“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2014.08
新冷戦という脅威

 ウクライナ情勢の混迷が深まっています。欧米とロシアの溝は深まるばかりで、一向に緊張緩和の兆しは見えません。
 お互い袋小路に入ったかのように制裁合戦を繰り返しています。すでに欧米とロシアの対立は1990年の冷戦終了以降、最悪の状態になりつつあります。

 第二次世界大戦後、世界は2大陣営に分断されていました。
 米国を中心とした西側陣営と旧ソ連を中心とした東側陣営にはっきりと色分けされていたのです。世界中どんな国であっても中立ということはありませんでした。必然的にどちらかの陣営に組み込まれていたのです。
 ドイツを東西に分断していたベルリンの壁が崩壊して、この長かった東西冷戦は終了しました。それはソ連邦の崩壊による東側陣営の完全な敗北という幕切れだったのです。この冷戦終了によってソ連は消え去り、旧ソ連はロシアやウクライナをはじめとする多数の国家に分断され、または多くの地域が独立することによって、現在の新しい世界地図が出来上がっています。わずか25年前の出来事です。

●新たな東西陣営の対立
 歴史の皮肉ではありますが、この崩壊した東西冷戦、ソ連と欧米諸国との対立が今度は形を変えて、ロシアと欧米諸国の対立、そしてそれがさらに拡大していって、米国や欧州、日本を中心とする西側諸国と、ロシアや中国を中心とする東側諸国との大きな対立に発展しようとしています。
 まだ始まったばかりではありますが、今回のウクライナを巡る欧米とロシアの対立はロシア側に中国までも巻き込んでの全面的な軍事的衝突を起こさない形での激しい対立、新たな<新冷戦>と呼ぶべき深刻な対立を引き起こそうとしているのです。

 かつての冷戦は資本主義陣営と共産主義陣営との争いでしたが、今度の構図はより複雑です。むしろ<反米>を旗印として中国やロシアを中心として新しい連携を作っていくという姿勢です。今まで築き上げてきた米国を中心とするドル体制の世界に大きく挑戦していく、ないしはこのドル体制に代わる新たな世界秩序を構築するという流れに発展していく可能性があります。
 ウクライナで始まった欧米とロシアの対立が、形を変えて拡大して米国を中心とした世界的なシステムや秩序を変えていく大きな流れとなり、新しい東西陣営の対立をあぶり出すようになっていきそうです。
 新しい東側の盟主は中国です。新しい世界的な秩序の中心的な通貨は中国の人民元です。
 まだ始まったばかりですが、ウクライナを巡る対立は思わぬ展開を助長させることになっていきそうです。
 中国は経済的にも軍事的にも拡大政策をとってきて、今や米国に次ぐ存在にまでなって、世界的に大きな影響力を持つに至っています。中国は東アジアでは、フィリピンやベトナムと激しく領有権を争っています。日本とも尖閣を巡って激しく対立が続いているのは周知のとおりです。その中国も米国の力に近づいてきたとはいえ、まだ経済的にも軍事的にも米国とは大きな力の差があることは明らかです。

 世界はドルの基軸体制にあり、主にドルを決済通貨として機能しています。中国の人民元もかつてよりは影響力をもちつつありますが、何しろ人民元は自由化されていませんから、世界各国としても通貨として使い勝手が悪いのです。
 しかし、仮に中国が米国に代わって世界の盟主にならんとするならば、この人民元による広域な経済圏の創出が必要となってくるわけです。世界の経済的な取引を米国が自国のドルを使って自由自在に操ってきたように、中国も人民元を世界の中心的な通貨として流通させることによって名実共に世界の覇者とならんとするわけです。

 いわば人民元が中心的な通貨となる世界は中国の最終的な目標であり、中国としては世界制覇のために着々と人民元の流通するエリアの拡大を押し進める必要があるわけです。
 日本から経済援助を受けて発展途上だった時代の中国は、決して尖閣の問題を今のような大問題にまで発展させて、日本との関係悪化を招くようなことはありませんでした。
 当時中国は<政経分離>と言って、尖閣のような政治問題を経済の問題にまで拡大影響させる道は取らなかったのです。それは中国自らの発展のためでした。国として力をつけなければ真の主張を行うこともできません。
 中国は巨大な人口と国土を持っていますから、時と共にやがて大きな力を持つことが必至と考えて、じっと目的達成のために耐え忍んできたわけです。そして、日本を凌駕する経済力を持った時点で、日本に対して気兼ねする必要はない、と結論づけて従来からの野望であった尖閣奪取に打って出てきたわけです。中国は、いわば時を待っていたわけで、タイミングがきたと思えば従来は表に出さなかった大国のエゴを強引にむき出してきたと言えるでしょう。

