で値段が決まるわけですから、国債の品薄状態は当然のことながら国債の値段が上がるという状態を引き起こします。
 国債の値段が上がるということは金利が安くなるということです。国債は日本国の借金ですから、まずは借金をするのに幾らの金利で貸してくれますか? というふうに、市場を開いて入札をして、投資家に問うわけです。そしてなるべく安い金利で貸してくれるところから日本国は資金を借りるわけです。
 みなさんが各銀行を回って金利の安い銀行から住宅ローンを借りようとするのと同じように、日本国も金利の安いところから借りて、金利支払いを少なくしようと試みるわけです。これは資金を借りようとする人なら当然の行為です。
 こうして日本国は国債の入札を行って安い金利を提示したところから資金を借りようとする、入札を行いました。国債もいろいろあります。国の借金ですから半年で返す、1年で返す、2年で返す、5年で返す、10年、30年で返すいろいろあります。各々6ヵ月国債、1年国債、2年国債、5年国債、10年国債、30年国債というふうに色分けされます。

 この中で今起こってきたことは、2年物国債の入札まではマイナス金利となりました。
 国は2年までの借金ですと、借金するたびに金利を支払うのではなく、金利をもらえる立場となったのです。銀行などの金融機関からすると「金利をお支払いますから、どうぞ日本国様、お金を当行から借りてください」というわけです。また10年物国債では金利は0.31%となりました。国は10年間100万円借りて金利は年間3100円です。そして2年借りるだけなら金利は払うどころかもらえるのです。
 「お金の借り手が金利を支払うどころか、金利を受け取る」

 日本国が借金しようとすると、かように異様な状態となっているわけです。日銀が円を怒涛のように印刷し続けているので、このような異様な状態が出現して誰もそれが当たり前と思うようになってきました。本来、国債の相場は景気の体温計と言われて、経済の動向を示すものです。また金利は借り手の信用度に応じて変化するものです。ところがこの日本国債の相場は、日銀が円紙幣を印刷して強引に買い付けるために、市場が歪み、市場としての機能を完全に失いました。円の価値は地に落ち、国は借金すればするほど金利がもらえるという異常事態です。全て日銀による異様な円紙幣の膨大な印刷による帰結です。
 問題はこのような異常事態が永遠に続くことはあり得ないということです。かような試みを、人類はその長い歴史の中で何度も経験してきました。お金を印刷して景気を良くするという手法は麻薬のような媚薬なのです。そしてこの麻薬は一度手を染めると決して止められないというのが今までの人類の歴史です。

●思わぬ原油安で、インフレは免れたが……
 基本的に、経済が過熱するまでは、このような異様な円印刷があっても本格的なインフレは生じてきません。また現在は、世界的な原油安が余計に物価上昇を抑える形となっています。日銀がいくら円を印刷して円がいくら安くなっても、直近の原油価格の下げの方が急激で大きく、物価が上がりづらくなっているのです。仮に世界的な原油価格が上昇していれば、アベノミクス後の50%にも上る円安によって日本ではかなりの物価高が起こっていたでしょう。それが原油安というありがたい風が吹いてきたために、物価の上昇が抑えられ、かえって再び物価安のデフレ懸念さえ浮上しています。かような環境下なので、いくら円を印刷しても、いくら日銀が常軌を逸した国債買い付けを行っても、物価上昇がまだ起きてこないので人々には全く危機感が生じてこないのです。
 投資家ジム・ロジャーズは「今の景気浮揚は、日本や米国、欧州などがお金を大量に刷ったことによる人為的なものです。一部の人達はいい思いをしているが、政府債務の大きさゆえ、いったん破たんが起きると、通常より大規模なものになる」と言います。そして将来のこの破たんを防ぐ手立ては「今のところない」として、「何をしても非常に悪い状態となるか、少しましなものになるかの違い程度でしょう」と述べています。

 またアベノミクスによる円安誘導策についても「最悪です。短期的には一部の人が恩恵を受けますが、自国通貨の価値を破壊させることで地位が上がった国はありません。この2−3年で円は対ドルで50%も安くなりました。このことが日本にとって良いはずがありません。しばらくは好景気が続くでしょうが、アベノミクスによっていずれ我々皆に大きなつけが回ってきます」と述べています。
 今年の外国人観光客は1300万人を超えて史上最高となりました。円安によって東南アジアや中国からの観光客が爆発的に増えています。一方で日本人の海外旅行は円安によるコスト高で低調なようです。これって日本人が豊かになったということでしょうか?
 日本人が貧乏になり、外国人が豊かになっているからこのような状態が起こっているのではないですか。円の価値が下がっているということは、国際的に見れば我々日本人の資産価値は確実に目減りしているのです。景気は良くなっているように感じますが、危うい土場の上に立脚していることを忘れてはなりません。ロジャーズの指摘したように自国の通貨価値を破壊させて繁栄した国など存在しないのです。

14/12

アベノミクス

14/11

バンザイノミクス

14/10

新刊『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(舩井勝仁との共著)まえがきより(※目次、舩井勝仁のあとがきも含む)

14/09

加速する物価高

14/08

新冷戦という脅威

14/07

新刊『株は再び急騰、国債は暴落へ』まえがき より

14/06

深刻化する人手不足

14/05

何故ドルなのか

14/04

株高は終わったのか?

14/03

ウクライナを巡る暗闘

14/02

中国ショック

14/01

ハッピー倒産ラッシュ


バックナンバー


暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
★(株)ASK1: http://www.ask1-jp.com/

Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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