“超プロ”K氏の金融講座

このページは、舩井幸雄が当サイトの『舩井幸雄のいま知らせたいこと』ページや自著で、立て続けに紹介していた経済アナリスト・K氏こと
朝倉 慶氏によるコラムページです。朝倉氏の著書はベストセラーにもなっています。

2020.12
止まらない格差拡大

「米国は試練に直面している。個人が潜在能力を発揮できるアメリカン・ドリームの修復が必要だ」
 バイデン新政権で財務長官の就任が決まっている、前FRB議長のイエレン氏はツイッターに投稿しました。米国社会は分断が進み、昔と違って今では努力してもなかなか報われない世の中になりつつあります。
 多くの人がアメリカン・ドリーム、成功体験をイメージできません。難しい時代で先行きに希望が持てません、子供たちが親の世代より貧しくなっていく傾向です。今やこれら米国全体に広がる喪失感は米国の病理にありつつあります。かような中で人々に溜まったうっ憤がトランプ大統領を生み出し、さらに今回の大統領選挙で見せたように人々の間で激しい対立を引き起こしている原因の一つと感じます。

●世界中に広がる格差と分断の問題
 かような情勢下でイエレン氏は就任後の記者会見で、「緊急に働くことが肝要」と現在のコロナ禍の状況に強い危機感を示し、「人種や性別による賃金、住宅、雇用機会の格差などより深い構造問題を改善する義務がある」として財務長官としてこの現状に何とか解決策を見出していく決意を示しました。
「我々は意見が対立しているかもしれないが、敵ではない。今こそ我々は国民として一つにまとまり、傷を癒す時だ」
 大統領選で勝利したバイデン氏は国民の融和を呼びかけています。バイデン氏は新政権において多種多様な人材を登用、主だった人事を女性やマイノリティーで固めようとしています。何とかこう着感の強い、現状を変えていきたいという気持ちが伝わってきます。
 しかしながら格差の拡大や世の中の分断傾向は米国だけの問題ではありません。まさに世界中に広がりつつある、格差の著しい拡大や分断傾向は収まるどころか世界中、どこを見ても例外なく加速する一方なのです。多くの人にとってアメリカン・ドリームは過去のものになりつつあり、将来に対しての諦めのムードも強く、かような苛立ちがトランプ支持や反トランプの激しい対立を生み出し、双方とも過激な行動を引き起こして社会を不安定にしています。米大統領選挙はバイデン氏勝利で確定していますが、一向にトランプ氏は敗北を認めず、米国社会全体がますます分裂を深めていくようです。

 この格差の問題と国家を二分するような分断状況はもはや構造的なもののように思えます。アップルやアマゾン、フェイスブックやグーグルなど巨大IT企業が様々なところに進出してきて、まさに米国だけでなく世界中を牛耳っていく勢いです。
 マサチューセッツ工科大学(MIT)のデビット・オーター教授は一連の流れに対して「スーパースター企業が引き起こす問題」と指摘しています。
 オーター教授によれば、「スーパースター企業の出現により、収益の取り分が株主や経営者に偏り、労働者に向かいづらくなった」というわけで、中間層が没落していく傾向が止まらないというわけです。この格差の問題はますます拡大していく一方で、その背後には構造的な問題が存在しているわけです。
 かつて製造業が盛んだった時期は、労働者は比較的悪くない給料をもらい、穏やかな生活を送ってきました。現在、ラストベルト(さびれた工業地帯)と呼ばれる米国の五大湖周辺の地域では、デトロイトなど自動車産業が盛んで多くの労働者の生活は潤っていたのです。生まれた地に一生住み続け、家庭を持ち、安定した生活を送るという平凡ながら当たり前のような幸せを享受していたケースがほとんどでした。
 ところが時代の波は残酷で、自動車産業は高賃金の米国を嫌って新興国へと次々と移転していきました。こうして人々は職を失っていきました。かように職を失った後でも、いい仕事が現れてこないという厳しい現実がありました。
 昨今、ITなどの新しい産業が芽生えて、株式市場も好調、米国全体でみれば、経済は活性化しつつあるのですが、製造業を中核として栄えてきたラストベルトのように地域によって光は当たらなかったのです。IT産業においては勝者総取りのようなところがあり、また広範囲な雇用を生みづらいという一面もあるわけです。
 かつて米国では製造業が盛んでしたから、製造業においては工場などで働く多くの人が必要で、それらの人のたゆまない労働で製造業が栄えてきました。多大な労働者を必要とする製造業においては、その収益体制からも労働者を手厚く扱い、収益の多くの部分を賃金として労働者に還元してきたわけです。
 ところがIT産業は違います、IT産業において収益が労働者に向かいづらくなってきたのはそれなりの理由があるからです。
 現在IT大手企業が世界を席巻しつつあるわけですが、これらIT大手は卓越したイノベーションを引き起こすことにより、低コストで優れた製品やサービスを大量に売ることができるわけです。この場合、たくさんの人を雇ったり、高い賃金を支払ったりする必要がないわけです。一方で収益は爆発的に伸びていきますので、その結果、会社は巨額の利益を上げることができるようになりました。こうなるとその利益の還元ということで、株主や経営者だけにその分け前が行くようになります。結果、過去の時代に比べて株主や経営者は不釣り合いなほど膨大な収入を得られるようになってきたわけです。
 普通、ないしはかつての時代では、労働市場がひっ迫してくれば、企業は高い賃金を支払って不足している労働者を雇用するしかありません。この場合、企業収益の中から労働者に支払われる分け前部分が大きくなるわけです。こうしてかつてはいわゆる企業収益における労働分配率は高かったのです。

 ところがこの傾向が昨今は全く生じてきません。では、労働者は余っていて失業率が極めて高いのか、といえば、もちろん今年の場合はコロナという特殊事情があったので例外的なのですが、今年だけでなく、ここまでの10年くらいを振り返っても、失業率は改善してきて、米国ではコロナ前では失業率は3.5%と歴史的に低い水準にまで下がっていたわけです。まさにコロナ前、米国は完全雇用状態だったのです。そうであれば、本来、賃金が労働市場のひっ迫状況から恒常的に上がってくるのが当然です。ところが賃金は上がってこなかったのです。なぜでしょうか?