●利害が一致する中国とロシア
 中国の最終的な標的は日本などではなく、当然世界の覇者、米国です。米国主導の世界から中国主導の世界を作りだす必要があるのです。着々と人民元の影響力拡大を目論んでいた中国にとって、<渡りに船>のように飛び込んできたのがロシアです。ロシアは欧米諸国との深刻な対立からくる打撃を最小限に抑えたいと考えています。
 現在のロシアは、欧米との経済制裁合戦が拡大して、この争いの出口も見えない状況です。当然ロシアとしては経済、金融のパートナーとして中国を頼るに至ったわけです。
 すでに中国とは、ロシアは長期にわたる石油や天然ガスの輸出契約を締結しています。

 さらにロシアは、ブラジルやトルコなどからの輸出入も拡大させようとしていますし、イランとの関係も深めています。ロシアは、今までの欧州に依存した経済体制から180度転換を図り、中国や他のBRICs諸国、並びに中南米や中東の反米国家との関係を構築しようとしてきたのです。その戦略の中核は、中国とのあらゆる意味での関係の強化に他なりません。
 これは中国にとってはありがたいことです。ロシアという大国と共同戦線を取ることによって、中国はいよいよあの米国と対等に渡り合えるようになるのです。

 こうしてロシアと中国の思惑は一致して、いわば<反米>の同盟のような形ができつつあると思えばいいでしょう。今はまだはっきりとした中露軍事同盟という形にはなっていませんが、思惑の一致した両者は今後さらに深く、密接に結びついていくでしょう。
 そしてその両者の力を結集した勢力は、中国を中心とした大きな経済圏を目指す一大勢力に成長していって、世界に多大な影響を与えるようになっていく可能性があります。
 欧米や日本を中心とした西側諸国の連携に対して、中国を中心としてロシアや反米の中南米、中東までも巻き込んだ大きな陣営が東側陣営として結束してくる可能性があります。
 これは世界の新しい対立軸であり、いわば<新冷戦>の始まりと言えるでしょう。

 すでにこの<新冷戦>がもたらす影響が随所に出てきた模様です。
 経済的にみると、人民元の流通の拡大です。今回ロシアは、ウクライナを巡って米国をはじめとする欧米各国から金融制裁を受けました。ロシアの企業はこの制裁によって、欧米市場での資金調達が困難になったのです。
 一方で資源という大きな武器を持っているロシアが、簡単に欧米側に屈するわけはありません。しかしロシア企業も、世界的な資金調達ができなければ窮地に陥ってしまいます。
 そこでロシアとしては中国を頼り、中国を介した経済的な取引にシフトしたわけです。

●ロシアの巧妙な通貨対策
 具体的には、ロシアが今進めているのは、天然ガスをはじめとした資源を今までの欧州に輸出するのではなく、中国に輸出して、尚かつその代金をドルでなく人民元でもらっておこうというわけです。さらにドルが必要であれば、ドルと同じ価値を有して流動性があり、尚かつ米国の影響力が及ばない地域でドルに類した為替取引できればいいわけです。
 それが香港です。ロシアは今、香港ドルを大量に保有するようになったのです。香港ドルであればドルにリンクしています。また人民元もドルにリンクしています。この両者を保有していればドルに対して価値が減価しません。ロシア当局はロシアの有力な企業に、ドルに代わって資金を香港ドルへ振り替えることを奨励し、ロシア企業もそれを行っているわけです。こうしてロシアは、国家としてもドル体制からの脱皮を目指しています。

 中国を経由してドル体制の抜け穴を利用することで、今回の欧米側の金融制裁から巧みに逃れようとしているのです。一連のロシアの動きは人民元の流通拡大を目指す中国にとってはありがたいことです。
 中国の経済発展にとって、資源の安定的な確保は必要不可欠なことですが、その貴重な資源確保を人民元決済で行うことができることは長年の念願がかなったともいえるでしょう。
 かつてニクソンショックでドルの価値が大きく下がった時に、そのドルを支えた力は、中東の石油をドルで購入するという世界的なシステムだったわけです。ドルがいくら力を失っても、世界の誰でも必要とする石油の決済通貨がドルではどんな国もドルを手当てするしかありませんでした。金本位制から離脱せざるを得なかったドルは、金に代わって石油とリンクすることでその価値を維持することができたと言えるでしょう。

