写真
2010年にんげんクラブ全国大会ステージ上にて
(写真撮影:泉浩樹)

「天律時代」の到来に向けて

このページは、(株)船井本社社長で「にんげんクラブ」を主催する船井勝仁によるコラムページです。船井勝仁は「これから“天律時代”が来る。そして一人ひとりが“うず”を作っていくことが大事になるだろう」という思いを持っています。それをベースにおいた日々の活動の様子や出会い、伝えたいことなどを語っていきます。

また、「船井幸雄の息子」ではなく、“船井勝仁”の独自性をさらに打ち出していくこともテーマに、これまで父に寄せてきた思いや、「二代目社長」としての方針も語っていきます。

左上 「うず」のイメージ(画:西口貴美)
2012.12.01(第71回)
Wise Leader

 現在、私たちが一番必要としているものは何かと考えた時に出会った言葉が“Wise leader”でした。一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生の講演録を読ませていただく機会がありました。講演のテーマは「近代戦史に学ぶリーダーの本質について」でした。じっくり読ませていただいたわけではないので、野中先生が言いたかったこととは違うかもしれませんが、毛沢東とチャーチルとホーチミンを例に説明をされていました。

 毛沢東は戦略が存在しないのが常識だったゲリラ戦に戦略を導入したということ、チャーチルは大艦巨砲主義から航空機が主体の戦略を生み出したということ、そしてホーチミンは参謀と寝食を共にして徹底的に毛沢東が体系化したゲリラ戦のあり方を現場主義でやり切ったことが紹介されていました。
 それに対して、第二次大戦時の日本軍は都合19回アメリカの海兵隊との戦いにまみれることになったのですが、そのすべての戦いで有効な対応策を立てられずに負けてしまったことが紹介されています。大きく善戦した唯一の例外が、栗林中将が率いた硫黄島の戦い。優秀なリーダーだった栗林中将が硫黄島内を徹底的に歩き、その地形を知悉(ちしつ)して考えに考え抜いたことがその原因ですが、残念ながら日本軍としての全体的な戦略には至らずにその後の戦いの教訓にはならなかったのです。

 また、山本五十六聯合艦隊司令長官もチャーチルと同じような航空機を活用した戦略の重要性には気がついていたのですが、それを徹底的に考えることをせずに、せっかくの真珠湾攻撃の成功をその後の海戦では有効に活かすことができませんでした。
 なぜ、日本軍が適切なリーダーを出せなかったという仮説を考える上で、日本人が形而上学的に考えることが苦手で、哲学的な思考が苦手なことに原因があるのではないかという野中先生の考えを読んで思い当たることがありました。
 白鳥哲監督の「祈り」という映画が話題になっています。日本国内でもロングランになったり、にんげんクラブの支部での自主上映の動きが広まったりしていますが、海外でもスペインやアメリカの映画祭に招待されグランプリを取っています。その大きな原因はこのドキュメンタリー映画の主人公である村上和雄筑波大学名誉教授の主張を、アメリカ人の識者を使って哲学的に語らせていることにあると思ったからです。
 日本人である私たちにとっては村上先生の主張は説明されなくても感覚的に共感できるすばらしいものです。でも、もし村上先生だけのインタビューと再現映像だけで構成されている映画であれば、村上先生の本当に深いところにある主張は表現できなかったのではないでしょうか。もちろん、英語で村上先生にインタビューをしていれば別な話かもしれませんが、日本人の白鳥監督が日本人の村上先生に英語でインタビューするというのもおかしな話です。

 武士道という精神を持っていた過去の日本のリーダーは、言葉にならない哲学でこれを伝えることができたのだと思いますが、残念ながら武士階級というリーダーたちが正しい死生観を日常的に持たされていた時代とは違います。それを言語化することで表現できる“Wise Leader”の出現がいまの日本には待ち望まれているのかもしれません。

 「日本未来の党」ができたことによって12月16日の衆議院選挙の様相が変わって来ました。藤原直哉先生がご自身のウィークリーレポートで書かれていましたが、接戦が伝えられていたアメリカ大統領選挙で、既得権益を大事にしたい勢力が、何が何でも勝たせたいと思っていたロムニー候補が前評判の接戦にもならずにオバマ大統領に大差で負けてしまったように、世界的な趨勢は右傾化に待ったをかけていきたいという政策が指示を集めるようになっています。
 自民党と民主党、それに日本維新の会という実は右傾化している政党ばかりが目立つ選挙戦を演出することで、その流れに逆らおうとしていた日本の政治が「原発はゼロにする、消費税は増税しない、TPPには反対」というリベラルな主張をしようとしている大きくて力を持っている新党ができたことによって、世界的な潮流に乗る兆しが出てきました。

 でも、ここで“Wise Leader”が出て来ないで、ただ「卒原発」だけをテーマに選挙戦を戦って勝っても日本の政治は決して良くならないと思います。小泉選挙で郵政改革に賛成か反対かだけが争点になってしまったような愚かな争いにはもうなってほしくありません。
 例えば、私はTPPには反対ですが、中国やロシアやインドなどの国家資本主義的な諸国と日米欧などの先進国はどう付き合えばいいかという問題がTPPを考える上でのアメリカサイドからの本質的な投げかけと考えられるならば、ただ感情的に反対論を述べるだけではなく、それに対抗するこれからの社会のあり方を提案していかなければならないのだと思います。

 野中先生の講演録が載っている同じ雑誌にハーバード大学ビジネススクールの唯一の日本人教授である竹内弘高先生の講演も紹介されており、日本語でいう「場」は英語にならないので“Ba”とそのままの日本語で紹介しているが、あえて例えると「バー“Bar”」のようなものだと説明すると大体のニュアンスは分かってくれるという説明がありました。
 “Wise Leader”と呼ぶにふさわしいリーダーがこの選挙戦で現れてきて、それをしっくり来るような日本語で例えることができたら、本当にいま必要なリーダーが現れてきた証拠になり、この選挙をきっかけに日本がいい方向に向かうということが感じられるのかもしれないと思っています。他人事にせずに哲学を持って一人ひとりがしっかりと考えていくことが大事だと思います。


『未来から考える経営』表紙画像
『未来から考える経営』
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Profile:船井 勝仁(ふない かつひと)

1964年 大阪生まれ。1988年 (株)船井総合研究所 入社。1998年 同社 常務取締役。同社の金融部門やIT部門の子会社である船井キャピタル(株)、(株)船井情報システムズの代表取締役に就任し、コンサルティングの周辺分野の開拓に努める。2008年 (株)船井本社 代表取締役社長就任。父・船井幸雄の「競争や策略やだましあいのない新しい社会を築くことが本来の自分の役割だ」という思いに共鳴して、持ち株会社である同社の代表取締役社長として父をサポートすることを決意した。 著書には、『中堅・中小企業のためのIT化時代の「儲け」の決め手』(船井幸雄らとの共著 2003年 ビジネス社)、『天律の時代が来た! 生き方の原理を変えよう』(2010年 徳間書店)、『いま明かされるコトダマの奥義』(2011年1月 新日本文芸協会) 、『未来から考える新しい生き方』(2011年9月 海竜社)、『失敗から学ぶ』(2012年7月海竜社) 、『未来から考える経営』(2012年10月 ザメディアジョン)などがある。
『未来から考える経営』表紙画像
★にんげんクラブ:http://www.ningenclub.jp/
★船井勝仁.COM:http://www.ilir.co.jp/funai_katsuhito/

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