●現在の社会の問題とは?
 これは実は不足していた仕事の質に関係しているのです。仕事はあっても、スキルのいらない単純労働的な仕事ばかりが多いのです。それは日本でも同じ傾向が見られますが、例えば、最も人不足が常に言われているのが介護従事者です。さらに清掃や警備などの仕事も恒常的な人不足です。
 ところが介護にしても清掃にしても警備にしても、これらの仕事は長く続けたとしても特有のスキルが高まっていくというものでもありません。たとえば、介護の仕事も清掃の仕事も警備の仕事も、仮に若い体力のある人材が労働市場に入ってくると、これは年をとっていれば、必然的に体力的に太刀打ちできなくなってしまいます。人を雇う方も競争ですから、できるだけ賃金を安く、長時間の仕事を任せたいとなれば、どうしても若い人の方が有利となってしまいます。かようなわけで、これらの仕事は雇用の安定性が低く、賃金も上がりづらい、という厳しい現状があるわけです。
 現在の社会の問題は、仕事が不足しているというよりは、比較的スキルの低い仕事の割合が増えているということです。一方で、現在の花形であるIT産業などでは人は多くいらないし、特に優秀な人材を少数欲しいだけなのです。ですから社会としてみると全体が潤いません。
 かような情勢がコロナ禍を経て、さらに加速しているわけです。たとえば今年になって著しく広がってきたテレワークの波ですが、これも格差が広がる一因となっているのです。
 慶應大学の大久保教授の調査によれば、テレワークの利用率は収入100万円以下では10%、200万円から300万円では10〜15%、400万円から500万円では20〜30%、そして600万円から700万円では30〜40%、800万円から1200万円では40〜60%と収入の増加に従って、綺麗にテレワーク利用率が高まっていくというのです。
 実際、低所得者に多い、対面サービスなどの仕事はテレワークは不可能です。ところが知識を必要とする比較的高度な仕事はテレワークが可能なケースが多いわけです。そして今回のコロナ禍を契機として新しく始まったテレワーク活用の波はますます広がっていくでしょう。これではデジタル化に乗った高度な知識を有する仕事しか現在の変化の恩恵は受けられないというわけです。

 誠に皮肉ではありますが、今までも格差拡大傾向が顕著になりつつあったのですが、今回のコロナ禍の波を経て、かような動きがさらにはっきりして、この傾向がますます強まっていくわけです。
 菅政権はその成長戦略として「デジタルとグリーン」ということで、生産性の効率を重視するデジタル化と新しい産業として、環境関連を重視するグリーン化を推し進めていくようです。ここでも格差はますます広がっていくわけです。かように時代の波は残酷です。皆が格差拡大を止めなくてはならない、と感じていると思いますが、政府も政策として生産性の向上を目指すしかなく、その帰結はまた格差の拡大となっていくわけです。時代は自分たちの思うように動くわけではありません。しっかりと現実を見つめ、向き合っていく必要があるのです。

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暴走する日銀相場『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)に引き続き、『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)が2009年5月に発売。その後 家族で読めるファミリーブックシリーズ『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)が同年5月30日に発売。さらに2009年11月には、船井幸雄と朝倉氏の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)が発売され、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を、2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』 (徳間書店)を発売、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』を発売、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

★朝倉慶 公式HP: http://asakurakei.com/
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Profile:朝倉 慶(あさくら けい)

K朝倉慶経済アナリスト。 株式会社アセットマネジメントあさくら 代表取締役。 舩井幸雄が「経済予測の“超プロ”」と紹介し、その鋭い見解に注目が集まっている。早い時期から、今後の世界経済に危機感を抱き、その見解を舩井幸雄にレポートで送り続けてきた。 実際、2007年のサブプライムローン問題を皮切りに、その経済予測は当たり続けている。 著書『大恐慌入門』(2008年12月、徳間書店刊)がアマゾンランキング第4位を記録し、2009年5月には新刊『恐慌第2幕』(ゴマブックス刊)および『日本人を直撃する大恐慌』(飛鳥新社刊)を発売。2009年11月に舩井幸雄との初の共著『すでに世界は恐慌に突入した』(ビジネス社刊)、2010年2月『裏読み日本経済』(徳間書店刊)、2010年11月に『2011年 本当の危機が始まる!』(ダイヤモンド社)を、2011年7月に『2012年、日本経済は大崩壊する!』(幻冬舎)を発売。2011年12月に『もうこれは世界大恐慌』(徳間書店)を、2012年6月に『2013年、株式投資に答えがある』(ビジネス社)を、2012年10月に朝倉慶さん監修、ピーター・シフ著の『アメリカが暴発する! 大恐慌か超インフレだ』(ビジネス社)を発売。2013年2月に『株バブル勃発、円は大暴落』(幻冬舎)を、2013年9月に『2014年 インフレに向かう世界 だから株にマネーが殺到する!』(徳間書店)を 、2014年7月に『株は再び急騰、国債は暴落へ』(幻冬舎)を、2014年11月に舩井勝仁との共著『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を発売、2015年5月に『株、株、株!もう買うしかない』、2016年3月に『世界経済のトレンドが変わった!』(幻冬舎刊)を発売、最新刊に『暴走する日銀相場』(2016年10月 徳間書店刊)がある。

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