 そういう意味では、今回ロシアが資源輸出で人民元決済を行うようになったことは、中国にとって歴史的な意味を持つ極めて大きな、そして画期的な出来事だったと思われます。
 かように欧米からの制裁で窮地に立ったロシアですが、中国に深く接近することで生き残りをかけてきたわけです。そして中国とロシアは、お互いが深く結びつくことが大きな利益になってきたというわけです。

●中露関係の近づきから予測される日本へのとばっちり
 このような中露の結びつきが深まって、<新冷戦>が激化してくると、一番割を食うのが日本かもしれません。日本はもちろん米国を中心とした西側陣営ですし、今後もその方針に変化はありません。一方で日本にとって米国は地理的に遠く、中露とは隣同士で国境を接しています。中国とは尖閣の問題、ロシアとは北方領土の問題があります。
 この2大大国である隣国の中露が提携して、本気で日本に対峙してくると厄介です。
 <新冷戦>でも冷戦ですから、欧米側と中露が直接的に軍事的な衝突を生じさせることはありません。しかしかつての冷戦時代もそうでしたが、局地的に両陣営の代理戦争は行われてきたわけです。今はその代理戦争が、ウクライナで親ロシア派という形を取って行われています。
 その代理戦争という意味では、中国による尖閣の侵略、ロシアによる北方領土へのさらなる圧力強化などは当然ありうるわけですし、かえって<新冷戦>の代理的な衝突としてこの地域の緊張を拡大させるという選択肢は当然あるわけです。
 今まではロシアが米国をはじめとする自由主義陣営に属していましたから問題は大きくならなかったですが、今回中露が提携すると、この中露は十分に米国に対抗できる形です。
 中露にとって核を持たない日本など何も怖くありません。尖閣にしても北方領土にしても韓国との竹島にしても、日本は一方的に攻勢に出られる可能性があるでしょう。力のバランスが崩れるということは当然、新たな軍事的緊張を生み出す可能性を高めるのです。

 8月22日、米国防総省は、中国・海南島の東方の南シナ海上空で、19日中国の戦闘機が米軍のP8哨戒機にわずか6メートルの距離にまで異常接近されたと発表しました。
 米国はこの事態を<憂慮すべき挑発>と中国側を非難しましたが、中国側は米国側の非難を無視して<通常の飛行>と発表したのです。
 明らかに、米国の中国周辺の偵察飛行に対しての中国側から不快感を示した警鐘と思っていいでしょう。今まで中国は、米国に対してあからさまにこのような強気な態度には出てきていませんでした。明らかに中国側が米国に対して軍事的にも従来よりも強気に対応してきた様がみられます。これは中国が経済的にも軍事的にも力をつけてきた自信と、今回のロシアによる中国への急接近が中国側の強気な姿勢変化の背景にあることは疑いないでしょう。こう考えると今後非常に事は厄介になってくる可能性があります。

 おそらく一番の問題は、今崩壊しかけている中国の不動産バブルです。すでに中国では、主要都市の9割までもが住宅価格の下落基調となっています。中国の不動産は様々な金融商品に組み込まれていますので、不動産価格の下落は金融の問題へと発展する危険性が高いのです。
 そうなると、中国にかつての日本のバブル崩壊時のような激震が走る可能性が高いわけです。もともと選挙を経ないで権力を握っている中国共産党は、国内が危機に陥った場合、当然、国民の目を海外に向けさせるために意識的に軍事的な緊張を作り出す可能性が高いのです。そのターゲットは確実に尖閣です。そしてその中国の動きを今度はロシアもサポートする流れが生じてくるのです。
 かように<新冷戦>は日本にとって危険をはらんだ動きに発展する可能性があります。歴史の渦はダイナミックです、ウクライナで起こった緊張がロシアの変容を迫り、それがさらに拡大して<新冷戦>を生み出し、日本も知らぬ間に大きな渦に巻き込まれていくのです。

14/12

アベノミクス

14/11

バンザイノミクス

14/10

新刊『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(舩井勝仁との共著)まえがきより(※目次、舩井勝仁のあとがきも含む)

14/09

加速する物価高

14/08

新冷戦という脅威

14/07

新刊『株は再び急騰、国債は暴落へ』まえがき より

14/06

深刻化する人手不足

14/05

何故ドルなのか

14/04

株高は終わったのか?

14/03

ウクライナを巡る暗闘

14/02

中国ショック

14/01

ハッピー倒産ラッシュ


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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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